【第11回】
この補講授業は一学期の終業式前日まで続けられる。そして、その日の六時間目は特別にロングホームルームとなり、全生徒の出席が求められた。ここで「夏休みの宿題」……、しかも、担任の先生から、「宿題が課せられる全科目」の『夏休みの課題』と称した、複数枚のプリントが配られるのである。それは有無を言わさぬ〈宿題の通知〉であった。更に、その量も半端では、ない。
俺は結局、部活動等には参加しない「帰宅部」を選んだが、夏休みに練習等がある部活動を選んだ生徒は、(かなり大変な事態に、なりそうだな……)と考えていた。
その意見は、東雲も、侑紀も、胡桃も同様である。ちなみに、この三人も帰宅部であった。
終業式が終わった後、俺は東雲の部屋へと向かう。そして、二学期が始まるまで、ここへは足を運ばないつもりだった。
食事作りと洗濯を行っている伯母への負担を軽減する為、長期の休みは実家へ戻る事になっていた為だ。
だが、この時、「八月十日は集まろうよ」と、東雲からの提案を受ける。俺は、この時、初めて知ったのだが、侑紀も胡桃も誕生日が八月十日だったのだ。
(何か、凄い確率だな……)とは思ったが、それ以上の詮索をしても意味はない。
この日の夜に親父が車で迎えに来る。教科書等を持って実家へと帰るのだ。その関係もあり、俺は、ここには長居せず、アパートへと戻った。
※
実家へ帰った後も毎晩、〈例の夢〉を見る。しかも、全く同じものを……。
同じ夢を見続けるのは、深層心理に関係があると、何かで読んだ記憶があるが、その詳細は覚えていない。そこで夏休みの宿題をする傍ら、この夢の分析を俺は始めた。
まず、この夢には二つのセクションが存在する。
一つは下着姿の東雲と侑紀だ。これは「俺の願望」……、即ち、彼女達の「裸が見たい」という「心の叫び」と、捉える事が出来る。俺も健全な男子だ。その点は否定しない。
もちろん、俺は彼女達の裸を見た事がない為、〈全裸〉ではなく、〈下着姿〉だったと推測してみたが、その下着姿すら、俺は見ていない……、東雲のパンツは別だが……。
(何故、下着姿?)という疑問が俺の中で渦巻く。しかも、それを解決する糸口すら見出せない状況だった。
そして、もう一つのセクションが「神の話」である。
俺は宗教を信仰していない為、宗教が言う処の「神」は、信じていないが、「人智を超えた〈何か〉が、存在しても構わないのでは、ないか?」と、以前から考えていた。しかし、それが夢の中に出て来た「人間の行動を観察する存在」となると、「何のこっちゃ?」となってしまう。
第一、「神の話」は、俺の深層心理内にある〈何か〉が具象化して、夢になったとは思えない。俺は常日頃から「神の存在」を考える様な人間では、ないからだ。
(東雲や侑紀の下着姿は、ともかく、何故、毎日、『神の話』が登場する夢を見なくては、ならないのだ?)
俺の疑問は、この一点に集約している。そして、それに関する回答を導き出せずにいた。
半面、俺は徐々に、この「神の話」へと引き込まれ始める。
家の近所には中学生時代の同級生が何人か住んでいるが、友達という関係でもない上、違う高校へと通っている為、現状で、その接点はない。端的に言えば、俺は「遊び相手」がいないのだ。しかも、大量に出された夏休みの宿題と格闘する日々を送っている。その様なストレスが溜まる生活の中で、この「神の話」に関して妄想する事が一種の〈息抜き〉となり始めた。
(『神の立場』とは、蟻の生態を観察する人間みたいなものか?)
何故か俺は、この妄想を始めた際、「ヒト」の代わりをする対象として、〈蟻〉を選んでしまう。そこには大した意味はなかった。ただ、(蟻の巣全体が見えると面白いだろうな……)と、思っただけである。
だが、この選択は正解だったかも知れない。何しろ蟻は高度な社会生活を送っている昆虫だ。しかも、「働き者」という印象が強い〈働き蟻〉でさえ、一生懸命働いているのは、わずか二割程。普通に働くのが六割。そして、「働かない蟻」が二割もいるらしい。
この事実を知った時、(まるで人間の世界だな!)と「膝を打つ」心境になった程だ。
俺は蟻を使い、「神の話」を具体化する妄想を始めた。




