【第14回】
ここで侑紀が口を挟む。
「東雲は本当に勇介との再会を喜んでいたんだ。これは嘘じゃないのよ。入学式の前……、クラス発表の際、自分と同じ一年一組の欄に『鍋島勇介』の名前を見付けた瞬間から、その興奮度が増して行く。少しして、勇介の姿を実際に確認したんだ。その直後、『幼馴染みと同じクラスになれた!』って、嬉々とした表情を浮かべ、私にそう言ったの……。しかも、かなり、〈はしゃぎ〉ながら……。私、中学校から東雲とは付き合っているけど、心の底から喜ぶ姿は、この時、初めて見た。『東雲って、鍋島君の事が好きなのかな?』と、本気で思った程……」
侑紀の口が止まったのを確認してから、東雲が話し始めた。
「私、勇介に対して恋愛感情は持っていないと思う。でも、この再会には心を躍らせたんだ。『まさか、ここで会えるとは!』って。だから、私、強硬策に出る。それは毎週土曜日に、この部屋へ来て貰う事。その時、勇介は胡桃が作った昼食を食べて寝ちゃったよね。実は勇介の食事だけ、軽い睡眠導入剤を混ぜていたんだ……」
(うわー、それ、本当だったのか!)
俺は昼食後、必ず寝てしまう事実に、(もしかして、胡桃が作る昼食、俺のだけ、睡眠薬を混ぜていないか……)と思ったが、それが現実だった事に驚きつつも、怒り等の感情は芽生えなかった。
当然の様に、(何故、そうした?)という疑問が浮かんだが、それは追々、東雲が説明してくれるだろう。今は俺の方から口を挟まず、彼女の話を聞こうと考えていた。
東雲の言葉が続く。
「ここで登場するのが、胡桃ちゃんなの」と言って、東雲は一度、胡桃へと視線を向けてから、俺の顔を見る。
「胡桃ちゃんは私達が求める『ある人物』か、どうか、判別出来る能力を持っているんだ。その方法は候補者の手を握るというだけ。右手でも左手でも構わないんだけど、胡桃ちゃんが両手で、その手に触れ続けるの……」
「もし、ご主人様のお許しが頂ければ、その時の様子を再現しますが……」という胡桃の声に、「お願いする」と俺は応じた。それと同時に隣に座っていた侑紀が立ち上がり、そこへ胡桃が腰を降ろす。
「膝の上に、ご主人様の右手を置いて頂けますか?」という胡桃の言葉に俺は従った。
胡桃は左の掌を上にして、俺の右手と膝との間に滑り込ませ、自らの右手を俺の手に置く。俺の右手が胡桃の両手で〈包み込まれる〉形になった。
東雲が再び話し始める。
「これで準備完了。あとは胡桃ちゃんの能力が発揮されるのを待つだけなんだけど、本当に『ある人物』か、どうかは、直ぐに解る訳でもないのよ。一回に最低でも三時間、更に、何日も、これを続けないと、その判定が出来ないんだ」
(それで俺は毎週、この部屋へ呼ばれる様になったのか……)と、これまでの経緯を納得した。
「胡桃、もういいよ」と俺が告げると、「解りました」と言って、彼女は俺の手から自らの手を離す。そして、定位置というべき、俺の正面に座った。同時に侑紀も俺の隣に腰を降ろす。
それを確認してから、東雲の口が開いた。
「一学期の期末試験が始まる前に勇介が『ある人物』だと確定したの。それで私達は次の行動に出たんだ。それが期末試験後の土曜日……、勇介が〈例の夢〉を見る様になったあの日……。この時、私は自分が関係している『神』の力を借りて、〈ある事〉を行う……」
(遂に『神』の話になるな……)と思いながら、俺は東雲の言葉を待つ。
「先に言葉の定義を行うね。私達が言う『神』とは、宗教とは無縁の存在。だから、宗教の話で出て来る神は便宜上、『ゴッド《God》』と呼んでいるの」
その言葉に俺は黙って頷く。もちろん、「了解した」という意味である。
東雲の話が続いた。
「まず、眠っている勇介の服を脱がせたの。私と胡桃ちゃんとで……。その目的は、これから起こる事を少しでも印象付け様としたからなんだ。私、『ついでだから、パンツも脱がしちゃえ!』と言ったら、侑紀に怒られちゃった。『そこまでする必要はないわ』と!」
ここで東雲は悪戯っぽさが含まれた表情を浮かべたが、直ぐに真剣な顔付きへと戻り、続きを話す。
「その後、私は自分と関係がある神の力を借りて、睡眠導入剤によって寝てしまった勇介を半分覚醒させ、『起きている様な、寝ている様な』という状態を作ったんだ……」
俺は、その言葉を聞きながら絶句する。
(これって、現実の出来事だったんだ……、そうなると、あれは!)




