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逆さま流星群  作者: さな
19/22

本物

ほどなくしてリコは帰ってきた。何故か、ラミアを連れて-----


「リコ!無事か!」


さっそく抱き上げて、無傷であることを確認すると、シモンは彼女を撫でまくる。


「ちょっと!いちゃつかないでよ!」


機嫌の悪いラミアが怒鳴るが、無視だ。今はリコ成分を補充するので忙しい。ひとしきりリコを撫でまくった後、シモンはラミアに尋ねた。


「それで、何の用だ?」


「用があったのは、それによ。」


リコを見てラミアは顎をしゃくる。あれとかそれとか、みなリコの呼び方が指示語なのは、なぜだろうか。


「もう用は済んだから、私も悪魔討伐に加わろうと思ったのよ。半人前のアンタだけじゃ、心もとないでしょ。」


以前敵意むき出しでラミアはリコに詰め寄ったというのに、どういう心境の変化だろう。


「正教会の応援が日暮れまでには来るらしい。それまで凌げれば、問題ないのだが…。」


「なら日暮れまでにあの男を斬ってくるわ。」


「悪魔は二体だ。エリオと、女の悪魔の。」


「増えてるなら、ちょうどいいわ。人外を斬れば斬るほど、私の格は上がる。」


大鎌を担いで、ラミアは王城の方へ向かう。


「やめておけ。おまえ程度の格では相手にならない。」


けれど、いつの間にかやってきたユリエルがそれを止めた。


「疫病の悪魔リゾルテ。」


リコがポツリと言った。シモンが知るリゾルテはよくおとぎ話で出てくる悪魔のことだ。病を撒き散らしては、去っていくはた迷惑な悪魔だったと記憶していた。


「なんだ見てきたのか?」


ユリエルの問いにリコは頷く。


「なぜそんな高位の悪魔がこんな僻地にいるのよ。」


忌々しそうにラミアは、鎌を引っ込めた。どうやらあの悪魔は相当強大な力を持っているようだ。


「リゾルテを追っている祓魔師も応援とともに来る。それまで静かにしておけ。」


ユリエルはそう言って、我が物顔で家に入っていく。シモンたちがいる場所はすでにバレているだろうに、妙に余裕があるなと、シモンは訝しんだ。


暖炉の部屋に一同は集っていた。赤ん坊はいつの間にかバスケットで作った即席のベッドで眠っている。


「クレート王国に出現した悪魔は二体、疫病の悪魔リゾルテと下位の悪魔だ。その下位の悪魔であるエリオ・オランジュについて、何か知っていることは?」


「三年前、この国が隣国の侵攻を受け、前騎士団長が死んだ。その後任としてエリオがやってきた。エリオは俺と女王の橋渡し役で、下位貴族の爵位を持っていたはずだ。」


エリオはシモンを恐れもせず、よく気にかけてくれるいい人だった。友人といってもいいかもしれないと、シモンは思っていた。でも、彼がシモンに近づいたのは、魂得るためだった。


「リゾルテとの関係はわからないか…。」


「その悪魔共、協力関係にあるの?縄張り意識が強い悪魔にしては、珍しいわね。」


潰し合いをしてくれたら楽なのにと、ラミアがぼやく。


「親子。」


リコが唐突に答えた。それになぜかダグラスが噴き出す。


「なるほど、リゾルテの子か。それなら納得できるな。-----ダグラス、何かあるのか?」


「いえ、なんでもありません!そ、そういえば、この国は数年ごとに疫病に襲われていますが、それがすべてリゾルテの仕業とすると、この国がリゾルテの縄張りになっていたのだと思われます。なのでリゾルテは子に縄張りのひとつを譲っているということになりますね。」


何かを誤魔化すように、ダグラスは早口でまくし立てた。そして、チラチラとリコを盗み見ている。

ユリエルは赤ん坊を見つめるリコを一瞥し、ダグラスを追求しないでおいた。


「そ、そろそろ私は応援に来た修道士たちの迎えに行ってきます。」


ダグラスはいそいそと出て行く。


「さっき祓魔師と言っていたが、その悪魔を倒せる力を持っているのか?」


シモンは尋ねた。まず悪魔からして、その力は未知数なのだが…。


「さあな。」


ユリエルがそっけなく答えた。非常に不安だ。


「せめてシモンがちゃんとした死神なら、二人掛かりでリゾルテを相手にできるのだけどね。」


ラミアが思案している。あのシモンですら圧し負ける怪力を持つラミアがそう言うのなら、悪魔というのはシモンの想像を越えた力の持ち主なのだろう。


「俺が半人前だというが、その本物の死神とやらにはどうやったら慣れるんだ。」


死神は、人の魂を見ることができ、死者の魂を天へと還すことを使命とする。以前ラミアに聞いたことだ。

けれど、シモンは半人前だとしても死神になった覚えはない。


「あなた、一度死んだでしょう?」


「なんだそれは…。死んだら生きていないだろう?」


奇妙な質問にシモンは首をひねる。


「死してなお、生にしがみつく往生際の悪い人間に、力を与えて蘇生させる神がいる。名を死神王。死神王に生かされた者は眷属となり、死神の力を得る。それは神の末席に連ねられるほどの力だ。シモン、おまえは末席の中の末席ではあるが、既に神となった身だ。」


ユリエルが説明してくれたが、シモンにはいまいち実感がない。さらには自分が神の末席だなんて、考えたこともなかった。


「随分な言い様ね。生き汚いってわけ?」


ラミアがユリエルを睨んだ。往生際の悪い人間という下りが気に入らなかったようだ。


「事実だろう。一度死んでも死にきらず、二度死んでもなお生き続けるおまえたち死神の生への執着は恐れ入る。」


ラミアの鋭い視線に諸共せず、ユリエルは言った。どうもこの二人は相性が悪いようだ。

一触即発の雰囲気が伝わったのか、バスケットの中の赤ん坊が泣き出した。


「泣いた。」


リコが責めるように、ラミアとユリエルを見据える。ラミアはそっぽを向き、ユリエルは赤ん坊を抱き上げてあやし始めた。

いつみても絶世の美貌をもつユリエルが手慣れた手つきで、赤ん坊を世話する姿は違和感があるものだ。



------ところで、どうすれば本物の死神になれるのか、聞いていないのだが…。


シモンは今、話を掘り返してはいけないだろうと口を噤むことにした。








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