宇陀川莉乃という女
教室に戻ると、何人かの女子が話しかけてきた。
「あの、宇陀川さん」
「何かしら?」
「今年から同じクラスだね。その、よ、よろしくね」
「ええ。こちらこそよろしくね」
愛想笑いをしながら彼女たちの問いかけに適当に応える。
「やだ、わたし宇陀川さんに話しかけちゃった」
「ホント、話せて良かったね」
「あぁ、もう思い残すことないかも」
「あはは、それは大袈裟だって」
そんなことを言いながら、彼女たちは自分の席へ戻っていった。
あ〜あ、メンドくさいな〜。でも、自分の地位を守るためなら仕方ないか。
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わたしが通っている檜枝中学校は各学年4組ずつある。規模も学力もこの辺ではそこそこといったところだろう。部活動ではサッカー部と吹奏楽部が毎年成績を残している。
わたしが通っていた小学校は各学年1クラスずつしかなく、クラス替えが無かった。檜枝中学校がそこそこの規模といっても、そんなところにいたわたしからしてみれば、かなり大規模に感じる。
最初は慣れない環境に戸惑った。もともと前に出るのが得意ではなかったわたしは、あまり目立たないように生活しようと思った。けれど、入学式の後、教室に戻ろうとしていた途中、上級生に声をかけられた。
「きみ、可愛いね。もしかして新入生?」
そのときは怖くて逃げてきてしまった。でも、その後も何度か声をかけられ、次第に噂は広まっていった。
そのうえ、一学期の中間テストであろうことか学年1位を取ってしまった。
それを機に、わたしの噂は学校中に広まった。
「なんか、今年の1年にすっげえ可愛くて頭 良い子がいるらしいぜ」
もう止められなかった。どうすることもできず、途方に暮れていたとき、ふとある考えが浮かんだ。
《この状況を利用して愛想良く振る舞えば、
人気者になれるかも》
もうこの状況は止められない。なら、いっそ開き直って人気者になってしまえば良いのでは?そう思ったわたしは、他人と明るく接することができるように努力した。
相手に話を合わせ、相手が喜ぶような相槌をうった。周りの人をよく観察し、どんなものが好きか、だれと仲が良いかなどの情報を集めた。流行も定期的にチェックした。
そうこうしているうちに、いつの間にかわたしは人気者になり、『学校一の美少女』と呼ばれるようになった。誰もがわたしを褒め称え、チヤホヤした。
その頃から、わたしに好意を抱いたり、告白してきたりする男子が増えた。
最初は本心で断っていた。けれど、いつの間にか、寄ってくる男どもを冷たい言葉で跳ね除けることに快感を覚えていた。
わたしはわざとひどい言葉を使い、男どもを次々と振っていった。気持ち良かった。
そのうち、わたしはこう考えるようになった。
(この世は顔や頭の良い奴の勝ちなんだ。なんの取り柄もない奴なんてただのゴミクズと変わらない。)
わたしは高い地位を得るために、自分自身を真っ黒に染め上げたのだ。