うん?
『休憩頂きます』
多数の職員に聞こえるように
大きめの声を出し厨房に昼食を取りに行く。
『お二人はご飯頼んでる?』
『自分は朝頼みました。』
浅見さんは頼んでいて、滝田さんはお弁当らしい。
昼食を受け取ると
ステーションに向かった。
『本当はさっき見た休憩室で食べるんだけど、
みんな面倒でここで食べてるんだ。
好きなほうで食べてね。』
と話すと、二人ともステーションの椅子に腰かけた。
無言で食べるのもなんなので、適当に話題を振る。
『滝田さんはお弁当手作り?』
『いやお母さんが作ってくれたんですよ。』
と照れ臭そうに笑った。
『いいなぁ私もお弁当にしようかな。』
『戌井さんは自炊とかするんですか?』
『一応ね・・・でも朝とか作るのも面倒で。』
『わかります。私なんか料理作るってなると気合入って時間かけすぎちゃうんですよ。』
『なるほどねぇ。浅見さんは料理とかします?』
『しないなぁ・・大概嫁任せですね。』
『結婚してるんですね。でもちゃんとやってくれて良い奥さんじゃないですか。』
『良くないですよ。ケンカばかりで』
とばつの悪い顔をしながら答えた。
『そうなんですかぁ・・・
でもケンカするほど仲がいいって言いますし』
『どうなんすかね。』
と浅見さんは考え込んでしまった。
今日は他の日勤者が来ない・・・
なかなか会話のネタも尽きてきそうなんで
早々とご飯を食べ終えると
『浅見さん、喫煙所案内しますよ』
と声を掛けた。
『私も行きます』
と滝田さんが言った。
『あれ?タバコ吸わないんじゃなかった?』
『一人でここにいるのも・・・』
『そっか。じゃあ一緒に。』
二人がご飯を食べ終わるのを、朝見た引継ぎなどを見返し待った。
『お待たせです』
『じゃあ行きますか』
二人を連れて中庭に出ると、ベンチに腰かけタバコに火をつけた。
『適当に座ってください。あ、滝田さん煙大丈夫?』
と煙の流れを気にしながらタバコを吸う。
滝田さんは
『全然大丈夫なんで気にせず吸ってください。』
と隣に腰かけた。
浅見さんもベンチに腰を掛けタバコに火をつけた
『ここは中庭でいいっすね。前の職場は自分の車の中だったんで』
『最近全面禁煙の施設増えてますもんね。ここもいつそうなるか・・・』
はぁっとため息のように煙を出し
喫煙者の肩身の狭さを二人で実感してた。
『そうだ、午後はまずおむつ交換を見てもらうんですが
浅見さんは経験者として、滝田さんは未経験なんだよね?』
『あ!一応大学で習ったりはしたんですが・・・』
『大学か・・・ここね、今は珍しいかもしれないんだけど
【布おむつ】なんだよね・・・』
『布ですか?ちょろっと習っただけで、やり方忘れちゃいました・・・』
『大丈夫、すぐ覚えられるよ。』
と話していると
『布なんですね・・・』
と浅見さんがつぶやいた。
『結構特養だと布使ってるとこありますよね。
でも自分は布反対だな。
前の施設も他職員や施設長に呼び掛けて変えてもらったんですよ』
と自慢げに話しだし
『まぁ施設ごとにやり方がありますから・・・でも利用者のこと考えたら【紙おむつ】のほうがいいですから。絶対。
そもそも布おむつだと利用者のお尻が~・通気性にしたって~・』
と熱弁しだした。
私と滝田さんは、その勢いにキョトンとしてしまい、
『うん』『あ~』と相槌を打つことしか出来ないでいた。
『まぁ、浅見さんは布の経験があるってことで安心しました』
と半ば強引に話を終わらせた。
とりあえず話題を変えないと・・・
そう思い滝田さんに話を振った。
『滝田さんは彼氏とかいないの?』
『いるはいるんですけど・・・
色々問題があって、ちょっと疎遠中ですね』
とちょっと寂しそうに答えた。
『そうなんだ』
私が答える前に浅見さんが返事をした。
『何か悩みがあるなら聞くからね!俺たち同期なんだし。』
と笑顔を見せる。
いきなりのことに滝田さんも困惑しながら
『はぁ・・』
と答えた。
私は
『あんまりプライベートで悩むと仕事も嫌になっちゃうときがあるから無理しないようにね』
と、あんまり気の利いた返答が出来ないでいた。
なんか休憩中の浅見さんはずいぶんはじけてる人だなぁ
なんて考えていると、
『戌井さんは恋の悩みとかないんすか?』
と浅見さんに聞かれたが、
『今は彼氏とかいないですし、そんなに悩んでもいないです。』
と当たり障りなく返した。
『同じ年だし、なんか悩んでたら言ってくださいね。』
いやいや、今日会ったばかりの人に対して何を言っているのだろう。
この人もまた、独特な人なんだろうか・・