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偽主  作者: シュカ
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到着

それぞれがそれぞれのルートでシドのもとに向かい、組織の拠点まで到着した頃、一足先にセスの部屋までたどり着いたのはリャッカだった。

 

 セスの部屋の前で苛ただしげに声をかけてきたのをセスが中に入れたのだ

 

 彼は独自の情報網と昨日ここに来た経験を生かして、ここを特定しやって来たのだった。一騒動あった後だ。後始末に出ている組織のメンバーはシェルムとアイヴァーだけでない。

 

 手薄になっている所に侵入するのはリャッカにとっては造作もないことだった。

  

 「無事か?クローバード。ずいぶんと撹乱させてくれたものだな。」

 

 ベッドの上で上半身だけを起き上がらせているシドにリャッカは眉間のシワを寄せる。アリアがおろおろとしてシドとリャッカを見比べた。

 

 「皆さんにご迷惑をかけてすみませんでした」

 

 シドは目をそらさずにリャッカに言う。一触即発の雰囲気に思えたが、リャッカは舌打ちをひとつしただけだった。

 

 「で、お前が仕出かしたことだが、どうやって始末する気だ」

 

 厳しい言葉と表情は仕事人であるリャッカらしいものだった。シドはセスとアリアをちらりと見てからいたずらっぽく笑った。

 

 「それについては話がついたところです。後はお任せいたしますよ、セスさん」

 

 「ああ、分かった」

 

 セスは人の良さそうな笑みを浮かべて、部屋から出ていこうとする。

 

 「どこへ行く?」

 

 リャッカが警戒した声でセスを呼び止めた。

 

 「組織の後始末は組織のボスである僕の仕事だ。何よりシドはまだ本調子ではないだろう。僕が話をつけてくる。アリア、行こう」

 

 その表情は決意と諦めを含んだ複雑なものだった。それを押し殺すようにして、セスはアリアを伴って今度こそ外に出ていき部屋にはリャッカとシドが残された。

 

 「お前から話を聞くのは後でいい。皆が揃ってからの方が説明も一度で済むだろう」

 

 どかっとあぐらをかいてリャッカは座った。

 

 「学園の方はどうなってますか」

 

 「生徒会にシークレットジョブとしてお前を探すように指令が来たらしい。俺が学園を出た後でラドウィン先輩から連絡が入った。もとが校長からのシークレットジョブだから大事にしたくなかったようだ」

 

 シドの問いにリャッカは淡々と答えた。ある程度の予想は当たっていたとシドは思う。

 

 部屋の前で声がし始め、シェルムが部屋のなかに飛び込んできた。

 

 「シドぉ、あのねぇ…ってえぇ?」

 

 「気にしないでくれ」

 

 シェルムはリャッカがいることに気づきとろんとした目を驚きの色に染めた。リャッカが軽くてを降って答える。

 

 「あのねぇ、シドのお友達と仲間をつれてきたんだよぉ。途中でアイヴァーがシドの家来ぃ?を連れてきたから一緒にいるんだぁ。入れてもいい?」

 

 お友達と仲間が生徒会メンバーで家来がアルベルトだなとシドはすぐに理解した。シェルムに向かってシドは頷き答える。

 

 「中に入れてくれ」

 

 「分かったよぉ。僕とアイヴァーはボスのお手伝いに行くねぇ」

 

 シェルムが言い残して去っていったのと入れ違いに、生徒会メンバーとアルベルトが入室してきた。

 

 「シド、無事か!?」

 

 真っ先に声をかけてくれたのはキーツだった。リャッカと連絡していた手前、彼がいることに疑問を抱いている様子はなく、純粋にシドを心配していたことが分かる。

 

 「お怪我をされたのですか?」

 

 「だけど、思ったよりは元気そうだねー」

 

 「まぁ元気そうで良かったわ」

 

 ユウリ、ティム、チュリッシェが口々に言った。シドは大丈夫と笑って頭を軽く下げてみせた。生徒会メンバーは床に座った。

 

 シドはアルベルトに視線を向けるが、彼はドアの前に立ったまま、落ち着き払っており微笑を浮かべていた。通常時に屋敷で働く姿と変わらない。

 

 シドが見ていたことになる気づいた彼が一歩進み出る。

 

 「坊っちゃん、アイヴァーの方より大方の状況は伺っております。今回坊っちゃんが連れ去られ、危害を加えられたことは、組織の一部の人間が独断で行ったことも分かりました。坊っちゃんとしてはこれからどうされるおつもりですか?」

 

 アルベルトはここが組織の本拠地でシドが怪我をしてベッドの上というのが見えていないのかと言うほどの通常運転でシドに問いかける。

 

 「アルベルト殿、シドは怪我を…」 

 

 「我が主のご心配をしていただきありがたく思いますが、まずはこの場を納めるのが先決でしょう。いつまでもここに居座るわけにもいきませんから」

 

 キーツの言葉を遮ってアルベルトは微笑んだ。リャッカがそれに同意した。

 

 「シド、まず何があったのか話してくれ」

 

 キーツがそう促した。彼は公平な判断をするために、自分の知らないことは先に相手に話させる節がある。

 

 シドは了解ですと返事をし、エイナが表れてさらわれたことから、尋問を受けたこと、シェルムに通信を繋ぎ、助け出してもらったこと、その後セスの元で保護を受け手当てをしてもらったことを順繰りに話した。

 

 「そうか、体は大丈夫か?」

 

 「ええ、しっかり手当てをしてもらったみたいで、動くと痛みがありますがこうしていれば問題ありませんし行動するのにも支障はありません」

 

 どこか他人事のように体調のことを話すシドにチュリッシェとリャッカが不可解そうにしたが、特に発言はしなかった。

 

 「それで、この後はどういたしましょうか?必要があれば始末いたしますが?」

 

 微笑を浮かべて、さらりと言うアルベルトを生徒会メンバー達はひいたような顔でみた。シドは軽く手を挙げてアルベルトを制する。

 

 言いたいことがたくさんあるが、屋敷ではない場所で生徒会メンバーもいる、この場ではそれを問うことはできない。だから、彼はなるべく早く帰るために行動を急かしているのだろう。

 

 そんなアルベルトの気持ちを見透かしてシドは仕方なさそうなため息を吐いた。

 

 「まず、アルベルト。組織の問題は組織で片付けさせる。僕らはここで待機していればいい」

 

 「そうでございますか」

 

 アルベルトには昨日のうちに計画を話していた。今のシドの言葉で昨日の計画が進んでいることに気がついてくれた。

 

 だけど、当然ながら生徒会メンバーにはピンと来なかった。ユウリが代表して疑問を口にした。

 

 「シド君、どういうことですの?説明をお願いしますわ」

 

 キーツが真剣な顔で、チュリッシェとリャッカが怪訝そうに、ティムは楽しそうにそれぞれシドに注目をする。

 

 「昨日僕とリャッカ先輩はこの組織で組織のボスであるセスさんから組織の現状を聞きました。リャッカ先輩詳しく話してもいいですか?」

 

 「手短にな」

 

 コクリとシドは頷き、事情を知らないメンバーにも分かるように話す。ここにたどり着いたと言うことはキーツ達、シークレットジョブには関わらなかったメンバーもある程度のことは知っているとシドは予想していたが、メンバー達はあまり詳しい事情を知らなかったようで、詳しい話が必要となった。

 

 「なるほど、概ね把握したつもりだ。皆も大丈夫か?」

 

 キーツが皆に問いかけると、皆は一様に頷いた。

 

 「では、続きを頼む」

 

 「僕は昨日組織を潰すのではなく、やり方を変えるのが必要だと提案しました」

 

 「いくらシークレットジョブとはいえ、そのような過激なことはしなくて済むならその方がよいな」

 

 「はい。だから、僕は事実上一旦組織を潰すことにしました」

 

 にこりと笑って言うシドに頭痛を覚えたようにキーツが頭を押さえた。

 

 「シドよ、待て。言っていることがおかしいぞ」

 

 「すみません、説明が足りませんでした。僕は組織を潰すことは出来ません。だけど、シークレットジョブとされた以上何の行動も起こさないわけにはいけないし、確かに組織には危うい部分もあります」

 

 「そうだな」

 

 リャッカが相づちを打つ。

 

 「しかし、町で騒ぎを起こしたものはすでに裁きを受けていますし、彼らの多くは能力持ちとそうでないものの平等を望み活動しているものです。それを危険な思想と断罪するには弱いんです」

 

 「組織ぐるみで罪をおかしているわけでもなく、罪をおかした者はさばかれているのなら確かに弱いな」

 

 「待て、文化祭の件はどうなる?あれは明らかに罪だぞ?」

 

 キーツが肯定し、リャッカは文化祭の件をあげてきた。楽しみにしていた文化祭をめちゃめちゃにされたことを思い出したのかチュリッシェは深く頷いた。

 

 「リャッカ先輩の言う通りあれは確かに罪となりうるでしょう。しかし、忘れてはいけないのは、そもそも校長が孫娘のクラスタを使って、彼らを呼び寄せたのが原因です。セスさんに聞いた話ですが、あれに当たっていたものは、依頼主、つまりクラスタの希望で動いたと言っていました」

 

 「えー、それって文化祭をめちゃめちゃにして連れてってと連絡したってことー?だったら学園側に問題大有りじゃん」

 

 「ティムの言う通り、校長先生が裏で手引きしていたと考えるのが妥当でしょう。ならばあれは学園側の不手際でもある」

 

 「その発言が本当ならな」

 

 「ええ、だけど、リャッカ先輩。僕の能力はご存じでしょう?」

 

 シドが挑戦的に笑う。リャッカは「ああ、そうだったな」と呟いた。

 

 「だから、一度組織を潰した上で、再構築させて新たな形で組織を復活させることを考えました」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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