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偽主  作者: シュカ
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小さな教室の子供達

「まず、シド達には僕のことを知ってほしいなぁ」

 

 シェルムがのんびりとした口調で話し出した。まず彼の話を聞こうとシドとリャッカは頷いた。

 

 「さっきも言ったけど僕は孤児なんだぁ」

 

 ナタリーも孤児だったが、サヒトナの国では残念ながら孤児という存在が珍しいものではない。王が変わってからのここ数年で増えて来ているようだ。国をあげての対策を余儀なくなれているが、国全土に目が行き届くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 シェルムもそんな孤児の一人だった。物心ついた時には、すでに親はいなかった。生きているか死んでいるのかも彼はしらない。

 

 そして、彼もまた毎日を生きていくのに必死だった。小さな子供が親の庇護なくして生きていくのは、想像を絶する過酷なものだ。彼は自分と同じような境遇の子供達と徒党を組んでなんとか毎日を過ごしていたと語った。

 

 「周りに大人はいなかったのか?」

 

 子供達だけで生きてきたという

言うシェルムにシドはその過酷さを想像し顔を歪めた。シェルムはシドの問いにのほほんとして答える。

 

 「僕らがいたところでは、皆が自分のことで精一杯だよぉ。僕らのことなんて気にされたことないよぉ」

 

 「そうか」

 

 シドは気落ちしたように呟く。シェルムは特に気にした様子もなくのほほんとしていた。

 

 そうして、幼い頃のシェルムは同じ境遇の子供達と日々を過ごし生き続けた。そんな生活に耐えられず力尽きた仲間もいた。その子達の思いも一緒に連れてシェルム達は何がなんでも生き抜くと仲間通しで誓った。

 

 必死に必死にとにかく毎日を過ごしていたとある日、転機は訪れる。シェルム達のグループに新たに二人、少年と少女が仲間入した。シェルムはグループでも年少の方だったから、新たに仲間入りした二人はシェルムにとっては大人に見えた。

 

 少年と少女もまた孤児だったが二人にはある野望があり、その仲間を集めていたのだった。だから、実際には少年と少女が仲間になったんではなく、シェルム達が二人の仲間入りをしたと言える。

 

 「その野望と言うのはなんだ?」

 

 リャッカが目をつぶり聞く。頭の中でシェルムの話を整理しているみたいだ。

 

 「それは僕からは話せないなぁ。まぁ、続きを聞いてよぉ」

 

 「いいだろう」

 

 目をつぶったままリャッカは了承した。

 

 少年と少女は年少のものをよく見ており、シェルム達のグループでも皆のことを良く気づかってくれた。加えて頭も良く、親がいなく読み書きができない子供達に勉強を教えてくれていた。

 

 「もしかして……」

 

 シドのつ呟きをシェルムは聞いていて先を促した。

 

 「さっきの建物で教わっていたのかと思ったんだ」

 

 「行ってきたんだぁ。皆、元気だったぁ?」

 

 シェルムの顔がパーっと明るくなった。シドの予想は正解だったらしい。

シェルム達が勉強を教えてもらっていた場所で、今勉強している子供達。つまり、シェルム達の組織と繋がっている場所だった。リャッカが目付きを鋭くしたのが分かる。

 

 身を乗り出す前に服の裾を引っ張ってもうちょっと待ってと訴える。重いため息を吐いてリャッカはその場に座り直した。

 

 「ああ、元気そうな子供達が四人と先生らしき女性がいたよ」

 

 「あ、じゃあ、クインスにも会ったのぉ?おまじないしてもらったりぃ?」

 

 シドは自分の手を握ってにぱっと笑ったあの子の事を思い出す。

 

 「ああ」

 

 「何て言われたぁ?」

 

 「お兄ちゃんの探し物が見つかりますようにだ」

 

 なぜここまで食いついてくるんだと思いつつもシドは答える。リャッカに報告する意味も込めてだ。

 

 「そっかぁ、だから僕がシドたちと会えたんだねぇー」

 

 納得、納得と一人で頷くシェルムにリャッカがしびれを切らした。

 

 「んっとねぇ、皆はおまじないって言っているけどねぇ。クインスは能力者なんだよぉ。言ったことをその通りにできる力のね」

 

 「なっ!?」

 

 「なんだと!?」

 

 それほど強力な能力があるということと、それの使用者が年端もいかぬ子供ということにシドとリャッカはそれぞれ驚愕する。

 

 「ほんとだよぉ。本人は無自覚だけどねぇ。まだ制御も難しいみたいだし、今のところ小さなことしか「おまじない」してないみたいだからいいけどねぇ」


 「それほどの能力が使える子供か」

 

 シドにはクインスがそのことでどんな目に遭ったかが何となく想像がついた。そして、彼があの教室にいた訳も。

 

 「クインスはその能力のせいで孤児になったんだよぉ」

 

 思った通りだった。あまりに強力な子供の能力。しかも本人は制御も出来ない。親はそれを恐れた。だから……

 

 「彼には兄がいるだろ。ネジキと言ったか。もしかして彼も?」

 

 「ううん、ネジキは能力無しだよぉ」

 

 「ならば、どうして?」

 

 シェルムは少しも表情を変えずに相変わらずのほほんと話す。

 

 「二人が兄弟なのも聞いてたんだぁ。ネジキの方は能力無しだよぉ。捨てられたのはクインスだけだったんだけど、そんな弟を守るためにネジキは親元を抜け出してここに戻ってきたんだぁ。弟を守るために」

 

 その話にシドは少なくないショックを受けた。強力な能力を持つ子供を恐れた両親がその子を捨てたことも。捨てられた弟を守るために親元を離れ孤児になった子供がいるということにも。

 

 リャッカの方を見ると、彼もまた衝撃を受けたのか、さっきまで目に宿っていた獰猛な光が消えている。シェルムはそんな二人の沈黙をどうとったのか「やっぱお兄ちゃんだよねぇ」と呟いていた。

 

 「……あそこにいた他の子供も…孤児なんだよな」

 

 絞り出すようなシドの声にシェルムは首をかしげてから変わらぬ口調で続けた。

 

 「そうだよぉ。ライラックは割といいとこの坊っちゃんで兄弟がいっぱいいるんだけどあの子だけ能力持ちじゃなかったからでぇ、カトレアはなんだっけなぁ。ああ、親が別れて別れた男の能力と同じのを受け継いだからだったかなぁ」

 

 シドは聞かなければ良かったと若干後悔する。そんな理由で子供を捨てる親がいるということが許せない。彼自身もまた能力のせいで軟禁されていた過去を持つ。そんな自分でさえ捨てられなかっただけマシだと言うのか。

 

 「あれぇ?シド、大丈夫?」

 

 シェルムがシドの顔を覗き込むようにする。自分でも血の気がひいているのが分かる。無意識に握っていた拳が小刻みに震えた。

 

 それは、そんな境遇を持つ子供達が、それでも元気でシドのことを心配する優しさを持ち合わせていたことに対して同情を感じたのか、子供達をそんな目に合わせている親達に対する怒りなのか、はたまたシド自身が過去に受けた待遇を思い出してのトラウマなのか。多分それの全てが入り雑じったものを感じている。

 

 「そんな子供達を集めてお前達は何をしてるんだ?」

 

 軽く背中に衝撃を覚えて我にかえる。リャッカが背中を叩いたのだ。

 

 「僕らはねぇ。そんな皆を助けたいんだよぉ。だから、あの子達のことも守ってるんだよぉ。いっぱい頑張っているからさぁ、シドとお友達さんも協力してくれないー?」

 

 シドとリャッカは顔を見合わせる。しばししてリャッカは小さく首を横に降った。シドも彼と同じ答えを出した。

 

 確かにシェルムの話はシドにも、恐らくリャッカにも意外なものだった。捨てられた子供達を集め保護し、勉学を教えることは、生半可な覚悟ではできることではない。

 

 だけど、それでも街で関係のない人に迷惑をかけたり文化祭をめちゃくちゃにしたりということはしてはいけないことなのだ。

 

 二人の雰囲気からシェルムは残念そうな顔をした。リャッカはそんなシェルムに声をかける。

 

 「お前達の活動は孤児に勉強を教えることだってのか?」

 

 リャッカからのついかの質問にシェルムは不思議そうにするも答えた。

 

 「他にも色々だよぉ。興味があるならうちに来るぅ?」

 

 「は?」

 

 「ボスが話してもいいって言うなら話せるから、遊びに来ない?」

 

 シェルムの思わぬ申し出にリャッカは罠であることを考える。こちらの身元も知られていることだ慎重になるのは当然だ。そんなリャッカにシドは覚悟を込めて意見する。

 

 「行きましょう」

 

 確かに危険かもしれない。だけど、シェルム達は少くとも校長が言っていたような危険なだけの組織ではないかもしれない。だから、知りたいとシドは思ってしまったのだ。

 

 「ああ」 

 

 組織を潰すとの依頼だがそれを遂行すべきなのかを判断するにも今は情報を集めるのも悪くないとリャッカも最終的には頷いた。


 「決まりだねぇ、案内するよ」

 

 そう言ったシェルムが何を思っているのか二人には分からなかった。

 

 こうして二人はシェルム達の組織に向かうこととなった。

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