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偽主  作者: シュカ
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出張説明会

「…まぁ、僕とじいさんの関係といったらこんな感じかな」

 

 曖昧な顔で微笑んで見せたセスはシドの反応を待つ。

 

 セスは校長のことをあのじいさんと呼んでいたが、本当に血縁関係にあたる者だった。そして、彼は能力持ちに家を次がせることに固執している。それで、セス当主にである実の父と話し合い家から逃げてきた。さらに中等部一年生のクラスタとその兄とは腹違いの兄弟か。

 

 聞いているだけで、波乱万丈としている半生だった。けどここで一つ疑問が残っていた。

 

 「セスさんが家を出るまでは分かりました。その出来事が、あなたが能力持ちをなくしたいと行動するきっかけですか?」

 

 「そうだね。あのじいさんが能力持ちに固執し、家族をないがしろにするならば、僕はその原因である能力がなくなればいいと思ったよ」

 

 軽く言うセスには少々のわざとらしさがあった。無理しているわけではないが暗い雰囲気になるのを避けたいのが伝わってきていた。

 

 「それがきっかけで、後はいろいろ見てきたからかな…。小さな教室の子供達みたいなって言ったら分かるかな」

 

 「本当に何となくですけどね」

 

 記憶を見ることが出来るアルベルトならば分かると言うことが出来るだろうが、シドにはセスが見てきたものが分かるわけではない。分かった振りをするのが精一杯だ。

 

 シドは苦笑を浮かべ控え目に主張した。

 

 「あちこち見てきたよ。いろんなものもいろんな人も。能力に苦しめられたり逆に助けられたり色々あった。段々、仲間が増えて、彼らと最近になって結局この町に戻ってきて。この屋敷を買った。かつて僕の父が当主として住み、当時、僕が下働きをしていたこの屋敷をね」

 

 詩を読むかのように滔々と語っていたセスは、最後に付け加えるように呟いた。

 

 「ここがセスさんが働いていた屋敷」

 

 もしかしたらとは思ったものの、それはないかと切り捨てていた可能性だった。もしそうなのならば、当時ここに暮らしていた彼らはいったい…。

 

 シドの頭に浮かんだ疑問を読み取ったようにセスは言う。

 

 「父さんがフェイロンを連れて屋敷からでたらしい。行方は分かっていないよ。それで、父さんの奥さんとクラスタがあのじいさんに引き取られたらしい」

 

 「行方不明なのですか」

 

 「ああ。探してはいるけど、まだ見つからないよ。この屋敷を手放した理由と関係しているんだろうけど僕はそれを知らない」

 

 悔しそうに歯噛みするセス。シドはそんな彼に誓う。

 

 「クローバード社に所属にはなりましたが、そのお二人を探すことは続けてください。仕事に支障がない範囲なら僕が許可します」

 

 「いいのかい?」

 

 「はい。それが現状の解決にも繋がるでしょうし、何より家族の行方を知りたいと知るのも当然でしょう」

 

 意外そうな顔をしたセスだが、シドがそう言うとホッとしたように表情を緩ませた。

 

 セスは知らないが、自身も家族の事件について調べているシドにセスの気持ちを止められるわけがなかった。


 「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 

 「それにしても、望み通りにセスさんがこの屋敷の当主になったのならば良かったではないですか」

 

 「シド…分かっていて言っているだろう?」

 

 シドが笑みを浮かべると、少し呆れるようにしてセスは苦笑する。

 

 無論、セスがこの屋敷にいるのは校長が意図していない形で、向こうはもしかすると、乗っ取られたとすら考えているだろう。

 

 この屋敷と当主に執着しているのならば、屋敷を取り替えそうとしたり、組織を潰したいと考えたりするのにも、それなりに理由がつくのだ。

 

 シドはセスにいたずらっぽく笑いかける。セスは小さく息をついて話題をそらした。

 

 「本当はあの時クラスタも連れてきたかったよ」

 

 文化祭の時のことを言っているんだろう。セスのそんな気持ちも分かっていて、校長はクラスタをけしかけたのだろうか。

 

 「校長先生はクラスタのことを自慢の孫と可愛がっているようでした。ないがしろにされていることはないと思います」

 

 気休めにしかならないかもしれないが、シドは校長から聞いた言葉をセスに伝えた。

 

 「そうか、それなら…まだ」

 

 いくぶんは役に立ったのだろうか。セスは柔らかい笑みを浮かべ、その後真顔になってシドに問いかける。

 

 「さて、僕の話はこんなところだよ。それでどうする?我が主」

 

 セスからそう呼ばれたのは初めてだ。ちょっとだけ茶化すような言い方に本当は窘めないといけないところだが、その言い方のお陰であまり気負わないで済んだので今回は何も言わない。

 

 「今の話は僕とアルベルト、それに生徒会メンバーと対策を進めるため使わせてもらう。決して悪いようにはしないさ。…そろそろアルベルトが戻ってくる頃だな」

 

 シドは主らしく口調を改めてセスに伝えた。生徒を使って一組織を潰すなどのありえない暴挙を止め、シークレットジョブと学園のやり方ををあるべき形に戻すこと。その原因が身内間の問題ならなおさらだ。校長先生の暴走を止めることが今回のシドや生徒会の目的だ。

 

 鍵となるのは、この屋敷、セス、クラスタ、行方不明のフェイロンとフェルディール。

 

 行方不明の二人を探すのも急いだ方がいいかもしれない。だが、セスがすでに探していて見つからないとなると二人を探すのは難しそうだ。

 

 黙りこんだシドが考えをまとめているのを気づかって、セスは紅茶を入れ直し、彼の前に置いた。

 

 そんな風に過ごしていると、はいに部屋のドアが叩かれる音がした。シドがセスに頷き、セスが入室を許可する。

 

 「ただいま戻りました」

 

 流れるような動作でドアを開け入室しドアを閉めたアルベルトが部屋の中の二人に向かって挨拶をする。

 

 「首尾は?」

 

 アルベルトが入ってきたドアの方を振り返りもせずにシドは彼に問う。アルベルトもそれが当然であるというようで流れるように答えた。

 

 「すべて滞りなく終わりました。あの部屋にいた皆さんはしかるべきところへ向かっているでしょう」

 

 「ご苦労だった」

 

 シドはセスの様子をそれとなく伺ったが彼は表情にはなにも表さなかった。

 

 アルベルトが入室する少し前ほどに能力の使用に限界を感じ使うのをやめたので彼が何を思っているのかは分からない。

 

 シドはセスのことを気にしながらも別の話を振った。アルベルトが戻ってきたので口調も戻す。

 

 「では、選別の後始末も終わったことだ。早速だが、頼みたい仕事について説明する」

 

 「よろしくお願いいたします」

 

 セスも自然に口調を戻し、丁寧な礼を見せる。シドはあらかじめ考えていた仕事内容をセスに伝えた。

 

 「知っていると思うが、クローバード社では子供が楽しめる玩具を制作し販売する仕事をしている。生まれたばかりの赤子から少年少女に向けたものまで幅広く扱っている」

 

 「はい」

 

 「その行程には色々とあるが今回君達、レーヴンヴァイスに任せたいのは、モニターテストだ」

 

 「なるほど、モニターテストですか」

 

 セスがそんな風に相づちを打つ。アルベルトは口出しはせず、ただシドの後ろに控えていた。

 

 「そうだ。君達の組織には大人も所属しているが、子供の方が人数は多い。あの小さな教室のような所にいる子供達とも繋がりがあり年代も幅広いだろう」

 

 まだ組織の全員を把握したわけではないが、これはほぼ間違いがないと思う。リストでは確認しているから。

 

 「そうですね。後程、詳しい資料を提出いたしますが、今おっしゃられたことに間違いはないと思います」

 

 セスの肯定でシドは考えの修正を図る必要がないことを自覚した。

 

 「モニターテストでは新商品を発売する前に、実際に子供達に使用してもらいデザインや性能を確かめる重要なものだ。だが、モニターの子供を毎回集めるのには中々苦労していた。その点子供が多い君達組織はその問題を解決するのに非常に役に立つ。是非モニターを任せたい」

 

 セスはなにかを考えるように視線を動かして聞いていたが力強く首を縦に振る。

 

 「分かりました。ありがとうございます」

 

 「ああ。具体的には場所は室内遊具に関してはここでやってほしい。屋外のものはその都度指定するがな。進め方は組織にいる対象年齢の子供に新商品を使ってもらい、大人にその様子や子供の感想を記録してもらう。実際にモニターテストを行う初回にはアルベルトを派遣するので教わってくれ」

 

 「はい、よろしくお願いいたします」

 

 セスはアルベルトを見る。セス達の事情を知らない社員を派遣するにはいかない。事情を知っているアルベルトが適任だ。

 

 「後の詳しいことはやりながら聞いてくれ。次に細かい話だが…」

 

 シドはその後、セスにクローバード社に勤めるにあたっての注意事項や社則、福利厚生についてセスに伝えた。時々アルベルトが補足をする。こういうものは本当は全員に話さなければいけないが、レーヴンヴァイスには子供も多いので、ここの代表であるセスに伝え管理してもらう方がいいと考えた。

 

 セスはそれについても真剣に聞き、質問を挟みながら話は進む。

 

 「今日はお越しいただきありがとうございました」

 

 「いや、これからよろしく頼む」

 

 今日話すべき全てが終わり、挨拶を交わす。言葉にはしなかったが、セスの目が「頼むよ」といっている気がして、シドは少しだけ微笑んで答えた。

 

 そうして、シドはアルベルトを伴いアイヴァーに組織から屋敷まで送られるのであった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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