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偽主  作者: シュカ
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校長の能力とシドの反省

キーツは皆の反応に「ああ」と一人納得の表情を浮かべた後、アルベルトの方を見た。その視線にアルベルトも気づく。

 

 「アルベルト殿。今日、同席してもらったのは、シドの保護者として貴方の立ち会いが必要だと思ったからだ。これから話すことは学園にとっても極秘事項だ。他言無用でお願いしたい」

 

 アルベルトはシドに発言の許可をとった後アルベルトに向き合った。

 

 「もとよりこの場のお話は極秘事項でしょう。我が主のお立場を悪くする真似は致しません。もちろん、我が主にご協力いただける皆様のお立場もです。そのくらいはわきまえております」

 

 やや芝居がかった仕草であったが、その言葉は彼の真意だ。

 

 「ありがたい」

 

 「しかし、お一つだけ ご訂正させていただけないでしょうか?」

 

 「なんだ?」

 

 少しだけ警戒したようなキーツにアルベルトはふっと笑みを浮かべた。

 

 「私がシド様の保護者という点でございます。私はシド様の保護者ではございません。シド様が私の保護者なのです。お間違えなきようお願い致します」

 

 予想外のセリフであったため、シドを除く一同が呆気に取られた様子を見せた。シドがアルベルトの方を振り替える。その顔には眉間にシワが刻まれていた。

 

 「アルベルト、今はそんな些細なことを訂正しなくていい。話が滞るだろう」

 

 「出すぎた真似を申し訳ございません」

 

 アルベルトが片手を胸に当て会釈をしたのを見て、シドはキーツに話を振った。

 

 「話を脱線させてしまいすみません。会長、続けてください」

 

 「ああ、こちらも誤解をしていた件はすまなかった。お前達も今から言う話は他言無用だ。本来、校長先生の能力は一部の先生と代々の生徒会長にしか伝えられないものなのだからな」

 

 生徒会メンバーがそれぞれ頷いた。好奇心が顔に張り付いたティムがやや心配だが、言いふらす真似はしないと信じよう。

 

 「いやいやー、いくら俺でも言わないって。だからさぁ、早く話してよ」

 

 キーツも疑わしげにティムを見ていたようで、ティム本人がそう言って誤解を解いている。

 

 「そうだな。校長先生の能力は一言で言うと夢見の能力だ」

 

 「夢見って寝たときに夢を見ることだよねー?」

 

 キーツが意を決したように口を開くと、即座に反応したのはやはりティムだったが、皆も好奇心や興味深いという気持ちをおさえられないでいる。

 

 「夢に関するものもいろいろありますね」

 

 ユウリが人さし指を自分の顎に当てる。

 

 「そうだな。校長先生は未来に起こることを夢で見ることができる予知夢の能力者なのだ」

 

 「未来予知ができるってことだよね。なんかー、思ったよりしょぼくない?一部の人しか知らないからもっとすんごいのかと思った」

 

 ティムの好奇心が消え失せつまんなそうな顔になる。キーツはそんな後輩を見て苦笑いをする。

 

 「お前は相変わらず想像力が足りないな。未来に何が起こるか自分だけが知ることが出来るならば、その未来を変える対応も、相手の先手を打って行動することも出来る。簡単に言えば、自分が有利になれるために誰にも知られず動けるってことだ」

 

 「なーるほどー」

 

 リャッカが丁寧に解説するとティムはニヤッと笑った。それとは反対にシドの表情は曇る。

 

 「急がなくてはなりませんね」

 

 「ああ、校長先生は見たい夢を狙って夢を見ることは出来ないらしいが、寝る度に一つは夢を見ると以前言っていた。その夢の中に今回のことが現れるのも時間の問題ではないかと思う」

 

 「そうですね」

 

 シドはキーツに肯定し、アルベルトに片手をあげて合図する。

 

 「アルベルト、組織と連絡がとりたい。この会が終わった後早急に用意しろ」

 

 「かしこまりました」

 

 アルベルトはこの会の同席を求められているから、会が終わるまでは退出はさせないが、終わった後早急に動いてもらうため、指示だけは出しておく。

 

 「相手はプロトネ学園という大きな学校の頂点にいる校長先生だ。シークレットジョブにも何年も関わっているから勘も鋭い。油断しないようにしよう」

 

 「はい」

 

 キーツは真剣な表情でそう告げた。シドも同じくらい真剣に頷く。

 

 「では、シドはこの後、組織のものとコンタクトをとるのだろう。そろそろ終わろうと思うが、他に何か決めておくべきことはあるか?」

 

 キーツは皆に向かってそう問いかけた。それには特に意見がでない。キーツは納得げに頷く。

 

 「よし、では今日はここまでとしよう。皆ご苦労だったな」

 

 キーツの声がけに緊張が溶けたように一同は息をつく。いつもより少しばかり早い時間帯ではあるが今日は家に帰るという皆をシドはアルベルトと共に見送った。

 

 

 

 

 「坊っちゃん、セスさんに連絡がつきました。選別は終了したらしいです。今日は事後処理に追われており、とても坊っちゃんとお話しできる状態ではないということです。明日の放課後に報告のため迎えを寄越すとおっしゃっておりました」

 

 いつの間に連絡したのかアルベルトはシドにそう伝えた。

 

 「分かった。明日の放課後に向こうに行き話をする。セスさんも校長先生に怪しまれるのは避けたいはずだ。目立った行動を控えるようにさいどつたえたな」

 

 「もちろんでございます」

 

 「ご苦労。僕は仕事をする。何かあったら呼べ」

 

 「かしこまりました」

 

 シドはアルベルトに言い残し、書斎に向かった。セス達の組織をどのように組み込むか、何を任せるか、こちらの用意もしておかなければならない。

 

 もっとも本格的に仕事を任せていくのは、校長先生の件が片付いた後にはなるだろうが。

 

 シドは夕食の時間となり、ナタリーが呼びに来るまで仕事をし、夕食や入浴を済ませた後に、続きを再開した。そうしているとあっという間に時間は過ぎ、寝る前のアルベルトとの報告をする時間となった。

 

 「今日はご苦労だったな。明日からもよろしく頼む」

 

 「もちろんにございます」

 

 今日もベットの上に腰掛け、アルベルトを見上げるようにしたシドは、彼に労いの言葉をかけてやった。

 

 「いつもですと、報告をするお時間ではありますが、本日の収穫はございませんでした」

 

 「そうか」

 

 アルベルトはシドから連絡が来た後、来客のための場を整えたり、人払いをしたりしていたので、調査に出る時間などなかっただろう。それはシドも把握している。

 

 「これからは慎重に動かなければいけないな」

 

 「ご理解いただいているのでしたら、私からのお話は省略させていただきます。坊っちゃんがご無事で何よりでした」

 

 呟くように言った言葉は、彼なりに反省をしていることを示していた。彼がアルベルトにしおらしい態度をとることは珍しいので、よっぽど答えたのだろうと、アルベルトは彼を叱るのは辞め、無事であったことの安堵のみを再度伝えた。

 

 「それにしましても、いつにもまして無茶を行いましたね」

 

 「確実に手に入るだろう宝を目の前で手放すバカがどこにいる?」

 

 反省タイムは終わったらしく、シドはアルベルトのため息にもお構いなしの挑発的なセリフを吐く。

 

 「宝ですか…」

 

 アルベルトは顎に手を当て目を細めた、そうしてシドを見据える。

 

 「そのためにセスさん達の組織の方々も生徒会の方々も私達使用人も利用してみせたと」

 

 アルベルトは怒りでも皮肉でもなくティムのように楽しげな、だけど意地悪な表情でシドを見下ろす。

 

 「そうだな」

 

 言葉少なにシドは無邪気な顔で笑う。アルベルトの笑みが濃くなり、彼はシドに深めに頭をさげた。

 

 「さすが、我が主。ただ一つを手に入れるため、その他全てを利用し尽くすとは。クローバード家の頂点に立ち続けるには必要な才能でございます。迷わず全てを利用し尽くす姿、私は感服いたしました」

 

 大袈裟なアルベルトの言いぐさにシドは不機嫌そうに顔をしかめ片手を上げて黙れと制した。

 

 確かにシドは使えるものはすべて利用するつもりでいた。どれだけ探しても見つからなかった手がかりが思わぬ形で目の前に現れたことから焦りが生じていたかもしれない。

 

 かなり無茶や勝手を行った自覚もあった。だから、シドは生徒会どころか学園を退学になることも計算にいれていた。正直、退学になってもいいかと考えていた。シドにとっての目的はあの事件の真相を知ることで学園に通うことではない。それはあくまで手段のひとつだ。

 

 そんな思いで参加した話し合いは最初から最後までシドを守ることが議題であった。組織に肩入れしたシドを守ることは、組織を潰したがった校長と対立することを意味する。その危険性を理解した上で、皆はその議題に臨んでいた。

 

 そんな皆の気持ちを考えると、さすがのシドでも申し訳なさでいっぱいになった。先のアルベルトはそんなシドの様子を知っていて、あの発言をしたのだ。間違いなく皮肉である。

 

 「報告がないのなら今日は休む」

 

 「かしこまりました。お休みなさいませ」

 

 ムッとしたシドを見てアルベルトはクスクスと笑う。

 

 就寝の挨拶をしたアルベルトは速やかに部屋から退室した。

 

 アルベルトを見送ったシドは急く気持ちを押さえながらベッドに入る。焦っていても今日はなんとも出来ないのだ。だったらせめて、明日のために体を休めよう。 

 


 

 

 

 

 

 

 

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