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偽主  作者: シュカ
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全員集合

「そう慌てるでない。敵意などないのだから」

 

 シェルムの側に立ったのは痩身の男だ。髪も目も黒くその衣服までも黒い。年はエイナよりも年上そうだ。彼はシェルムの腕をつかむと突然として姿を消した。

 

 「我々はただ、その女子を迎えに来ただけだ。だが、彼女に我々と来る意思がないのならば、無理強いするつもりもない」

 

 次に男の声が聞こえたのは、エイナのすぐ側だ。シェルムも男と共にそちらに移動している。能力による瞬間移動だとシドは確信する。最初にシェルムの横に移動したのもその能力を使ってやったのだろう。

 

 シド達は三人と対峙するような形となる。

 

 「一度話を受けた以上、連れていくのが筋ってもんだとあたしは思うよ」

 

 胸を支えるように腕組をしたエイナが男に意見する。その声は激昂するのではなく落ち着いていた。

 

 「いや、人を傷つけることは我々のポリシーに反する。人数さもあるし増援が迫っているようだ。今日のところは引き上げよう。」

 

 「んにゃ、そうしよう」

 

 「仕方ないねぇ」

 

 来訪者三人はシド達の前で堂々とやり取りをする。どうやら引き上げることで話がまとまっているようだが、みすみす返すわけには行かない。

 

 「ティム」

 

 「おっけー」

 

 シドは小声でティムに合図すると同時に三人に向かって疾走した。ティムご時間差をつけてそれに追従する。

 

 「そう簡単には返すわけに行かない」

 

 狙うのは真ん中に陣取っているシェルムだ。彼の能力は把握しているし、対格差もないため、一番とらえやすい。ビックリした顔のままのシェルムにシドは飛びかかろうとした。

 

 「んやー、ごめんね。帰らないとだから」

 

 シドがシェルムの直前まで迫ったとき彼は笑って後ろにとんだ。次の瞬間。

 

 「!?」

 

 シドの視界は変わり気づくと空を見ていた。投げられたのだと遅れて気づく。受け身もとった覚えがないのに痛みをほとんど感じない。

 

 急いで身を起こすと、同じように身体を起こしているティムがいた。二人は顔を見合わせる。

 

 「んじゃ、またね。楽しかったよぉ」

 

 前方からシェルムの声が聞こえた。それと同時に来訪者三人の姿があっという間に消えてしまった。男の能力で行ってしまったのだ。

 

 「くそ!やられた」

 

 シドは荒んだ言葉で悪態をつく。

 

 「シェルムが身を引いて、その間に、あのデカイのが割り込んできたんだ。それで俺までやられちゃった」

 

 間延びしていないティムの声に彼の悔しさを感じ取った。

 

 「すみません、僕らは動くことも出来ませんでした。せめて彼の腕をつかむくらいしておくべきでした。」

 

 ヨシュハはフォクスター姉弟を守るように前に立っていた。男にシェルムを連れていかれてからすぐに中等部メンバーの方に行っていた。彼らを取り逃がしてしまったことから思い空気が漂う。

 

 「クラちゃんを守れたならいーじゃん」

 

 「そうなのさ!謝り合戦をしていてもどうにもならないさ。最悪を防げたのだからよしとするさ!」

 

 そんな雰囲気にフォクスター姉弟が何を落ち込んでいるのかと皆を叱咤する。二人の手の中には今だ眠り続けているクラスタと心配そうに彼女に寄り添っているムウムウの姿があった。

 

 「それもそうですね。他のみんなも到着したみたいです。今後の事を考えましょう」

 

 シュンとしていたヨシュハが顔に微笑を浮かべた。屋上のドアが開き中等部、高等部生徒会の他のメンバーが駆けてくるのが視界の隅に見えた。

 

 「遅くなってすまなかった。怪我はないか?」

 

 一番早くシド達に向けて声をかけたのはキーツだ。シド達の様子を見て、事がもう終わってしまったと気づいたようだ。他のメンバーはそれぞれ散らばり、元々屋上にいたメンバー達の無事を確認しだした。

 

 「クラ!」

 

 フォクスター姉弟の腕の中でぐったりしているクラスタの姿を見つけ、エマは取り乱した。

 

 「クラは大丈夫なの?!」

 

 「エマ落ち着いてください。気絶しているだけです。時期に目を覚まします」

 

 そんなエマにヨシュハが優しく声をかける。いつでも冷静なエマの乱れっぷりにフォクスター姉弟はビックリした顔をしていた。


 「敵にやられたの?」 

 

 「いや、ちょっと訳ありです。詳しくは今から説明しますよ」

 

 低い声で聞くエマにヨシュハの笑顔が少しひきつった。彼はシド達の方をちらっと見て発言すると、エマは納得しフォクスター姉弟ごとクラスタを抱き締めた。その光景をやや気まずそうに見ていたヨシュハにジュドアが「お疲れ様っす」と挨拶していた。

 

 シドがそんな光景を見ていると後ろから肩を叩かれた。振り替えるとそこには腕組をしたチュリッシェが立っていた。

 

 「怪我はない?」

 

 「はい。大丈夫です」

 

 「そう。ティムは?」

 

 「俺も平気ですー」


 「そう」

 

 短い言葉の応酬だが、言葉の端々に心配してくれていたことが滲み出ている。

 

 「チュリッシェちゃんはずっと二人を心配していましたからね。私も心配でしたけども」

 

 にこやかにユウリが言うとチュリッシェは慌ててそれを否定する。

 

 「べ、別に心配なんかしてない。ただ、怪我されると明日からの生徒会の仕事が増えるって思っただけ」

 

 「あはは、チュリッシェ先輩。ありがとー」

 

 「ありがとうございます」

 

 「だから違うって!」

 

 先程の緊迫した空気はどこへやら、すっかりいつもの様子でやんやしている高等部メンバーにキーツが一声。

 

 「再会の喜びを語り合うのは良いことだが、まだ終わってはいないぞ。みんな揃ったことだ。シド、ティムよ。何があったのか聞かせてはくれまいか?もちろん中等部の諸君もいっしょにだ。」

 

 いつの間にか屋上の入り口付近にはリャッカの姿があった。シドは気を引き締めて頷いた。他のメンバーも同様に頷いている。

 

 生徒会メンバー達はクラスタが目を覚まさないこともあって彼女を休ませるためにも屋上から移動する。行き先はやっぱり高等部生徒会室だ。壁の落書きは気になるが、この人数が入っても狭苦しくはならないしちょうどいい。

 

 道中は中等部メンバーが寄り添うようにしているのが目に入り仲がいいのだなとシドは思った。

 

 「さて、皆揃っているな。」

 

 生徒会の中、キーツは自分の席から生徒会室全体を見回した。高等部メンバーはリャッカを含めてそれぞれ自分の席についており、中等部のメンバーは来客用のソファにかけてもらっている。

 

 片側にヨシュハ、ラウリムとリウラムが座り、反対側にジュドア、エマとその隣にクラスタが寝かせられている。ソファは大きめだし、クラスタが小柄なので窮屈そうな感じはしない。

 

 ユウリが寝ているクラスタの上に部室に常備しているタオルケットをかけると、側にいたムウムが「みゃー」と鳴いた。

 

 ユウリが席につくのを見計らいキーツは再び口を開く。

 

 「少し早いが、皆プロトネ祭の間見回りご苦労だった。特に今日はそれぞれがトラブルに見舞われたことだろう。その首謀者と思われるもの達の拘束は出来なかったもののひとまず事態は収束し、怪我人も出なかったことは一重に皆の努力の賜物だ。ありがとう」

 

 プロトネ祭の終了時刻まで残り三十分。トラブルのせいで人も減り、ほとんどの有志団体が店じまいをして後片付けをしていた。先生方は臨時の職員会議に至っているそうだ。

 

 この後の膨大な復旧作業を考えると頭がいたい思いがする。本当にシェルム達は派手にやってくれたものだ。

 

 「まぁ、シェルム達を逃がしちゃったしー。完全勝利ではないけどねー」

 

 ティムが背もたれに寄りかかって「あーーー」と声を吐き出した。そな声にあのとき屋上にいたメンバーが苦い顔をした。

 

 「完全勝利ではないが及第点ではあるぞ」

 

 「そうです。先輩方、皆を守ってくれてありがとうございます」

 

 二人の生徒会長がフォローをする。エマがそっとクラスタの頭を撫でた。

 

 「だが確かに今後のこともある。情報共有のためにも何があったのか教えてくれ」

 

 「シド君。よろしくー」

 

 キーツの言葉に食いぎみでティムはシドに役目を降った。フォクスター姉弟もコクコクとシドを見て頷いていた。その場の皆がシドに注目する

 

 「では、僕の方からお話しします。」

 

 それからシドは、最初にトラブルにあってから屋上での出来事まですべてを語りだした。時々ティムや中等部メンバーが補足してくれたので間違いない。

 

 「そうでしたか。クラがそんなことを」

 

 エマがクラスタを見やる。

 

 「何でそうしたのかはさっぱりさ」

 

 やれやれと言うようにリウラムが手を広げる。そんなやり取りをしていると急にムウムウが「みゃーみゃー」と鳴き出した。

 

 「んー」

 

 クラスタが身じろぎをし始めた。

 

 「どうやら、彼女からも直接話が聞けそうだな」

 

 キーツは静かに微笑む。皆が見守るなかクラスタは目を開けた。

 

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