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偽主  作者: シュカ
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再びあの人に遭遇

「さて、詳しく話を聞かせてもらおうか」

 

 先程まで隠れていた場所までリャッカとシドはシェルムを連れていった。シェルムを逃がさないようにリャッカとシドは彼を間に挟んで座る。

 

 リャッカは獲物を狙う獰猛な肉食獣のような目をシェルムに向けた。反対にシェルムはリャッカの力で能力が無効化され、さっきのやり取りで彼の実力や性格が分かったのか小動物のように怯えてシドに助けを求めてきた。

 

 「シードォ、この人怖いよぉ。なんとかしてぇ」

 

 「…お前なぁ」

 

 うるうるした目で見つめられても困るだけだ、案の定リャッカは苛立たしげに舌打ちをして、その矛先をシドに向けた。

 

 「埒があかねぇ。お前から知っていることを話せ。こいつはお前を友達だと言っているぞ」

 

 返答次第ではただですまないと、彼のさっきが物語っている。シドは事実だけを買いつまんで話した。

 

 「文化祭で問題を起こしていた彼らを捕まえようと屋上に追い詰めました。中等部のクラスタの一件があったのがその時です」

 

 「あの魔獣の子でしょぉ。びっくりしたよぉ」

 

 シドの話にシェルムは当時を思い出したと言うように自分の体を抱き締めて身震いをした。

 

 「それからその夜に彼と彼の仲間の男がうちの屋敷に侵入しました。僕は仲間になれと勧誘されましたが断りました」

 

 「それで遊びに行ったと言ったのか」

 

 「そうだよぉ」

 

 「なるほど、だいたい分かった」

 

 ほんとにシドが置かれていた状況を理解してもらったらしくリャッカがシドに向ける視線は優しくなった。それにほっとしたのも束の間、リャッカがシェルムに向ける視線が一層きついものになった。

 

 「つまり、こいつは敵確定と言うことだな」

 

 「ひっ!」

 

 思わずシドすらも怯む殺気だった。まともに受けたシェルムは短い悲鳴をあげる。慌ててシドはリャッカを止める。

 

 「先輩!ここで彼に危害を加えても目立つだけです」

 

 「ああ分かってるぜ。んじゃあ、こいつを連れてくぞ。文化祭の時の件もあるからな」

 

 「は、はい」

 

 シドとリャッカの後ろにシェルムは素直に着いてきた。先程リャッカがびびらせたのがよほど聞いたようで大人しい。

 

 「いつも贔屓にしてもらっている宿屋がある。OBが経営しているから外部に漏れる心配はない。そこに行くぞ」

 

 「分かりました」

 

 「例のやつは仕掛けてきたか」

 

 「はい。中の人間とも接触しました」

 

 「分かった。その話も聞かせてもらう。……後ろを頼むぞ」

 

 シェルムの耳にいれるのはまだ早いと判断しシドはリャッカと手短に報告しあい、その後後ろに下がった。リャッカに「頼むぞ」と言われたことが嬉しくて足取りも軽い。

 

 「ここだ」

 

 そこは街中に戻ったところにある小さな宿屋だった。

 

 「男三人で宿屋かぁ」

そう言ってぼやくシェルムはリャッカの射殺すような視線にシュンとなった。

  

 そんなやり取りを見ながらシドは入り口を開けて中に入ると威勢の言い声が飛んでくる。

 

 「いらっしゃい!ってリャッカかい」

 

 「どうもっす」

 

 宿屋の受け付けにいた女将さん風の女性がリャッカを見て笑顔を見せる。女性はシドとシェルムをちらっと見る。

 

 「ひょっとして部活がらみかい?」

 

 「そうです」

 

 「そうかい。待ってな旦那呼ぶから」

 

 「ありがとうございます」

 

 女性は颯爽と受け付けから去って行った。他にお客さんが来ていなかったのでシド達はその場で待っていた。

 

 「あらー、リャッカちゃんじゃない」

 

 「どうもっす」


 「今日も部活ね。頑張っているじゃない」

 

 シドは思わず固まった。時間が止まったかと思うくらいだった。三十歳前後で身長は百八十を優に越えていそうな高さ。それに見合うがっしりとした引き締まっている体。凛々しく強面な顔つき。なのにも関わらず女性のようなしゃべり方。

 

 そう一度見たら忘れられない強烈なインパクトがあるその人。

 

 「ミコルさん?」

 

 「あらっ、シドちゃんじゃない。今日はリャッカちゃんと一緒だったのね。」

 

 「なんだ、顔を会わせたことがあるんすか」

 

 「ええ、シドちゃんとは服屋さんの方でね。そっちの坊やは初めましてだけどね」

 

 バチっとウインクをしたミコルにシェルムはビクッと反応しシドの後ろに隠れた。ミコルはそれを気にしたような風でもなくリャッカに話す。

 

 「こんなところで立ち話もあれね。日中だから、止まっている人も出掛けているわ。空いているお部屋に案内するわね」

 

 これが部活がらみのことだとミコルは聞いていたため、スムーズにリャッカ達を空き部屋に案内した。

 

 「じゃあ、私もお仕事するからごゆっくりー」

 

 お茶とお茶菓子を置いて、ミコルは手を降って立ち去った。それにそれぞれ片手をあげて答えたり、頭を下げたりする。

 

 廊下を歩くミコルの足音が遠ざかるのを聞いて、しびれを切らしたシェルムが声をあげる。

 

 「ある人は何者なのぉ。すごくキャラが濃いけどもぉ」


 それくらいは答えてもいいかとシドはリャッカに聞くと彼は頷いた。

 

 「こうして色々協力してもらってる僕らのOBだ」

 

 「あの人はオカマなのぉ?」

 

 ど直球なシェルムの質問にシドは言葉が見つからない。見かねたリャッカが答える。

 

 「あの人はれっきとした男だ。その気なんてさっぱりない。嫁さんがいる時点でそんなの分かるだろ」

 

 「えー!」

 

 驚きの声をあげるシェルムだが、受付の女性は旦那を呼んでくると言っていた。そして、現れたのがミコルだ。思い返してみればそうだったのだが、怪訝そうなシェルムの気持ちも分からなくない。頭の中で色々考えを巡らせているのかシェルムの表情がくるくると変わる。

 

 「ミコルさんは服屋の経営をしているが、こっちはその嫁さんがやってんだ。今はたまたまこっちに戻っていたようで良かった」

 

 くるくると表情を変えているシェルムをよそにリャッカがシドにそう教えた。それから改めてシェルムに向き直る。

 

 「余裕ぶっているのは結構だが、そろそろ質問に答えてもらおう」

 

 「あれぇ、これってもしかしてピンチ?」

 

 リャッカのドスが聞いた声にシェルムは首をかしげてシドを見た。シドはあきれて頷く。

 

 「んー、僕を帰してくれるならいいよぉ」

 

 「ちゃんと答えたら考える」

 

 シドはリャッカとシェルムのやり取りを見守る。普段なら能力を使用しているだろうが、今回はリャッカがいるため能力は使えない。

 

 しかし、それは昨夜のクローバード家のように外から能力を使って侵入することも出来ないというメリットもある。

 

 「んやー、分かったよぉ」

 

 「よし。まずは名前と歳を言え」

 

 「名前はシェルム。姓はないよぉ。歳は多分十六か七。」

 

 曖昧な年齢と姓はないという自己紹介。シドとリャッカはその意味を理解した。シェルムは二人の顔を見てそれが分かったのか口を開いた。

 

 「孤児なんだぁ。あっ、僕らのことを嗅ぎ回っているのってシド達のことかぁ」

 

 そして、ようやく合点がいったというように納得顔をした。

 

 「ボスが言ってたんだったぁ。外へいくなら気を付けろって」

 

 エヘヘと頭をかく彼は反省しているのかしていないのか分からない。

 

 「ボスって言うのはお前達の組織のということだな。どんなやつだ」

 

 「んー、流石にそれはー」

 

 言葉を出し渋るシェルム。それに対してリャッカが何か言うより早く、シェルムが明暗を思い付いたというように顔を輝かせた。

 

 「そうだぁ、ボスのことは内緒って言われてるからダメだけど、ちょっとだけ僕らのことを話すよぉ」

 

 「意外だな、そっちからそんな申し出があるとは思わなかったぜ」


 リャッカがニヤリと笑う。

 

 「もしかして、そうすればシドも仲間になってくれるかもしれないしぃ」

 

 「可能性は低いぞ」 

 

 シドはそれを否定するがシェルムは首を横に降る。

 

 「それは僕らのことを知らないからだったんだよぉ。知ったら変わるかもしれないじゃん」

 

 そうしてシェルムは二人に自分達のことを語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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