【第16回】
(東雲は、そういう戦略を立てて、あの場に臨んだのか……)と思いながら、俺は、この場での会話に関して、主導権を握るチャンスが巡って来たのを確信した。
東雲の話からすると、元々、「下着姿」に関しては、「自分だけが行う」という考えだったと推測出来る。しかし、それを侑紀にも強要した。当然の事ながら、彼女は、それを固辞した筈だ。だが、結果として東雲に〈押し切られて〉しまう。おそらく、「私だけじゃ、インパクトが弱過ぎるわ。『神の話』を印象付ける為にも、ここは名実共に『一肌脱がなきゃならないの!』」とか言って……。
東雲自身、侑紀の〈胸〉が持つ、男への〈破壊力〉は計算済みだろう。はっきり言ってしまえば、東雲の胸は大きくない。俺個人としては、こちらの方が好みなのだが……。
それは、それとして、東雲は侑紀の胸さえも、この場で活用したいと考えたのは間違いない筈だ。だが、その目論見は大方外れてしまった。
確かに当初、俺は東雲がした耳へのキスに対して、軽い興奮を覚えたが、これが毎日となると、飽きが生じる。しかも、侑紀の下着姿には最初っから興奮を覚えなかった。
ここで、その視線を東雲から、俺の隣に座る侑紀へと移動させ、質問する。
「侑紀の下着姿は、東雲の〈命令〉によるものか?」
その問いに彼女は黙ったまま、一度だけ頷いた。その顔に浮かんだ赤味が更に増す。
俺は顔を東雲の方へ向け、言い放った。
「お前の戦略、ほぼ失敗!」
間髪を入れずに、東雲が、「それって、どういう意味?」と、怒りの感情が伴った声を俺に発する。それは自らが立てた戦略の結果が「否定」という形で告げられた事に対する反感なのは、間違いないだろう。
東雲の言葉を無視し、侑紀に対して、「こういう言い方をされるのは、不快かも知れないが、少しの間、我慢して欲しい」と告げた。侑紀は黙ったまま、首を縦に一度だけ振る。それを確認してから、俺は話し始めた。
「〈例の夢〉に関して、俺は侑紀の顔を確認していないんだ。『私は、『破滅させる方策』を考える神と関係がある。これだけは、覚えておく様に……』と言ったのが、侑紀の声だった為、そう認識したまでだ。更に加えると、侑紀の姿に関して、覚えているのは、ブラジャーから溢れんばかりの、その胸だったが、興奮にまで至っていない。はっきりと言ってしまえば、俺、〈巨乳〉が苦手なんだ……」
「えっ!」と、声を上げたのは東雲である。その顔には驚きが刻まれていた。胡桃も同様の表情を浮かべている。侑紀の顔にも驚きが現れていたが、東雲や胡桃のものとは、その質が異なっていた。
俺は続きを話す。
「侑紀の事を『見た目』という視点だけで言わせて貰えば、俺が理想とする女性像に限りなく近い。最初に会った時、(モロ、好み!)というのが第一印象だったし、(俺の心は鷲掴みにされた!)と感じ、その心境は今も変わらない。あくまでも『見た目だけ』なら、俺は侑紀に『惚れてしまった』んだ。だが、そんな侑紀に対して、一つだけ……、繰り返しになるが、『見た目』という点で一つだけ、不満がある。それが〈大きな胸〉。その所為もあるのだろう。〈例の夢〉に登場する侑紀に関して、印象に残っているのは右胸にあった〈ホクロ〉だけだ。確かに、侑紀は、かなり際どいブラジャーをしていたが、ほとんど気にしていないし、パンツに関しては、全く記憶がない」
「うっそー、そうなの!」と、東雲が悲痛な声を上げる。同時に侑紀の顔からも驚きが消えたが、その代わりに困惑の表情が浮かび上がった。
東雲が、そのまま声を発する。
「侑紀の胸は勇介……、いや、男子なら誰でも興味があると思って、お願いを続け、やっと、下着姿になって貰ったのに……。しかも、胸の露出度が大きいブラまで用意したのよ! それなのに、『興奮にまで至っていない』って、どういう事! その上、『パンツに関しては、全く記憶がない』って! あれも無理矢理、履かせたんだ! セクシーなやつを!」
そう訴える彼女の目から、落胆と疑惑の色を俺は感じた。明らかに、(あんた、それでも男?)という視線である。
その一方、東雲が、「あれも無理矢理、履かせたのよ! セクシーなやつを!」と、表現したパンツに関しては、(もっと、よく見ておくべきだった!)と、後悔の念を抱いたが……。




