ティム・レレイムとの再開
プロトネ学園のカリキュラムは午前中に座学。午後に実技となっている。学園には平民から貴族まで幅広い身分の生徒がいるため通常の授業に加え、体育や芸術を始めマナー講習などのカリキュラムがある。もちろんのこと能力持ちのための授業というものもこの午後の時間に行われていた。
午前中の授業を問題なく終えて昼休みになるとアルベルト手製の弁当を食べていたシドの周りにまた人が集まっていた。朝とはまた違うメンバーであったがどうやら彼らは純粋な好奇心というわけでもないらしい。
「クローバード君、事業の方が忙しかったようだね。半年間どうだった?」
「休んでても勉強とか出来ちゃうんだからクローバードはすごいよなぁ。」
彼らは親が会社を経営している所の子息で将来は彼らが後を次ぐことになるのだろう。一足先に経営者となったシドに探るような言葉をかけてくる。それを微笑でかわしつつもあまりのしつこさに若干の苛立ちを覚えた。
何せ昼休みが始まってからというもののずっとこの二人に拘束されているのである。さすがに何か言い返そうかと思った時、思わぬ助け船が入った。
「そのくらいにしといてやんなよ。君達。シド君は休学あけたばっかりなんだからさ。そんなに囲んで質問攻めにして、彼が考えすぎてお熱でちゃったら大変でしょ。」
シドに詰め寄っていた二人に煽るような言葉をかけつつ近寄ってきたのはダークグリーンの髪にサファイアのような深い青の瞳を持つ細身の少年、ティム・レレイスだった。身長は175センチはあるがまだまだ伸び盛りだと以前に言っていた。あれから半年たったのでまた少し伸びているかもしれない。
「あれ?もしかして、言ってる意味分かんないかな?」
呆然としている野次馬にティムはスッと挑戦的な光を持つ目をスッと細めた。口元は笑顔のままだったが心なしか先程より若干声が低くなっている。
「ええと、じゃ、クローバード君。また今度話を聞かせておくれ。」
そんなティムの様子に詰め寄っていた二人はそんなティムの様子に危険な色を感じたせいか散り散りに解散していった。どうやら同じクラスの者ではなかったらしい。教室外に行ってしまった。
「うん、そゆこと!分かってるじゃん。」
嬉しそうに笑い逃げていった二人に手を降るティムを見て、シドはため息をついた。
「相変わらずだな。ティムは。」
「なんだよ、俺はただ、いじられてるおチビさんがいるって聞いたから、昼寝を中断してわざわざ助けただけだって」
どうやらこの事態をティムに伝えてくれたものがいたということが判明した。なんだかんだ助かったので心中でその人物に礼をいう。
「分かってるよ。助かった。」
むーっと頬を膨らませたティムにも苦笑しつつ礼を言うと、彼はすぐに機嫌を直し、コロコロと笑った。ああ、チビと言われたことはこの際スルーした。同年代の中でも身長は低い方だし、ティムとも十センチ以上の身長差がある。まぁ、気にしたら負けだ。
「いやいや、いいんだよ。分かってるならさ。久しぶりだしね。」
「ああ、す久しぶりだな。すまなかった。生徒会の方を任せてしまって」
ティムはシドと同じ学年で生徒会メンバーだ。クラスは隣だが自分が抜けていた間、彼がその穴を埋めてくれていたということは、すでに自分のクラスメートづたいで聞いていた。
「ううん、全然。俺もそれなりに楽しめた半年だったしね。それより、今日は生徒会に顔出してくのかな?」
「ああ、挨拶には行こうと思ってた。」
「そっかぁ、んじゃあ一緒に行ってあげるよ。次の時間が終ったら今日は終わりだしね。次は体育だから俺のクラスとシドのクラス合同でしょ」
「ああ、そうだな。だがすまない。僕は次の時間は見学なんだ。」
「あれっ?そうなの。なんだー、俺とまともに勝負できるのシドだけなのに。つまんないなぁ。」
目を丸くしたあと、興味をなくしたように話すティム。本当に表情がコロコロ変わる奴だ。
「悪いな。まだ本調子でないから、体育はしばらくの間見学なんだ。」
「ふーん。まっ、別にいいけどね。けど、それならいっそのこと部室行こうか。どーせ、見学なら出なくても同じだし。俺もサボるから。」
彼はもともと、サボりぐせのある男だったがそれは未だに変わっていないらしかった。そのくせテストなどではなかなかの好成績を叩き出すし、運動も得意という、とんでもなく出来た友人なのだ。
「はぁー、サボるなと言いたいが、言っても無駄だな。」
ティムは一度物事を決めたら、なかなかそれを覆したりしない。そんな彼の一面を知っているので、反論しても無駄だと思い、しぶしぶ従うことにした。
「そうそ。んじゃ、行こっか」
その言葉を皮切りに、るんるんとご機嫌なティムと少々不機嫌なシド。対照的なコンビは教室を後にした。




