【第25回】
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俺達は、ここで休憩に入る。同時に東雲の部屋を満たしていた妙な緊張感が和らいだ。
「頭が疲れた!」と声を発したのは、東雲である。それは俺も感じていた。おそらく、侑紀も、そうだろう。
その言葉に、胡桃が動く。
「小さいですけど、一応、バースデイケーキがありますから、切り分けましょう。糖分が多く含まれていますから、脳への栄養補給にもなると思います」
(そういえば、今日は一応、『誕生日パーティ』という〈名目〉で集まっていたんだよな……)
俺は胡桃の声を聞きながら、そう考えていた。
ソファテーブルの上にある大皿に置かれたケーキにナイフを入れ、四等分し、胡桃は部屋の片隅にあるキッチンから、小皿とフォークを用意して、各々の前に小皿を置き、そこに切り分けたケーキを乗せる。それが終わった後、彼女はティーポットを使い、新しい紅茶を作り始めた。その手際は、かなり良い。
(趣味という面では問題があるが、胡桃と一緒に暮らすと、楽かも知れないな。しかも、可愛いし……)
そう思った瞬間、俺の妄想が爆発した。しかも、かなり〈エロい〉方向性を持って……。
俺はケーキを食べながら、胡桃に視線を向ける。俺の脳内には、既に半裸状態の彼女がいた。
オリジナルのメイド服は着たままたが、その胸元は大きく〈はだけ〉ている。ブラジャーは付けておらず、その胸が〈丸見え〉だった。その上、俺の妄想とは思えない程、相当、リアルな胸が……。
胡桃の右足元にはパンツが〈引っ掛かっている〉状態……、つまり、今、彼女は〈ノーパン〉なのだ。
頭の中で胡桃が呟く。
「ご主人様、私、もう我慢出来ません……。早く、私を……、早く快楽の世界へと、お導き下さい……」
ここで俺は東雲と侑紀の視線に気付く。それは、真っ直ぐ俺の顔に向けられていた。そして、東雲が言葉を発する。
「ねぇ、勇介、もしかして、胡桃ちゃん相手にエロい妄想をしていない? 顔が紅潮し、鼻の下が伸びているわよ!」
俺には返す言葉が、なかった。正に、その指摘通りだからだ。
「勇介ったら……」と、侑紀は強い軽蔑の感情を、その顔に浮かべながら呟く。
東雲の話を聞き、それに反応しない……、いや、正確には出来ない俺に対して、胡桃は顔を赤らめ、「そんな事、考えていたんですか! ご主人様は!」と、少し強めの口調で非難した。
「あっ、その……、ごめん……」
俺は、やっとの思いで、それだけを口にしたが、冷静さを取り戻し始めたのも事実である。そして、(何故、今?)という疑問が湧く。
次の瞬間、自分でも、その表情が変化した事に気付いた。それは、かなり真剣な顔付きになっていた筈である。
他の三人も、俺の変化を見逃さなかった様だ。侑紀が、「勇介に少しの間、考える時間を与えましょう」と、助け船を出す。
ここまでの会話で「エロ」の要素は皆無であった。それにも関わらず、俺は胡桃に対して、「エロい妄想」を始めてしまう。しかも、それは正に、〈爆発状態〉だった。俺は何の脈絡もなく、胡桃を半裸状態にしてしまったのだ。通常なら、そこに至るプロセスを考える筈なのだが、それが、ない。
(何かが変だ……)と思いつつも、ただ単に〈変〉という感覚しか持てなかった。
俺は、その視線を東雲に向け、エロい妄想を試みる。だが、それは案の定、失敗に終わった。侑紀に対しても同様である。しかし、胡桃に、その視線を向け、その妄想を始め様とした途端、それが爆発した。
俺の脳内では既に、全裸の胡桃が想起されている。彼女は右腕で胸を、左手で下腹部を隠していた。その瞳は羞恥と共に期待で輝いている。そして、自分の意思とは関係なく、胡桃の声が頭の中で響いた。
「ご主人様、私だけ、この恰好、恥ずかし過ぎます……。ご主人様も、早く裸になって下さい……」
その言葉を聞いた瞬間、俺は理解した。
(これ、俺が妄想しているのでは、ない。何者かによって『送り込まれている』のだ!)
その「何者か」が「神」である事に俺は気付いている。
(神の方から、コンタクトを取って来たな)と、確信しつつも、(何故、エロシーン……、しかも、胡桃が登場するんだ?)という疑問が新たに湧いた。




