3話、絢爛たる招宴
経済の中心地である都市ポリフェムスには、上流階級が集まっている。なぜなら、都市の中心地から近隣にかけての地価がとても高いためである。となると、必然的に富裕層の割合が多くなってくる。
さらに政治機関も置かれているので、権力を持った議員なども市内に邸宅を構えている。
現在は階級制度こそないものの、かつての旧体制の名残は色濃く残っていた。実際に、中央議員は王族や貴族の家系の出身者で半数以上を占めている。
その旧態依然の象徴とも言えるのが、この都市で日々開かれる社交会である。
王政が廃止し、身分制度がなくなって久しい近頃、上流階級の者たちが権威を示すための場として人気を博していた。贅を凝らした会場で、着飾った権力者らが情報共有を交えながら世間話に花を咲かせる。それが彼らの習慣であり、娯楽である。
まさに今フリージアは、そんな未知の世界に足を踏み入れていた。
彼女が招待を受けたのは、芸能関係者も多く参加する大規模なパーティであった。主催は大手出版社を持つ経営者である。そのため、参加者層には出版や芸能関係者らが多く、少々趣が異なるものだった。
付き人のローズが言うには、娯楽を主としていた社交界も徐々に形を変えつつあるのだという。
「社交界には偉い方々が集まりますからね。企業がそこにビジネスとしての価値を見出したんですよ」
フリージアが相槌を打つ。言われるままについてきた彼女だったが、振る舞いに緊張の色はない。十代半ばのわりに佇まいは堂々としたものだった。
「駆け出しの内は、地道な営業が欠かせないんです。企業関係者の目にとまることが、この業界で上り詰めるための条件でもあるんですよ」
会場内には、ドレスを纏った淑女が何人も見受けられる。その内どれだけが同業者なのだろうかと、フリージアは興味を持った。
「では、今夜はお願いしますよ。一流のレディの営業術、期待してますよ」
「ええ、未来のトップスターですから。それなりにこなしてみせますよ」
などと演技じみた軽口を叩き談笑する。
両者はすでに打ち解け、冗談を交わす仲になっていた。
ちょっとお手洗いを、と言ってフリージアは会場前を離れた。付き添おうとした付き人の申し出は断った。流石にそこまで子供ではない、と思う。
給仕係に場所を尋ねると、廊下を進んで奥まった場所にあると教えてくれた。
言われたとおり順路を進む。明かりが灯された廊下は、きらびやかな会場とはうって変わって落ち着きのある厳かな雰囲気だった。天井はタイルが並び、足元には刺繍入りの絨毯が続く。壁には数々の絵画がこれまた高価そうな額縁に飾ってあり、流行りの芸術に疎いフリージアをも感心させた。
そして、階段の手前に差しかかったところで足をとめた。
話し声、それも剣呑さをまとい、決して穏やかではない。喧嘩の類だろうかと、そのまま過ぎ去ることを躊躇させる。
「――いい加減にして!」
女性らしきその声が聞こえた時、思わずフリージアは階段を踏み出していた――。