まさかの・・・
『・・・んん~!』
大きな伸びをして目を覚ました。
今日は日勤での出勤だ。
先週の高橋さんの話・・・
『来週からの新人教育』を控え
若干出勤し辛い。
別に新人を指導するのが嫌なわけではなく、
自分が人見知りするような性格だとも思ってもいない。
大体人見知りするような人には
介護は中々厳しいかもとすら思う。
『あぁ・・いやだなぁ』
『どんな人なんだろう・・・』
ぶつぶつ独り言を言いながら顔を洗ったり寝癖を直したり
化粧を行う。
この化粧も介護の世界ではなかなかの問題なのだ。
今でこそ当施設も落ち着いているが・・・
介護の人材が人手不足な理由の一つ
【お局さん】的な強い女性職員の存在。
私も入社したてのころ、先輩職員にいろいろ言われていた。
一人には『介護やるのに化粧なんか必要ないのよ!!』と言われ
もう一人には『化粧は女性のマナーよ。しっかり整えてきなさい。』と言われ
どっちの肩を持つわけにもいかず、結局は今の
化粧してるんだかしてないんだか分からないような
超ナチュラルメイクに落ち着いた。
(そんな頃もあったなぁ)などと考えているうちに
出勤の時間が迫ってきていた。
『やば・・』
冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し車に乗り込んだ。
最近野菜ジュースにはまっている。
日勤や夜勤のシフト勤務で
生活リズムなんてあってないようなものだし
二十代も後半になったことから、健康を意識しだしていた。
車で15分ほど走ると職場に着く。
その手前にあるコンビニに寄るのが日課になっている。
コンビニで飲み物とタバコを購入。
外の灰皿で一服する。
朝のコンビニのがやがやしている雰囲気が好きで
一服しながらよく人間観察をしていた。
カップラーメンやパンなどを多量購入していく
現場仕事のお兄さんや。
買い物量が少ないサラリーマンの方など。
その中、ついいつも見とれてしまうのが
きれいに化粧をして
髪も茶色く染めたりしたOLさん達。
上下ジャージの様なユニフォームにパーカーを羽織っただけ
そんな自分とはすごいかけ離れた存在だ。
飲み物を買うとき、よく
スムージーやら、チアシードやら
世の女性なら好んで買うようなものも
自分には敷居が高く感じていた。
ただ憧れはする。
うん。
憧れる。
駐車場に車を止めて施設に入る。
更衣室でカバンなどを置いてステーションへ。
途中、利用者様や早番・夜勤者に挨拶をしながら向かう。
この時、朝のコンディションによって対応が変わってしまっていた。
休み明けなど元気な時は笑顔で、
なんなら途中立ち止まって少し会話をするときもある。
今日の自分・・・
30点!
すれ違いざまの『おはようございます』
別に機嫌が悪いわけではないのだ。
ステーションのドアを開けると
またも高橋さんがホワイトボードを見ながら
頭をボールペンで搔いていた。
『おはようございます。』
『おはよー』
『今日も出勤だったんですか?』
『夜勤明けだよ。ねみぃ』
と大きなあくびをしながら答えた。
『今日の新人さんどんな人なんですか?』
『ん?あぁ、そういえば言い忘れてたんだけど・・・』
『???』
『今日新人二人入るから。二人とも指導お願いね。今事務所で説明受けてるから。』
『はい?!』
と変に裏返りそうな声を出してしまったが、
高橋さんはニヤッと笑うだけだった・・・
『いきなり二人指導なんてかなり不安なんですが・・・』
『一人は経験者・もう一人は未経験らしいよ。
まぁなんとかなるからお願いね』
と他人事だとケラケラ笑っていた。
『はぁ・・』
大きくため息をついて
ホワイトボードを見て今日の業務内容を確認する。
【戌井 指導~ホール業務~】
その文字を見ながらさらに気分がへこんだ。
考えても仕方ないが
どう対応しようか考え込んでしまう。
最初の対応、どんな人か見極めないと。
考えながら引継ぎノートを見たが
よく頭に入らず、流し見程度にしかならなかった。
『よし!』
なんとか気合を入れようと、髪を束ねてホールに向かう。
ホールに行くと一人の利用者様が声を掛けてきた。
『ご飯食べた?』
『朝は野菜ジュースしか飲んでないんですよ。時間なくて』
『て!ダメだがね!ちゃんと食べないと大きくなれないよ
ばあちゃんの飯やっから!ちょっと待ってな!』
と言いながらトイレに入っていった。
いつも同じようなことを言うおばあさんなので
『ありがとう』
と笑って返して、そのままトイレ介助を行った。