プロローグ
少女は春に十七歳を迎えた。
没落した貴族の旧家に生を受けた彼女は、長閑な片田舎で育った。一人娘であったため、両親の愛情を一身に受け蝶よ花よと大切にされた。
小さい家には楽器がいくつかあった。代々受け継いできた由緒ある物だという。子供にそのような価値が分かるはずもないが、奇妙なことに大層興味を示したらしい。両親は強請られるままにそれらを我が子に与えた。
幼い内は玩具同然だったそれらも、歳を重ねるごとに形ある音楽を奏でるようになった。娘の才能に喜んだ両親は、過分なほどに褒めそやしたのだった。
そして時は過ぎ、幼子は清爽な少女になった。
穏やかの日々の中で、彼女は一つの夢を見つけた。その願いを叶えるため、少女は明日旅立つ。
親の説得は簡単ではなかったが、一番の理解者である祖母が後押しをしてくれた。行っておいで。人生後悔のないように、やりたいことをやりなさい。そんな祖母の言葉に、思わず目頭が熱くなった。
これから自分は誰と出会い、何を得るのだろう。
出立を前にして感傷的な気持ちになる。
漠然とした不安と幾分かの期待を抱えて少女――フリージアは自室で最後の夜を過ごした。