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偽主  作者: シュカ
83/141

帰宅

「罪を犯したものを断罪し、残った者で組織を立て直すということか」

 

 リャッカが考え込む素振りを見せ始める。

 

 「そうです」

 

 「シドの考えはよく分かった。細かいところは後日つめるとして今日はここでやめておこう」

 

 キーツが 突然、話の終了を宣言した。生徒会メンバーが意外そうな顔をしたり怪訝そうな顔をしたりしている。アルベルトがいくぶん微笑を濃くした。そんな面々にキーツは堂々とした態度で言葉を連ねていった。

 

 「今回の我々の目的であるシドの安全の確保と奪還は達成されたであろう。一度学園に戻り、シークレットジョブの達成を報告しなければならない。それに今この組織は内乱の真っ最中であろう。あまり長居するべきではない」

 

 「それはそうですわね」

 

 ユウリが同意するものの、他のメンバー達は納得がいかない様子だった。それをやや強引にキーツはまとめる。

 

 「なに、すでに山場は過ぎている。これからの対処は組織の内乱が終わった後でも全然問題はない。シドの体調が整い次第、話し合いの場をもうけたい。シド、以前のように場を貸してもらうことはできるか?」

 

 シドはちらっとアルベルトを見た。彼がわずかに顎を引く。

 

 「分かりました。準備します」

 

 「すまないな。では、皆、帰ろう。ユウリ、シェルムに借りた転移石は持っているな?」

 

 「ちょっと待て!」

 

 へらっと笑ったキーツを止めるように大声をあげたのはリャッカである。

 

 「まだ話は終わっていないぞ。ここで引いて組織のやつらに逃げられたらどうするつもりだ」

 

 「その辺りはシドが手を打っているだろう」

 

 キーツはシドに向かって微笑みかけた。それで、シドには分かった。キーツが急に態度を変えたのは、彼の頭の中にシドが考えた解決法が存在しているのではないかということが。シドはキーに対してコクリと頷く。

 

 「今できる最善は尽くしておきました」

 

 「だそうだ。ほら、あんまり騒いでいても仕方なかろう。今日はここで帰るぞ」

 

 「待て、俺はまだ、納得してないぞ!」

 

 「まぁまぁリャッカ先輩。いんじゃない?シド君もかいちょーも大丈夫って言ってるしさ。なんかあったら二人のせいってことでいいじゃん」

 

 アルベルトが体をずらしドアの前を開ける。キーツとティムに押されるようにして、リャッカは部屋から出ていった。

 

 「じゃあ、シド、またね」

 

 「お疲れ様でしたわ」

 

 残った女子二人はドアとシドを見比べて一言ずつ残した後、男子メンバーの後を追うようにして扉から出ていった。

 

 これで部屋に残されたのはアルベルトとシドの二人だけになった。アルベルトはドアの前から離れシドのいるベッドの側まで来た。膝をついて目線を合わせるようにする。

 

 「例の計画を進めているんですね」

 

 「ああ、感触は悪くなかった」

 

 「根回しを怠るべきではありませんね。生徒会長さんが撤収を言い渡してくれて助かりましたよ。あの場であれ以上追求されたら、収拾がつかないところでした。坊っちゃんはいつも突拍子もないことばかり…」

 

 「アルベルト、小言ならば後で聞く。まずは、屋敷に戻りたい」

 

 アルベルトの話を遮ってシドは機嫌悪そうに発言をした。

 

 「おや、ここで待たなくてもよろしいんですか?」

 

 先程の話を思い出してかアルベルトがシドに聞いた。

 

 「反逆者を特定していくのはどのみち時間がかかるだろう。今日は帰っても問題ない。セスさんにも全てが終わったら連絡をするように伝えてある」

 

 「作用でございますか。それならば参りましょう」

 

 アルベルトがエスコートするように便利の上のシドに手を差し出した。その手をとってシドはゆっくりと立ち上がる。体に走った痛みにわずかに顔をしかめたのはアルベルトにバッチリと目撃されていた。

 

 「やはり痛むようですね」

 

 「これだけ痛め付けられればな。恐らく今夜は迷惑をかけるだろう」

 

 「とんでもない」

 

 傷が熱を持つように熱く、体の温度が上昇し、シドはだるさを感じていた。今夜は熱を出すだろうとアルベルトに前もって伝えた。

 

 「失礼いたします」

 

 アルベルトがシドの体を持ち上げる。体に負担がないように丁寧な動作であったがそれでも多少は襲い来る痛みに顔をしかめる。

 

 「連れ去られることよりもエイナの能力はこういうときに使ってほしいものだな」

 

 ぼそっと呟いたシドにアルベルトは笑いかける。

 

 「今からでも会いに行きましょうか?鞭による傷が増えるかもいたしませんが」

 

 「冗談だと分かっていても笑えないぞ。というか、お前は彼女の能力を知っているのか」

 

 「道中子供たちが教えてくださいましたので」

 

 エイナの能力は目を合わせたものを眠らせることだ。その能力を使いシドをさらったのだった。シドはその能力のことをセスから聞いて知っていた。

 

 アルベルトはここに小さな教室の子供たちと来たと言った。ナシャも一緒だったようだが子供たちがアルベルトに話すことを止められなかったようだ。その光景が安易に想像できてシドはナシャに同情した。

 

 「そうか、まぁいい。アイヴァーとも話しているようだな」

 

 「ええ、坊っちゃんが元気になりましたらお話ししましょうとお伝えしました。彼もなにか言いたそうでしたからお誘いには乗ってくださると思いますよ」

 

 「そうか」

 

 「はい。では、そのアイヴァーからこれをお借りしましたので、私達も屋敷に帰りましょう」

 

 アルベルトがシドを抱えたまま転移石を懐から取り出す。これを話し合いの担保としてアルベルトが預かったのならばアイヴァーとの話し合いも実現するだろう。相変わらずそつのないことだ。

 

 「ああ、屋敷に戻ろう」

 

 「では、参りましょう」

 

 アルベルトが転移石を使う。そろそろ見慣れてきた青い光が発生し、シドは目をつむる。

 

 次に目を開けた時は屋敷の玄関の前だった。後はドアを開けて中に入るだけのところまで来ている。拐われてから今まで、外に出ていなかったから分からなかったものの、外は薄暗くなり始めていた。シドには時間の経過が早く感じた。

 

 「アルベルト、おろせ」

 

 「…かしこまりました」

 

 アルベルトは一瞬迷った様子を見せたが、堂々たるシドの命令に従い彼をそっとおろした。体調の悪さを感じさせない身軽さでシドは地面に降り立つ。

 

 タイミングを見計らいアルベルトはドアを開けてシドを通した。シド達が戻るのを待っていたのか従者達が入り口にほど近い部屋から出迎えに来てくれた。

  

 「お帰りなさいませ、坊っちゃま」

 

 一番に口を開いたのはヘザーだった。彼女はシドが帰ってきて安心した顔をしたが、あちこちに包帯を巻いている彼を見て、すぐ表情を歪めた。

 

 「ヘザーさんから聞いて心配してたんですよ。戻ってきて良かったです」

 

 ナタリーは動けるほどに回復していた。心底ホッとしたというのが表情に出ている。

 

 「坊っちゃん、すいやせんでした。俺が最後まで見届けていれば、こんなことになりやせんで済んだかもしれねぇのに」

 

 腰を九十度に曲げてジェイドが言った。シドを学園に連れて行き、拐われる前、最後に付き添っていたのは彼だ。責任を感じてしまっているのか、シドの怪我を見て、辛そうに顔を歪めている。

 

 「ジェイド、顔をあげてくれ。ジェイドは無事に学園まで僕を送ってくれた。その後で起こったことだ。僕の不注意な原因だ。ジェイドが気にすることではない」

 

 ジェイドは顔をあげたものの納得がいかなそう顔をしている。シドはジェイドを含め、従者達を安心させるように微笑んだ。

 

 「見た目ほど悪いわけでもないし、なにも問題はない。皆、心配をかけてすまなかったな。この通り僕は大丈夫だから、仕事に戻ってくれ」

 

 シドがそういうと三人はシドに向かってお辞儀をした後、屋敷に散らばって仕事を再開した。

 

 アルベルトの視線が後頭部に突き刺さった気がした。見上げるとジトッとした目のアルベルトと目があったら、

 

 「…何か言いたそうだな」

 

 「いえ、特にありません」

 

 にっこり笑ったアルベルトがシドを自室に連れていき、彼を休ませるための準備を始める。

 

 シドは自分の自室に戻ったことで少し気が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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