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偽主  作者: シュカ
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アイヴァー登場

「あのねぇ、シド。僕たちの仲間にならない。」

 

 「は?」

 

 ぱあーっと顔に無邪気な笑顔を浮かべてシェルムが言い、シドは盛大に顔をしかめた。

 

 アルベルトのシェルムに対する拘束が若干強くなりシェルムが苦しそうにうめく。

 

 アルベルトもシドと考えていることは同じだ。こいつは何を言っているんだと。シドはアルベルトにシェルムが話せる程度に拘束を緩めるよう指示する。

 

 「ひとまず話だけは聞いてやる」

 

 「ありがとぅ」

 

 まるで無邪気な少女のように笑うシェルムは拘束されている自覚があるのか意気揚々と語り始めた。

 

 「さっき屋上で会ったときさぁ、シドなら僕たちの仲間になってくれるんじゃないかと思ったんだぁ。みんな優しかったけど、そんなかでも一番シドが優しかったから」

 

 「坊っちゃんが……優しいですか」

 

 クスリと笑ったアルベルトにシドはじろりと視線を向ける。目でアルベルトは詫びる。

 

 「うん。シドは優しいよぉ。だから仲間になんない?」

 

 「要領を得ないな。お前たちの仲間にはならん。お前の話は聞いた。今度は僕の質問に答えてもらおうか?」

 

 「うん。いいよぉ」

 

 仲間にならんといったときシェルムは傷ついた顔をした。だが、シドの言葉にはまたも頷いた。シドは能力を発動する。

 

 「来たのはお前だけか?どうやってここに入った。」

 

 「仲間と二人で来たよぉ。ここに来れたのはそいつの力」

 

 彼は嘘を言っていない。やはり、想像していた通りの答えだ。アルベルトと顔を見合わせる。そんな二人を無視してシェルムは話し出す。

 

 「ねぇ、シドー。僕らの組織は悪いとこじゃないよぉ。僕は入ったばかりだけどねぇ。やんちゃはするけど人殺しなんて絶対しないのが起きてだし、僕たちみたいな能力持ちが住みやすい世界を作るため頑張ってるんだからぁ」

 

 「能力持ちが住みやすい世界?」

 

 「そうそう。力のある能力持ちが力がない能力持ちじゃない人のために働くって変だと思わない?僕らはもっと自分の力を自由に使える世界にしたいんだよぉ。あのお嬢さんは仲間になんないみたいだから、代わりにシドに話しに来たんだぁ」

 

 能力持ちが住みやすい世界を作ることが彼ら組織の目的だということか。

 

 「坊っちゃん」

 

 アルベルトが強い声でシドのことを呼ぶ。これ以上聞くべきではないと彼は首を横に降った。

 

 「そうだな。お前たちの仲間にはならない。僕には僕の目的があるからな。そして、お前もこのまま帰すわけにはいかない。処遇が決まるまで地下で拘束だ」

 

 シドは声に出してアルベルトに返事をする。それからシェルムに向き直った。

 

 「そっかぁ、残念だなぁ。けどしょうがないかぁ。しょうがないから帰るよぉ」

 

 「お前は僕の話を聞いていなかったのか?」

 

 さほど残念でもなさそうにのほほんとシェルムが笑う。呆れてため息をついたシドはアルベルトに向かって軽く頷いた。

 

 「失礼します」


 アルベルトはシェルムを片手で拘束したままもう片方の手で懐から手錠を取り出した。それを抵抗する気もなさそうなシェルムの両手にはめる。

 

 「それは能力を封じるものだ。能力を発動させようとするとひどい激痛が襲うようにできている」

 

 「なにそれ怖い」

 

 シェルムは両手にはめられたそれを見つめて言った。焦りの色など微塵も感じられない。

 

 「あ、でも迎えに来たみたいだからぁ」


 シドの横辺りの空間にシェルムが登場したときのように青白い光りに包まれる。

 

 アルベルトはシェルムを連れたままシドを自身の後ろに隠すように立った。先程と同じように光が徐々に人の形を作っていく。そしてついにその姿後明らかになった。

 

 長身痩躯の全身を黒い服で包んでいる男。その腕の中には

 

 「ナタリー!!」

 

 ぐったりとしているナタリーが抱えられていた。その光景にシドは叫んだ。

 

 「お久し振りでございますね。アイヴァー」

 

 アルベルトはそんな中でも冷静にアイヴァーを油断なく見つめていた。アイヴァーもシェルムが拘束されているのを捉えた。

 

 「アイヴァー、待ってたよぉ」


 シェルムは友達が待ち合わせに遅れてきたときのような調子でアイヴァーに話しかける。

 

 「この娘は返すが代わりにそいつはもらってく」 

 

 抑揚のないたんたんとした具合にアイヴァーは言った。ナタリーとシェルム、それぞれの人質の交換の申し出だった。迷うまでもなくシドはアルベルトに告げる。

 

 「アル、シェルムを離してやれ。ナタリーの安全を優先だ」

 

 「かしこまりました。ですが、私は同時に人質の解放をすることを要求します。まず、ナタリーを床に下ろしてください」

 

 「分かった」

 

 「坊っちゃんは離れていてください。私の動きに合わせナタリーのそばまでいらしてください」

 

 アイヴァーは静かにナタリーを床におろす。アルベルトはそれを確認し、シェルムに施していた手錠を外した。シェルムは手首をぶらぶらとさせている。

 

 「では、3つ数えたら、それぞれ確保といきましょう。ああ、そうでした妙な真似をしたら分かっていますね?」

 

 後半はこんな状況にも関わらずのんきにあくびをしているシェルムに向けられたものだ。彼はあくびをとめぎこちない表情で頷いた。

 

 「それではいきましょう。坊っちゃん、カウントをお願いします。」

 

 アルベルトはシェルムから、アイヴァーはナタリーから距離をとる。

 

 「一、二、三っ」

 

 シドが三と言ったのと同時にシドはナタリーのもとアイヴァーはシェルムのもとに駆けつける。アルベルトはというと、シドのカウントと共に侵入者二人を確保に向かった。無論、シドがナタリーの安全確保に勤めるとわかっててのことだ。

 

 ところが、相手もそれを見越していた。アイヴァーはシェルムのもとに向かいながらすでに能力を発動させていた。アルベルトがアイヴァーの能力を知っているのを利用したのだ。

 

 アイヴァーの能力を知らないナタリー相手の時は発動時突っ込まれる可能性があったが、アルベルトはアイヴァーの能力を知っている。それは彼の能力発動時に突っ込んでいく危険性も知っているということだ。

 

 だから、アイヴァーの狙い通り、アルベルトは二人の体が青白い光に包まれたとき、そこに飛び込むのに躊躇した。

 

 「じゃーねぇ、シド」

 

 シェルムの言葉を最後に侵入者二人はクローバード家から脱出することに成功したのだった。

 

 「申し訳ございません。取り逃がしました」

 

 アルベルトは深めに頭を下げる。

 

 「仕方ない。ナタリーが無事だったんだ。よしとしよう。アル、ジェイドとヘザーをここに。今起こったことを話す必要がある。ナタリーは僕が部屋に連れていく」

 

 「よろしいのですか?ナタリーを連れていくのは私がやりますよ」

 

 「いや、問題ない。僕がする」

 

 「かしこまりました」

 

 アルベルトは早速二人を探しに出た。シドはナタリーを背負い、彼女の部屋に向かった。

 

 ナタリーの部屋は使用人たちに与えている部屋が続いている中の一室だ。中はパステルピンクを基調とした家具とたくさんのぬいぐるみが飾ってあった。そのぬいぐるみに囲まれるようにして設置されているベッドに静かにナタリーをおろす。

 

 今頃、ヘザーとジェイドにはアルベルトがうまく言っている頃だろう。シドが部屋を出ようとすると小さくうめくような声がナタリーから上がった。

 

 ベッドに近づくと、ナタリーがうっすらだが目があいているように見える。そのまま様子を見ていると彼女は目をあけ、そしてかすれた声で言った。

 

 「……坊っちゃん。ごめん…なさい」

 

 「何があったかは覚えているようだな。気にすることはない。よくやってくれたな」

 

 シドはナタリーが意識を取り戻したことにひと安心する。

 

 「けど…私、あの人……逃がし…ちゃった」

 

 「それは仕方がないことだ。」

 

 「坊っちゃん……けが…ない?」

 

 「ああ、この通りピンピンしている」

 

 彼女を安心させるようにシドは出来るだけ優しく答えた。

 

 「良かった。……あうっ!」

 

 起き上がろうと動いたナタリーがふいに苦痛の声をあげる。

 

 「どうした!?」

 

 ナタリーに外傷は見当たらなく、気を失っているだけだと思っていたが、どこかケガでもしているのか?シドは焦った。

 

 「あっ、そか…。力を……使ったから……」

 

 ナタリーは後ろめたそうにそう言った。

 


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