休憩中
お風呂場から出て、更衣室へ。
汗でびっしょりになった半袖を脱いで
ボディーシートで体を拭いたり、制汗剤をふりまいたり
ユニフォームに着替えて更衣室を出てホールへ。
ホールにいる職員に挨拶をかわした。
外介助以外の日勤者・遅番者とはこの時点で顔を合わせる。
『じゃあ休憩いただきます』
早々に会話を切り上げ、厨房にご飯を取りに行く。
『すいませ~ん。戌井です』
ご飯を受け取ったらステーションへ
ちゃんとした休憩室が二階にあるが
二階に上がるのも億劫で、皆ステーションで食べていた。
ステーションに行くと
田中さん・伊藤君が先にご飯を食べていた。
『お疲れ様です』
『お疲れ様ぁ』
そこには日勤者の【堀野さん】もいた。
堀野さんは寡黙な男性で、私の1年先輩で、高橋さんと同期
見た目には30代なのか40代なのか
年齢がわからない人だった。
『堀野さん早休だったんですね』
『・・・うん』
当施設は早休と遅休に半々くらいに分かれて休憩をとる。
早番2日勤2
日勤2遅番2
といった形だ。
『あれ?高橋さんは?』
『あ、先にタバコ行ったみたいですよ。』
へぇ~などの適当な返事をしてご飯を食べ始めた。
『・・~で』『・・~なんすよ!』
相変わらず伊藤君はぺちゃくちゃ喋り
それを田中さんがニコニコ聞いている。
堀野さんは携帯をいじりながら黙々と食べていた。
私もパパッとご飯を食べると、喫煙所に行こうと立ち上がった。
『あぁ~戌井さん俺も行くから待っててくださいよ!』
と伊藤君が言っていたが、笑顔だけ返し、待たずに喫煙所に向かった。
当施設の喫煙所は中庭にあって
物置の陰で周りからは見えなくなっていた。
『お疲れ様です』と声を掛けながら
中にはへの扉を開くと
ベンチに高橋さんが座っていた。
『はぁいお疲れ』と携帯を見ながら返事を返す高橋さん。
隣に腰かけてタバコに火をつけた。
介護の仕事場は喫煙者が多い気がする。
自分も学生時代にはタバコを吸うなんて思ってもなかった。
『今日もお風呂ハードでしたね・・・』
『まぁいつものことでしょ』と
高橋さん鼻から煙を出し笑いながら言った。
そうだ。いつものことなのだ。
『さぁて、飯食ってきます』とタバコをもみ消しながら立ち上がった。
喫煙所を出ようとしたとき、伊藤君が来た。
『お疲れっす。高橋さんいまから飯っすか?今日の飯うまくないっすよ。』
『いつものことでしょ。』と
また笑って喫煙所を出て行った
『戌井さん、待っててくださいよ~』
と伊藤君が笑いながら隣に腰を掛けてきた。
『だって伊藤君飲み物買いに自販機寄ったりするから』
と適当な返事をする。
『逆に戌井さんは飲み物いらないんすか?』
『私は朝来る前にコンビニで買ってくるもの。』
『確かに自販機より安いっすもんね』
そんなくだらない会話をしながらタバコを一本二本と吸っていく。
『だれか新人入らないですかね』
『なかなか厳しいよ・・・ここ三年くらい新卒も入らなかったし』
介護業界、大まかに
特別養護老人施設とくべつようごろうじんしせつ
養護老人施設ようごろうじんしせつ
老人保健施設ろうじんほけんしせつ
有料老人ホーム
サービス付き高齢者向け施設
など多くの施設がある。
一方で、職員はちょっとでも楽なところ
ちょっとでも給料・待遇のいいところ
そこを重視している。
まさに施設で職員の取り合いだった。
人数不足で仕事が大変・大変だから職員が離れていく・職員が離れて人数不足
悪循環である。
特に特養では、介護度が重い人しか入れない為
必然的に業務内容が大変で、職員が嫌がることが多かった。
中には入社して1日~一週間以内に辞めていく人も多い。
二人して人手不足に愚痴りあっていると
ご飯を食べ終えた高橋さんがやってきた。
『お疲れ様です』
『あぁうまくなかった。』
と笑ってタバコに火をつけた。
『ですよね!?』と伊藤君も笑って言った。
『今戌井さんと新人が入らないか話してたんすよ』
『あ・・そうだ、来週新人入るよ。戌井さん指導お願いね。』
『え?!私ですか?!』
『うん。シフト見るとちょうど戌井さんの出勤日と大体かぶってたから。』
『・・・わかりました』
『え?戌井さん嫌なんすか?』
『嫌じゃないけど・・なんだかね・・』
と笑って見せたが
正直嫌だった。
自分が教えた新人が数日で辞めていくと、
結構へこむのだ・・
自分の教え方が悪かったのか。
なんかやってしまったか。
など考えてしまうし、ちょっとした不安もあった。
まぁ考えても仕方がないし、
どういった人かもわからないので、
あまり深く考えないようにしていた
そのまま、くだらない話をしたり、伊藤君のマシンガントークを聞いて
昼休みが終わろうとしている。
『さて、行きますか。』
と三人で気合を入れあって喫煙所を後にした。