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パンチラと神  作者: 橋沢高広
1/44

【第1回】

 ※


 県内でも有数の進学校である「大歳おおとし学園高等学校」へ入学したのは、俺ではなく、親父の希望が強かったという側面があった。

 大歳学園高等学校……、通常は「大歳高校」と呼ばれているが、県内の最西部にある高校へ、最東部の町に住む生徒が受験する例は少ない。何故なら、県内の東部にも、大歳高校と匹敵する進学校があり、そちらを受験するからだ。

 親父は大歳学園の理事長と友人であり、〈呑み仲間〉でもあった。その呑み会で親父は俺の事を理事長に、よく話していたらしい。その結果、「うちの高校を受験してみないか?」という事態へと発展する。もちろん、県内でも一番東側にある中学校に通っていた俺は、この誘いを断った。

 中学校時代、成績は良い方であったが、大歳高校へ入学する為には相当な受験勉強をしなければ、ならない。東京大学を含む、有名大学受験を考えた場合、進学校である大歳高校は魅力的な存在であったが、俺は県内にある大学に入学出来れば、(それで良い)と考えていたのだ。

 幸か不幸か、中学校時代、俺には友達が少なかった。別に嫌われていた訳じゃないが、積極的な人間関係を構築しなかった為、クラスメイトとは微妙な距離感が出来てしまったのである。その結果、親友と呼べる者は、いない半面、文化祭や体育祭等、クラス単位で行動する際に〈除け者〉となる事もなかった。その様な理由もあり、俺は知人が一人もいない高校への進学に対して、抵抗感を持っていない。

 余りにも〈しつこく〉大歳高校への進学を勧める親父に対して、俺は、ある条件提示を行った。それは、「一人暮らしが原則だが、食事作りと洗濯を行う人を付けて欲しい」というものである。内心、(こんな我儘な条件、認める訳はないだろう)と考えていた。これで大歳高校への受験という話は〈なくなる〉という確信すらあったのだが、親父は、この条件を〈呑んで〉しまった。

 親父には二歳年上の姉がいる。俺から見れば伯母おばだ。大歳高校から歩いて二十分程の場所で小さなスナックを経営している。

 伯母には離婚経験があり、子供……、と言っても、俺よりも年上である二十一歳の女性がおり、しかも、昨年結婚、今年の年末には子供が生まれるとの事である。

 子供が独立した、その伯母に俺の世話をさせ様と親父は考えたのだ。しかも、この件の打診を受けた伯母も、「別に構わないわよ」の一言で応じてしまったらしい。俺としては自らの目論見が崩壊した瞬間でもあった。

「お前が出した条件はクリアした」という親父の〈脅し〉とも取れる一言で俺の大歳高校受験が決まる。

(変な条件、出すんじゃなかった……)と、後悔しても、もう遅かった。


 ※


 俺の名前は、鍋倉勇介なべくら・ゆうすけ。見た目は、ごく平均的な高校生だろう。体格的にも〈中肉中背〉であり、特記すべき特徴はない。

 その一方、頭の中は少し〈ヤバイ〉かも知れなかった。自分でも、(何で、こんな事、考えられるんだ?)と、驚いてしまう程の妄想癖がある。

 正直に言ってしまえば、俺も〈年頃の男子〉。女性に関して「妄想爆発」するのは仕方ないだろう。だが、俺の場合、些細な事が切っ掛けで妄想に囚われてしまうのだ。

 例えば、授業中、何気なく、(今、巨大地震が、この地を襲ったら、どうなるんだろう?)と思ったら最後、頭の中で妄想……、これはシミュレーションと言っても構わないが、それが始まってしまうのだ。

(まず、机の下で身の安全を図る。揺れが治まるまでに避難経路となる教室の出入口を確認しなければ……。だが、出入口に近い席でないと、机の下では、それが出来ない可能性が高い。その時は……)という具合であった。

 こうなると俺は自らが行うシミュレーションに夢中となってしまい、他の事は眼中から消えてしまう。もちろん、授業内容などは頭に一切、残らない。

 この妄想癖を親父は知っており、酒の席では、それを面白可笑おもしろおかしく、他人に話していたらしい。それに喰い付いたのが、大歳学園の理事長であったという訳だ。

 ちなみに、俺は理事長の勧めが、あったとはいえ、正規に受験を受け、この大歳高校へ入学した。決して、〈裏口入学〉でない事は明言しておく。


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