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偽主  作者: シュカ
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二日間のブランク

弁当を食べ終えたシド達は屋上にやって来ていた。今日は雪も降っておらず、涼しい風が時おり吹くものの冬にしては暖かい。上着を一枚羽織るだけで寒さは十分しのげた。

 

 昼休みの喧騒が下の方から聞こえる。屋上にはシドとティムしかいなかった。それも当たり前である。屋上は基本的に文化祭の時のみの解放となっているからだ。

 

 学園といえば屋上だと熱意を持った先々代の生徒会長がかなり強引に職員室に交渉したらしい。あまりの熱意に職員室側は文化祭の時のみ解放を許したが、普段の屋上は数年前から事故防止のために封鎖されている。

 

 それなのに二人がここにこれたのは、ティムがなぜか屋上に通じるドアの合鍵を持っているからだ。

 

 「なぜ、屋上の鍵なんてものを持っているんだ」

 

 「どーしてだと思う?まっ、いいじゃん。ここなら誰にも邪魔されないでしょ」

 

 ティムは手の中でチャリチャリと鍵を弄びながら笑う。シドは自分のこめかみに人差し指をあてた。

 

 「シド君はまじめだよねー。あっ、この事バラしたらシド君の秘密もバレちゃうから気を付けてねー」

 

 「分かったよ」

 

 笑ったまま脅迫をしてくれるティムにシドは苦笑を浮かべる。シドが絶対にティムの鍵のことをバラせなくなったところで二人はフェンスを背に適当に腰を下ろした。

 

 「じゃ、シド君がお休みだった二日間のことだったよねー」

 

 「出来れば、あの後学園に戻ってからのことも教えてほしい」

 

 「ん、了解」

 

 ティムはシドのリクエストの通り、あの後学園に帰ってきたところから話す。

 

 「まぁ、あの後はみんな疲れてたからさ、戻ってきて、さっさと解散したんだよねー。だから、実際は次の日になるのかな」

 

 組織の拠点から帰った生徒会メンバー達は、その日はすぐに解散したらしい。ユウリ、チュリッシェ、リャッカ、ティムは一緒に生徒会室から通学路に行ったらしい。

 

 「その後、戻った人がいたかは知んないよ。俺はそのまま帰ったかんねー。かいちょーはその後も生徒会室にいたんだろーなとは思うけどね」

 

 それにシドは頷く。他のメンバーはともかくキーツは確実に生徒会室に居残っただろう。その光景は容易く想像できる。なんのために残ったのかまでは分からないが。

 

 「それで次の日だ」

 

 次の日の朝は何の変わりもないようにティムは感じたようだ。リャッカを除いた四人が集まり、昨日はお疲れ様から始まり、反省会をしてホームルームを迎えたらしい。

 

 「雰囲気はいつもどおりだったなー。だからさ、変だなーとも思った」

 

 「どの辺りが?」

 

 「かいちょーがあまりシド君の心配をしてない気がした」

 

 ティムがその相貌をスッと細めてシドを見た。口元には笑みを浮かべているが、笑っているようには見えなかった。

 

 「そうか」

 

 「うん、他の先輩達もそんなかいちょーを不振に思ったみたいよ。いろいろ探ってたみたいだから」

 

 メンバー達はそれとなくキーツの様子をうかがっていたようだが、キーツがぼろをだすとは思えない。そもそも

メンバーはシドの行動に多かれすくなから疑問を持っているようで、そんなキーツをそこまで気にするでもなく、すぐに普段の生徒会業務に移ったようだ。

 

 「うーん、かなりご立腹のようだな」

 

 シドが頬に手を当てため息をつくとティムがじとっとした目をした。

 

 「そりゃそーでしょ。誘拐されたあげく、なんかとんでもないことしてんでしょー。俺には分かんないけど、かいちょーはそれが分かってるから、あんな感じなんでしょ」

 

 ティムの言う通りすぎてぐうの音もでないシドであった。

 

 「で、昨日の放課後なんだけどさー」

 

 昨日はリャッカが生徒会室に来ていたらしい。その内容がシドの今後の処遇についてのことだったそうだ。

 

 「リャッカ先輩、かなり詰め寄ってたよー。まぁ、シークレットジョブ中にパートナーに好き勝手されちゃあ、そうなんのも分かるけどね。分かってるかは知んないけど、今回問題になってんのはシド君が誘拐されたことより、その後の行動の方だから」

 

 リャッカは放課後の生徒会室でシドを退部に、あるいはシドの秘密を持ち出して退部にした方がいいのではないかとキーツに進言したらしい。その様子は感情に任せたものでなく、極めて冷静だったことからメンバー達も真剣になったようだった。

 

 「かいちょーは全ては話し合いが終わってから決めるって言ってたよ。リャッカ先輩の意見はひとまず保留って感じだけど、かいちょーもかなりキレてるみたいだから、今回シド君はマジでヤバイかもね」

 

 「どんな風にだ?」

 

 「どんな風にって。まぁ、退学はまだしも退部の危機にはなるんじゃない?生徒会退部したら学園せーかつに影響が出そうだよねー」

 

 「そうだな」

 

 キーツがまだ行動に移っていないのは自分の考えが本当にあっているかの確信が得られていないからだとティムは言う。だから、話し合いが終わってから決めるとリャッカに言ったのだと思う。

 

 「そ、けっこーピンチな状況だと思うよ。だけどシド君ってば落ち着いてるよね。なんで?普通もうちょい焦んない?」

 

 ティムの質問にシドはすぐには答えられなかった。自分でも自覚してはいたが人に言われると感じるものはまた違う。沈黙を黙秘と受け取ったのかティムはまた笑う。

 

 「まっ、いーけどね。話し合いの時には決着がつくでしょ。そん時には黙ってなんていらんないと思うしさ」

 

 ティムがここでの話は終わりというように立ちあがり、フェンスの下の方を見る。生徒達の声が聞こえている辺りだ。休み時間はまだ続いている、知り合いでもいたのだろうか。シドはあぐらから右膝を立て、左足を伸ばすような形に座り直し、ティムを見上げる。

 

 「ティムはなんで僕に教えてくれたんだ」

 

 「決まってるじゃん。その方が面白いからだよ」

 

 ティムはシドを見下ろして目をパチパチとさせた。それからニヤッと口許を歪める。

 

 「そうか」

 

 「うん。でさ、シド君はどうすんの?あのかいちょー達相手にどうしてくれんの?」

 

 「それは見てのお楽しみだな」

 

 シドは立ち上がりズボンについた砂を払い落とす。

 

 「いいね、その感じ。じゃあ、行こーよ。どーせ、午後の体育は見学なんでしょ?」

 

 「まあな」

 

 そうして、二人は屋上を後にして生徒会室に向かった。

 

 「待っていたぞ、ティムも一緒か」

 

 「どーも」

 

 何となくはそんな気がしていたが、やっぱり会長は生徒会室に来ていた。自分の机につき両手を組んで机の上に置いている。その表情はいつも通りヘラッとしていた。

 

 「色々ご迷惑おかけしてすみませんでした」

 

 シドが腰をきっちりと折って頭を下げる。ティムご半歩後ろで成り行きを見ていた。

 

 「ああ、そうだな。おかげでこちらも大変だぞ。それで、授業が始まったのにここに来たということは急ぎの用件か?」

 

 なんでも知っていて見透かしたことを言うキーツがとぼけたようにシドに聞く。シドは微かに顎をひきキーツを見据える。

 

 「話し合いの件です。僕が寝込んでしまったから遅れてしまってすみません。日取りも時間もいつでも構いません。今日、今からでも場を用意できます」

 

 「そう慌てるな。他の皆は授業に出ているのだ。だが、早い方がいいのは確かだな。放課後、皆の都合があうようならば伺ってもよいか?」

 

 キーツは質問調で聞いているが、それはもう決定事項のようなものだ。会長の決定は絶対だ。よっぽどの用事がない限りは放課後の集まりは結構される。

 

 「はい、問題ありません」

 

 「そうか、アルベルト殿もいらっしゃるのだろう?」

 

 「会長を始め皆さんが同席を許してくださるのならば、アルベルトも同席させます」

 

 「もちろんだ。アルベルト殿にはぜひ出席してもらいたい」

 

 「分かりました。アルベルトに人払いと自身の参加について連絡を取ります」

 

 シドは通信機を取り出す。その場でアルベルトに連絡を入れた。彼にたった今キーツと話したことを伝え、了承を得る。

 

 「聞こえていたと思いますが、これで準備は大丈夫です」

 

 「ああ、聞こえていたぞ。ところで、二人は授業はどうするのだ?」

 

 シドとティムは顔を見合わせる。ティムが首を横に降った。シドがそうだなと頷く。そんな二人の様子を見ていたキーツが二人を誘う。

 

 「そうか、では、お茶でも飲まないか?俺も今日の午後の授業は出ないから暇しているのだ」

 

 「そーだね、いいんじゃない」

 

 シドをちらっと見てティムは自分のカップとシドのカップを戸棚から取り冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出した。

 

 「どっちみち放課後まで俺らも暇じゃん」

 

 「そうだな」

 

 シドはすでに座ってカップをコーヒー牛乳で満たしたティムからコーヒー牛乳のパックを受け取り、自分のカップに注ぐ。

 

 「うむ、良かった」

 

 それから三人は放課後の時間になるまでとりとめのない話をして過ごした。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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