シドの捜索(生徒会とアルベルト)
へらっと頬笑むティムの前に現れたのはびくびくした様子のシェルムだった。
「ティム、彼は?」
「この間学校に来てたシェルムだよ。組織のメンバーなんだ」
柔らかい表情をしていたキーツの顔がややこわばる。
「そうか、それはそうとここから少し離れよう」
「そうだねぇ、僕もその方がいいと思うよぉ」
二人に促され、メンバーたちは移動する。建物より少し離れ角を曲がったところで足を止める。
立ち止まるとシェルムがキーツを見て、それからチュリッシェとユウリを見た。最後にティムに向かって聞いた。
「みんな、シドの友達ぃ?」
「んー、そうだねー。俺はシド君と友達だけど、他は先輩だかんねー。友達ってか仲間かな」
「…仲間ならいいやぁ」
うんうんと頷くシェルムにチュリッシェがしびれを切らした。
「あんた、シドの場所を知ってるの?それなら、早く言いなさい。私達はあいつを迎えに行くの」
ややきつい声色にシェルムが怯んだ。ティムがかばうようにシェルムの前に立つ。
「ほらー、チュリッシェ先輩。あんまり怒るからシェルムがびっくりしちゃったでしょ?」
「だけど、こいつは敵じゃない」
チュリッシェはシェルムを見上げて値踏みをするような目付きをする。
「ティムぅ、このちびっこ怖いー。なんでシドのお友達って怖いのばっかなのぉ」
それは禁句だと誰もが思ったが遅かった。チュリッシェは拳を握りしめ、ドスの聞いた声をあげる。
「誰がちびっこだぁ!」
「ひぃ!?」
シェルムが素早い身のこなしでティムを盾にし、ティムが慌ててシェルムを引き剥がそうとした。その時のシェルムの動きはクラスタの使い魔であるムウムウと対峙したときのような早さであった。
「こら、お前達。今は遊んでいる場合ではないぞ。シェルムよ、君がティムに合図をし我々を呼んだのだろう?なんのようだ」
キーツが後輩たちを嗜めてシェルムに語りかけた。シェルムはティムの後ろから首だけ見せるようにして様子をうかがった。
チュリッシェがユウリに宥められているのを見て、ティムの後ろから出てくる。
「シドのことで話したかったんだぁ。シドは今、ボスが保護してるから安心だよぉ。お迎えに行くなら一緒に行こうかぁ?」
「ボスがシドを保護しているだと。ボスと言うのはシェルムが所属する組織のボスという意味だな」
「そうだよぉ、エイナが勝手にシドを連れてきたんだぁ。僕もシドに悪いことしちゃったから、せめて、お友達が迎えに行くならお手伝いしたいんだぁ」
申し訳なさそうに目を伏せたシェルム。キーツは今、頭の中で高速に考えを巡らせているのだろう。シェルムの言ったことを審議するような顔をしている。
「君がシドのところまで案内してくれるのか?」
「うん!みんなで行こうよぉ」
乗り気なシェルムにキーツは他の生徒会メンバーに確認をとる。
「俺はシェルムの提案に乗ってもいいと思う。危険が伴うかもしれない。シークレットジョブとはいえ無理強いするつもりはない。着いて来たいものは共に行こう。」
キーツは他のメンバーを危険な目に遭わせたくないと心から思っていた。だから、シドはなんとしてでも自分で助け、メンバー達には戻ってもらう選択をしたかった。
だが、シドを心配しているのは自分だけではない。皆がシドのことを思っているのが分かるからこそ、決断はそれぞれに任せようと思った。
「よし、いこっかー」
真っ先に言ったのはティムだ。友達の家に遊びに行くような感覚で言う。
「そうね」
それにチュリッシェが続く。先程までむくれていたのが嘘のような落ち着きだ。
「お供しますわ」
ユウリはキーツを見て微笑んだ。皆の意思が確認できた今、躊躇することは何もない。キーツは力強く頷いた。
「では、シェルム。シドのもとに案内してくれ」
「はーい、皆集まってねぇ」
そんなメンバー達のやり取りを見ていたシェルムは嬉しそうに笑った。そして、ポケットから石を取り出す。
「それは何だ?」
物珍しそうにキーツはシェルムが持つ石を眺める。
「転移石だよぉ。これを使うと、すぐに戻れるんだぁ。ほんとはアイヴァーにお願いしたかったんだけど、大事な用事で帰っちゃったからさぁ。僕はこれを使うように言われたんだぁ」
「なるほど」
シェルムが説明をしたのを聞いて、キーツは考え事を始めた。アイヴァーと言うのは彼の組織の仲間のことだろうか。
「じゃあ、行くよぉ」
シェルムが転移石を握りしめると、五人の体が青い光に包まれ始めた。
それより少し前のことだ。ナシャは子供達を引き連れて組織に向かっていた。その中に混ざっているアルベルトはもう子供達からもなつかれてしまったようで、両手はクインスとカトレアに繋がれていた。
楽しそうな子供達の表情はまるで遠足のようだ。
「あのもう少しで着きます。本当にいいんですか?」
「はい、ただ私の方でも用事がございますので、それが終わった後でもよろしければお手伝いいたします」
「用事…ですか?」
アルベルトがそう打ち明けるとナシャは不思議そうに聞き返す。
「兄ちゃん、何の用があるんだ?」
「ネジキ君、前を見てあるかないと危ないですよ」
ネジキが後ろ歩きで訪ねるとライラックがそんな彼を注意する。ネジキはちらっとライラックを見ると歩く速度をおとして、アルベルトの横に並んだ。
「ええ、私も探し物をしているんです。もしかして近くにあるかもしれないので」
「兄ちゃんもこないだの兄ちゃんみたいに落とし物したのか?」
「そんなところです」
その兄ちゃんを探しているのですけどねと思いながらも、アルベルトは笑顔を向ける。子供というのは変に勘がいい。意外と油断ならない相手だから発言には気をつける。
「そっか」
ネジキはそれ以上は追求しなかった。他の子供達もナシャも同様だ。
「ついたね」
クインスが呟く。そこは豪邸だった。建物自体は古いが作りはしっかりとしている。大きさはクローバードの屋敷と同じくらいはありそうだった。
「ここです、普段はこちらにいる人達が運んでくれるんですけど、今はなんだか立て込んでいるようで、小さな荷物だけ運ぼうと思ってます」
「そうでしたか」
シド達とのあれこれがあったから立て込んでいるのではないかとアルベルトは思ったが口には出さない。
どうにもナシャやこの子供達は事情
をよく知らないようだ。ならば、知らせない方がいいだろう。
「おまじないする」
クインスがネジキの方を見て首をコテンと傾げた。
「そんなにこの兄ちゃんが気に入ったのか?」
「この間のお兄さんもですけど、こんなに早くクインス君がおまじないするなんて珍しいですね」
ネジキは驚いたようだ、その理由はライラックの言葉で理解できた。
「いいじゃん、このお兄さん素敵だし」
カトレアはすっかりアルベルトが気に入ったようで、うっとりとした顔をしている。そこは小さくとも女の子だ。
「ナシャ、いいよな?」
ネジキがナシャの方を見上げる。ナシャは黙ってしまった。
「ナシャ?」
「ネジキ君、ごめんね。それはやめた方がいいと思う」
アルベルトのことを気にしながらもナシャはハッキリと断った。クインスはぼうっとした表情のまま再び首をコテリと傾げた。
「なんでだよ!」
「ネ、ネジキくん」
断られると思っていなかったネジキが食いつく。ライラックが飛びかかりそうな彼を捕まえた。
「こないだの子の後に考えたんだけど、やっぱりクインス君のおまじないはよく効くからすごいんだよ。だから、あまり知らない人に使ってはダメだと思うの」
時折弱々しい顔を見せるナシャではあるが、子供にも分かりやすいように言葉を選んではいるが、これは譲れないと強く主張した。
むうとネジキは頬を膨らませたが、クインスに向かって残念そうに言う。
「ごめんな、クインス。今日はダメだってさ」
ネジキなりにナシャの言葉の意味を理解したらしい。クインスはあまりよく分かっていなさそうだったが、ネジキの言葉に頷いた。
「残念だね、お兄さん」
カトレアがアルベルトの手をぎゅっと握りしめた。
アルベルトはふっと笑って子供達とナシャに言う。
「何のことかは存じませんが、お気遣いいただいてありがとうございます。しかし、私の探し物は見つけることができそうです。手がかりをお持ちであろう方がいらっしゃいましたから」
アルベルトの視線の向こうには荷物を抱えたアイヴァーがいた。アイヴァー
アルベルトをちらっと見てからナシャに向き直った。
「物資は用意している。運んだら、彼と話があるから中で待っていてくれ」
「分かりました」
戸惑いがちにナシャはアイヴァーとアルベルトを交互に見た。
「お待ちしております」
アルベルトが声をかけるとアイヴァーは顔をしかめてアルベルトに言った。
「すぐに戻るので勝手に動かないでくれ」




