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はい!特別養護老人ホームです。  作者: 実咲
新人教育
7/11

顔合わせ

そのおばあさんをトイレから出すと

ホールに戻し、席に座らせた。


早番者が入浴準備をバタバタ行い

夜勤者が眠い目をこすりながら夜間状況を記録していたので


厨房から10時のお茶をもらい準備を行った。


配膳台車にコップを並べ、やかんからお茶を・・・


『おざぁす!!』

いきなりの声に驚いて振り返ると

伊藤君が横を走りぬけステーションに向かって行った。


彼も日勤なんだろう。

日勤開始まであと3分。


もうちょっと時間に余裕をもって出勤してきなさい。


そう思いながらコップにお茶を注ぐ。


始業時間になると、他の日勤者もホールにやってきた。

『いやぁ焦りましたよ』

と笑いながら伊藤君が話しかけてきた。

『もうちょっと早く来ればいいじゃん』

『だって早く来てもやることないじゃないですか』


そうなのだ、

当施設では朝礼や朝の申し送りがない。

厳密に言えば、事務所や二階は行っているが、

なぜか一階にはない。

昔先輩に聞いてみたが、

『引継ぎ読めば済むでしょ。やる必要ないから』

と言われて以来、やらないのが当たり前になっていた。


『ところで新人はまだっすか?』

『今事務所で説明受けているみたいよ。』

『どんな人かなぁ、女の子だったらいいな・・かわいい子』

と鼻の下を伸ばしながら伊藤君がにやにやしていた。


『そんなこと言ってないで早くオムツ行くよ!』

『ういっす・・』


と他の日勤者に促され、伊藤君は渋々オムツ交換に入っていった。


どんな人なのか・・・

あまり考えないようにお茶を注ぐ、

何人かトロミ対応なので

トロミのお茶も作る。


【トロミ】とは

呑み込みが困難な利用者様のための粉で

それをお茶やジュース・みそ汁などに入れると

とろみをつけることができるものだ。


正直トロミをつけたものが

ものすごく美味しくない。


だが、むせて【誤嚥性肺炎】などに

ならないようにする必然的な対応なのだ。


お茶を入れ終わると、

配膳台車でお茶を配ってまわる。


『お茶ですよ~』

と一人一人声を掛けながら行っていた。


時折、配ったお茶をお茶だと分からず、

手を洗いだしたり、床にまいたりする利用者様もいるため、

注意しながら配茶していた。


『戌井さん!』


私を呼ぶ声がして振り返ると、

事務主任と共に

新人さんと思わしき二人が立っていた。


きたか・・・


そう思いながら、

最初が大事だと、営業スマイル全開で駆け寄っていった。



『はじめまして!戌井です。』


『滝田です。よろしくお願いします。』

『浅見です。よろしくお願いします。』


二人から挨拶を受けると、事務主任から

『あとはよろしくね。』

と事務所に戻っていった。


『えぇ〜っと、、まずは自己紹介お願いしていいですか?』


というと、二人はオドオドしながら

女性の方から話しだした。


『滝田です。福祉大学をで社会福祉士を目指してました。

いずれソーシャルワーカーになりたいんですが、現場を知りたくて

今回ここに入社しました。未経験ですがよろしくお願いします。』


はにかみながら笑顔で答えた

実にいい子のようだ。


続いて男性も話しだした。

『浅見です。以前は特養で5年やってたんで即戦力で行けるかと思います。』

経験があるということで

ハキハキと話している。



『戌井です。ここで八年働いています。主任とかってわけでもないんで、

わからないことは気にせずなんでも聞いてください。

一応二人の指導を任されているんで。』

と笑って返した。


二人は『はい』と返し、そのまま施設内を案内にまわる。


問題のないような方たちでホッとした。


ホールを他の職員に任せて施設案内を行いながら

軽く雑談を行っていた。


『お二人はおいくつなんですか?』


『私は22です』


『若いねぇ、でも新卒にしては中途採用だよね』


『社会福祉士に落ちてから、相談員業務ができるとこ探してたんですが・・・

社会福祉士主事の資格しかないし、未経験だとどこも・・・

だから一旦現場を知りながら勉強し直そうかと』


『偉いじゃない。無理せず頑張ってね』




『自分は27歳です』

『え?じゃあ同い年ですね。昭和○○年生まれですか?』

『そうですね、てか自分にもタメ口でいいですよ』

『じゃあお互いタメ口で。』

『いやいや大先輩にそんな・・・』


など下らない話で笑いあっていた。


途中途中、他職員とすれ違うときは、

二人共真面目に挨拶・自己紹介を行い

今回の新人さんは当たりかな。と

少し不安も薄れてきていた。


そのまま、お風呂場・洗濯室・ステーションに休憩所

など見て回ってもらい

利用者様の居室も見てもらった。


『あらかた見てもらったかな。』


『すいません、休憩中タバコは吸えないんですか?』

と浅見さんが聞いてきた。


『あ!喫煙者さんなんですね。

タバコは中庭で吸えるんで休憩時間に教えますね。』


『滝田さんは?』

と聞くと

彼女はとんでもない!と首を大きく横に振った。



一通り施設内を案内していると

ちょうど休憩時間が迫ってきていた。


『今日は二人とも早休憩に入ってもらいます。

午後からオムツや入浴風景を見てもらいますね。』


『はい』『はい』


二人の返事を聞いてホールに向かった。


ホールではオムツを終えた職員が

昼食の準備や、お風呂上がりの利用者様の髪を乾かしていた。


『あ!!』

と声が聞こえたため

声がしたほうを向くと伊藤君が駆け寄ってきた。


『新人さんですよね!?自分伊藤って言います!

入って6年経つんですけど、まだまだペーペーで!

一緒に頑張りましょう!!』


いきなりの自己紹介で二人とも唖然としていたが

『ど・どうも・・・』

的な返答をしていた。


『えっと、滝田さんに・浅見さん。浅見さんは経験者の方なので

伊藤君よりも仕事できちゃうかもね。』


『ひっでぇすよ』

とケラケラ笑う姿を

新人さん二人は愛想笑いをして過ごしていた。


とりあえず伊藤君はほっといて、他の職員に

今日新人さんは早休憩に入ってもらうことを説明し

休憩に入る。


『今日自分遅休憩なんすよ・・・

戌井さんと一緒じゃなくて寂しいなぁ・・・』


伊藤君が何かおかしなことを言ってたので

『ははは』

と無表情で返しその場を離れた。


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