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偽主  作者: シュカ
56/141

ナタリー奮闘

その頃クローバード家の庭をナタリーがライトを片手に歩いていた。屋敷に侵入者がいないかの見回りである。

 

 「うぅ…。やっぱりジェイドさんにお願いすれば良かったかな。けど自分で決めたことだし頑張ろう」

 

 見回りの割り当てを決めるときシドの安否を確認にすぐ動いたアルベルトを除き三人が残った。

 

 ジェイドはヘザーとナタリーに暗く侵入者が潜んでいても分かりにくい外は自分が確認に行くと行ってくれたのだ。

 

 「私にやらせてください」

 

 だが、ナタリーは自ら外の見回りを志願した。ヘザーとジェイドは驚き危険かもしれないと彼女に言ったものの熱意を尊重し任せてくれた。

 

 ナタリーは自分を信頼して任せてくれた二人にちゃんと報告できるように気合いを入れ直した。

 

 「良かった。」

 

 玄関に近い位置の花壇。そこは夕方シドとナタリーの二人でお世話をした花壇だった。ナタリーは坊っちゃんとせっかく手入れをした花壇が荒らされていないか心配していた。ライトを当てて隅々まで見たがさっきとなにも変わらない様子で花は咲いていた。

 

 「侵入者さんって本当にいるのかな」

 

 花壇の無事を確認し幾分安心したナタリーは侵入者なんて本当はいなくて魔道具の誤作動だったのではと考え始める。今まで作動したことのないシステムだし侵入者が来たなんて聞いたこともないクローバード家だ。

 

 書斎でシドとアルベルトがシェルムと対峙しているのを知らないナタリーがそう思うのも無理はない。

 

 誰もいないみたいだしそろそろ戻ろう。ナタリーは玄関のドアを開けてそれから閉めた。ドアを開けたときほんのわずか注意していないと聞き逃すような物音。風も吹いていないし不自然だ。ナタリーはもう一度庭を見渡す。

 

 よく目を凝らすと屋敷によって庭の影になる辺り、その辺りに一瞬だがチラッと布の端切れのようなものが見えた。

 

 ナタリーはその場から音をたてずに駆け出した。何でもなければ気のせいならそれでいい。だけど、もし侵入者なら坊っちゃんが危険な目に遭うかもしれない。私が坊っちゃんと皆の家を守るんだ。

 

 さっき布の端切れのようなものが見えた辺りにつき、慎重に辺りを散策する。数歩歩いては振り替えるを繰り返し、慎重に慎重に。

 

 後ろになにかがいるふとナタリーはそんな気配を捉えた。迫ってくるその気配から逃れるようにその場から飛び退き対峙する形になった。

 

 ライトで照らすとそこには黒ずくめで長身の恐らく男であろう人物がナタリーに手を伸ばす形で立っていた。

 

 「あなたは誰?」

 

 飛び退いた拍子に地面に四肢をつけ獣のように四つん這いになった姿勢から立ち直しナタリーは相手に問う。

 

 当然だが相手は答えない。ナタリーが自分の手から逃れられたことに驚いた顔をしたがすぐに顔を引き締める。それは臨戦態勢をとったという合図だ。

 

 ナタリーも相手を逃さないように瞳を相手に向ける。そして、手に持ったライトを消した。唯一の明かりが消えたことで庭は暗闇に支配された。

 

 先に動いたのはナタリーの方だ。普段の可愛らしい彼女からは想像できない素早い動きで相手との間合いを一気につめた。だが、今度は男も驚かない。ナタリーの手が届こうとしたその瞬間。姿を消した。

 

 ナタリーははっとする。届かなかった手が空をつかむ。しかし勢いを利用しそのまま前転する。

 

 「お前は……なぜわかった」

 

 ナタリーがさっきまでいた場所には男が立っていた。一度ならず二度までも、しかも二度目は能力を使った上に、気配まで消したのにも関わらず避けられたことに男は思わず口を開く。

 

 「それが私の取り柄ですから」

 

 ナタリーは後ろを見ないままそう答えた。

 

 

 * * * * * * * *

 

 「やぁやぁ、さっきぶりだねぇ」

 

 シェルムが口を開いたとたんアルベルトが腰につけていたナイフホルダーからナイフを抜いて彼に襲いかかった。シェルムに動く隙も与えずに背後に周り首もとにナイフを突きつけた。

 

 「えっ、えっ、突然すぎない」

 

 のほほんとしたシェルムの表情が笑顔のまま凍りつく。アルベルトはそのままの姿勢でシェルムに問いかけた。

 

 「クローバード家にどのようなご用件でしょうか?申し訳ございませんが我が主はご多忙です。アポイントお取りいただいた上、もう一度玄関からお越しいただけますか?」

 

 「ええっと、すみません」

 

 アルベルトの気迫にシェルムはたじたじだ。にっこりとした顔に柔らかな声色で、首もとのナイフをシェルムが傷つかない程度にトントンとしている辺り、さらに恐怖心が増す。

 

 「アル、脅しはその辺りにしろ。ただし拘束はそのままだ」

 

 「かしこまりました」


 シェルムがびびってくれたところでシドはアルベルトに指示を出した。アルベルトはシェルムの首もとからナイフを離す。

 

 「あ、ありがとぅ。シドー」

 

 シェルムは涙目だった。アルベルトの気迫がそれほどだったということだ。

 

 「何の用でここに来た。返答によってはただじゃすまないぞ」

 

 拘束されている相手だとはいえシドは油断なく近づく。

 

 「シドに話があって会いに来たんだよぉ。」

 

 「そうだろうな。その話とはなんだ。」

 

 何の用もなく危険を犯してここに来るとは思えない。

 

 「あのねぇ、シド。僕らの仲間にならない?」

 

 「は?」

 

 ぱあーっと顔に無邪気な笑顔を浮かべてシェルムが言い、シドは盛大に顔をしかめた。

 

 * * * * * * * *

 

 一方でナタリーは黒い男と対峙を続けていた。ナタリーが男を捕らえようと突っ込み男がそれを回避しナタリーを無力化するため攻撃が飛ぶ。だが、ナタリーもそれをみすみす受けることはない。突出した回避能力で素早く体を動かす。

 

 「そろそろ捕まってくれませんか?」

 

 再び間合いを取った時ナタリーは黒い男に問いかける。息はあまりきれていないようだ。

 

 「それは断る」

 

 低い地をならすような声で黒い男は答えた。

 

 「そうですか。じゃあ、しょうがないです。これからは本気でいきます!」

 

 ナタリーは地面に両手両足をつき四足歩行の獣のような姿勢をとる。正直男にとっては、能力を使い彼女を巻いてこの場から去ることは難しいことではないはずだった。

 

 しかし、彼にはそれを躊躇する理由が二つほどあった。一つは顔を見られているということ。この暗闇の中ではあるが、戦闘の中で互いに近づく場面は何度もあった。加えて彼女は感覚が優れているように見える。顔を見られているのは間違いなさそうだ。

 

 そしてもうひとつ、目の前にいる小さな彼女が能力を使った脱出など許してくれそうにもないからだ。能力を使った瞬間に突っ込まれてしまったら彼女も一緒に連れていってしまう。

 

 まぁ、それはたいした問題ではない。問題は瞬間移動の能力はとても繊細であることだ。あらかじめ、どこへ何人で飛ぶと決めていないと能力は使えない。一人で飛ぶ予定が突然二人になれば能力は暴走し、どうなってしまうか彼にも予想がつかない。

 

 だから、彼にはナタリーと対峙し彼女を無力化することしか道がないのだった。

 

 「いきます」

 

 「その前に…」

 

 「何ですか?」

 

 ナタリーが駆け出そうとした素振りを見せたとき、男は口を開いた。ナタリーは律儀にもそれに反応を返してしまった。

 

 「娘、名前はなんという?」

 

 ナタリーは地面についていた手を離し立ち上がって男の質問に答えた。

 

 「ナタリー・フォード!クローバード家のメイドです!あなたの名前はなんですか?」

 

 「そうか。俺はアイヴァー・イーシル。…………クローバード家の元使用人だ」

 

 「えっ?」

 

 男……アイヴァーがナタリーに名乗る。元使用人と聞いてナタリーの動きは止まった。その間はこの場において命取りになった。アイヴァーは一瞬にしてナタリーと距離を積める。

 

 ナタリーはしまったと思ったがもう遅かった。気づいたときにはアイヴァーの手刀によって意識を奪われていた。

 

 「……坊っ……ちゃん」

 

 その呟きを最後にナタリーの意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

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