【第19回】
「不思議なもので勇介に限っては全然、気にならないの。これが他の男子なら、いくら私でも許さない。でも、本当に勇介は別。いや、(どんなエロいシーンを考えているんだろう?)と、興味すら覚えるんだ。実は今も、そう。(かなり、際どいシーンを想像しているんだろうな)と思ったら、そこまで至らない内に『興味が失せる』という内容の話をされたのよ。ショックだわ……」
「私、東雲の心理が理解出来ない……」と言いながら、侑紀は溜息を漏らす。
俺は、ここで口を開いた。
「この現象、侑紀にも言えるんだ」
「もしかして、勇介は私もエロの対象にしたの?」
驚きよりも、怒りの感情が強く込められた侑紀の問いに俺は、「した」とだけ、冷静に告げてから、続きを話す。
「さっきも言った通り、俺にとって侑紀は、その胸を除き、『見た目』という意味でパーフェクトな女子だ。健全な男子なら、エロという意味に於いて、簡単に妄想の対象に出来る存在とも言える。だが、それが出来なかった。いや、もっと正確に言えば、侑紀の下着姿を見ているにも関わらず、それが想像出来ない。いくら、エロい事を考え様としても、右胸にあったホクロだけが想起され、それ以上の進展は全くないんだ」
「うーん」と言って、侑紀は考え込んでしまう。その後、東雲の部屋が静寂に満たされた。
しばらくして、侑紀の口が動く。
「さっきの『巨乳の件』もショックだったけど、冷静に現状を把握すれば、この話もショックよね……。つまり、勇介は私に『女を〈全く〉感じていない』って事でしょう?」
「いや、そうじゃないんだ」と言ってから、俺は言葉を続けた。
「今も言った通り、侑紀は『見た目』という意味で恋愛対象になり得る存在と言えよう。俺は、この部屋へ来るのを止めなかった理由が二つあると言ったが、もう一つの理由が侑紀なんだ。この部屋なら教室とは違い、他の男子生徒が俺に向ける視線を気にせず、侑紀の姿を見ていられる。これは、俺に与えられた〈特権〉と言っても構わないだろう。ただ、ここで注意して欲しいのは、俺が侑紀に対して、『見た目』という言葉を繰り返している点なんだ」
「確かに、侑紀の話になると勇介は、『見た目』を多用するわよね。何で?」
「これは俺の感覚的な見解なんだが、俺と侑紀との間には目に見えない『心理的な壁』がある様な気がしてならない……」
「心理的な壁?」と、口を挟んだのは侑紀である。その問いに俺は答えた。
「そう、『心理的な壁』。第一、おかしいとは思わないか? 俺は侑紀の下着姿……、しかも、かなりセクシーな下着姿を見ている筈だ。健全な男子なら、その光景を目に焼き付け様とするだろう。でも、俺は、それをしなかった。そこには、何だかの理由がある筈だが、その前に、もう一つの話をしておきたい。これは胡桃が関係する話だ」と言って、俺は自分の前に座った彼女の顔を見てから、言葉を続ける。
「胡桃にとって、不快な話になると思うが、耐えられない様なら、耳を手で塞いでも構わない」と告げ、再び、東雲と侑紀へと視線を向ける。
「俺、胡桃に対しても、エロい妄想をした事があるんだ。そうしたら、こちらは完全な暴走状態へと陥った。『これは、いくら何でも、胡桃に失礼だろう』と思いつつも、その妄想が止まらない。俺は胡桃の下着姿も裸も見た事はないが、脳内で、それが勝手に想像されて行く……」
胡桃は顔を紅潮させながらも、俺の話を聞いていた。一方、東雲と侑紀が同時に、「嘘!」と同じ言葉を発する。
「嘘じゃない」と、俺は冷静に返答してから、問題の核心に触れる話をした。
「下着姿を見ている東雲と侑紀に対して、俺はエロいシーンを想起出来ない。だが、制服とメイド服姿しか知らない胡桃に対しては、下着姿どころではなく、その裸も想像してしまった。これって、異常な出来事と言えるだろう。そして、この件を上手く説明する唯一のキーワードが『神』じゃないかと考えた訳だ」
次の瞬間、東雲と侑紀の顔から血の気が引く。俺は、それを無視して続きを話した。
「二人が言う『神の話』が本当なら、その神が関与しているのは、東雲と侑紀だけ。胡桃は対象外。つまり、神は何だかの理由で俺と東雲、そして、侑紀の間で恋愛感情……、いや、もっと、はっきり言えば、『男と女の関係』にならない様、〈細工〉をしているとしか思えない。それが『心理的な壁』だ。その推測が的を射ているのなら、この現象に対する解答にもなる。違うかな?」
東雲と侑紀は無言のまま、頷いた。




