【第26回】
「神の方が先に動いたらしい」と、俺は告げ、その視線を胡桃から、東雲と侑紀へ移す。
「どういう事?」という、東雲の質問に俺は答えた。
「確かに今、エロいシーンを想像したのは事実だ。しかも、その対象は胡桃だけ。東雲と侑紀でも妄想……、もちろん、それはエロシーンだが、それを行った処、失敗する。まぁ、二人に対しては『心理的な壁』が存在するから、それは出来ないと考えていたが、その通りだった。しかし、胡桃は別だ。彼女に視線を向けた途端、エロいシーンが炸裂する。しかも、俺は、それを想像しようとは、していない。つまり、何者かが、その場面を俺の脳内に流入させたんだ。その『何者か』は、容易に想像が付くだろう」
「そういう事ね……」と、東雲が呟き、侑紀は、その首を小さく縦に何度か振った。
ここで胡桃が口を挟む。
「ご主人様は私を使って、どんなシーンを想像したんですか!」
その顔は相変らず、紅潮したままだ。かなり動揺していると俺は推察した。その証拠に、彼女は、「私を使って、どんなシーンを想像したんですか!」と、「俺が自主的に想像した」というスタンスで質問している。「何者かが、そのシーンを俺の脳内に流入させたんだ」と、明言しているにも関わらず……。
胡桃の問いに俺は答える。
「胸と下腹部は手で隠していたが、全裸のまま立っていた」
その言葉に胡桃は一瞬、安堵の表情を浮かべたが、顔は赤らめたままである。
(胡桃は、かなり〈進行した〉エロいシーンを想像したな)と俺は考えていた。
しかも、先程、彼女に対して、「これは、いくら何でも、胡桃に失礼だろう」という言葉を使い、妄想の対象にした事を告げている。だから余計に、(何を想像したの!)という羞恥を伴った疑問が強く芽生えたに違いない。
一方、俺の脳内に流入されたシーンが『全裸だったが、胸と下腹部は隠した状態で立っていた』という程度だと知り、一瞬だが安堵の感情が発現したと理解する。
俺は冷静に口を開いた。
「おそらく、神は俺との初コンタクトに際して、東雲が『神の話』をした時の様に『エロいシーン』を用いて、その印象を強くしようと考えたのだろう。もし、その手を使おうとした場合、『心理的な壁』が存在する東雲と侑紀はエロの対象に出来ない。そうなれば、唯一、その壁がない胡桃を登場させるしか、なかった。その上、目の前にいる人物を使った方が、そのインパクトが大きくなるからな」
俺は、そう話しながら、自らが抱いた、(何故、エロシーン……、しかも、胡桃が登場するんだ?)という疑問を自己解決してしまう。
更に加えるのなら、神が俺と胡桃に関して、「絡んだシーン」を見せなかったのは、必要以上に興奮してしまう事態を避けたものだと推測した。
(その点に関しては、微妙なバランスを保たせたな……)と、感心した程である。
※
午後七時半。
俺達は夕食として、胡桃が作ったパスタ……、ぺペロンチーノを食べていた。
(これ、かなり美味いぞ!)と思いながら、俺の前に座った胡桃の顔を見る。もう、エロい妄想が爆発する事は、なかった。それは俺が「神の目論見」を見破った証拠とも言えよう。よって、神は、それ以上の事をしなかったと推測した。
その食事も終わり、胡桃が使用した食器類を洗い始める。この間、俺は東雲と侑紀に、ある提案を行った。
「神の方から俺に接触して来た事を考えると、東雲や侑紀を通してではなく、直接、神から話を聞いた方が早いと思う。これまでの話から推測すれば、夢の中に『白い光』が現れ、神の声が聞こえる筈だ。おそらく、同じ手法を使って、俺に何だかのメッセージを伝えるだろう。
そこでだ。今日の処は事実上、散会にし、神が俺に対して、『何をさせたいのか?』を直接聞く時間を与えてくれないか?
夏休みも、あと二十日。はっきり言えば、あの量の宿題には閉口しているが、それを片付けながら、神の出方を待ちたいんだ。だから、当初の予定通り、もう、夏休み中は君達と会わない。全ては九月になってからという事で、どうだろう。もし、神が何だかのアクションを起こし、夏休み中に会わなければ、ならない事態が発生すれば、別だが……」
その申し出を東雲と侑紀は了承した。




