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偽主  作者: シュカ
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彼女の意図

「ぐがががが」

 

 次の瞬間、シェルムはムウムウの攻撃をくらい…と言うことにはならなかった。今、ムウムウはもとの姿に戻りその場で目をこすり、目についた汚れを取ろうとしている。彼の契約者であるクラスタは気絶しているため、彼にはなにもできやしない。

 

 ムウムウがいざシェルムに飛びかかろうとした時、呆然とする彼らの中で、素早く動いたものが二人いた。そのうちの一人はシェルムだ。クラスタがムウムウに指示を出したときにはすでに上着の内ポケットから何かを取り出していた。

 

 それは手のひらに収まるくらいのボールだった。シェルムはそれをムウムウに目掛けて投げつける。すると、ボールはちょうどムウムウの目の上に当たる。その衝撃でボールは割れて赤い色のインクが飛び出した。ムウムウは赤いインクのせいで目が見えなくなり、その場に立ち止まった。

 

 「ががががが」

 

 「ムウムウちゃん!」

 

 「クラ、すみません」

 

 クラスタはムウムウの目の辺りが赤く染まったことで悲痛の声をあげる。その隙にヨシュハがクラスタの後ろに回り込み彼女の首筋に手刀を打った。力なく倒れようとするクラスタをヨシュハは支えた。

 

 「ムウムウ。君の主は気を失っています。君は主の命なくては動くことはできませんね。おとなしくしていてください」

 

 ヨシュハはムウムウに向けて静かに語りかける。ムウムウはその声が聞こえたのか聞こえてないのか、獅子のような姿からもとの猫のような姿に戻って、前足でしきりに顔をこすり出した。

 

 「いやいやいやー、ビックリしたよぉ。」

 

 シェルムはその場にへたりこんで緊張がとけた弱い声をあげた。それでやっと、二人以外のメンバーも動き始める。

 

 ラウリムとリウラムは気絶しているクラスタに声をあげて駆け寄る。シドとティムはへたりこんでいるシェルムを確保するように両側を固めた。

 

 「立てるか?あの子の目は治せるか?」

 

 シドはシェルムに手を貸して立ち上がらせ、前足で目をこすり続けているムウムウを指して言った。

 

 「んや?あぁ、出来るよぉ。ちょっと待ってね。ねぇー、これもう襲ってこないよねぇ?」

 

 シドの手を離しスタスタとムウムウに近づいていくシェルム。一定の距離を開けてヨシュハ達の方に声をあげた。

 

 「ええ、大丈夫です。クラがこの状態ですから」

 

 ヨシュハはクラスタをフェンスにもたれ掛かるように優しく下ろしていた。ラウリムとリウラムは心配そうに付き添っている。シェルムは頷くとムウムウに向けて手をかざした。

 

 その手が仄白く輝いたと思うと、ムウムウの目の辺りの赤色がフワッと浮かび上がった。シェルムはそれを見ると泥団子を作るように丸めるしぐさをする。すると、赤色はさっきのカラーボールのような形となりシェルムの手に戻っていった。

 

 「よし、これで大丈夫」

 

 「にゃー」

 

 目の辺りがきれいになったムウムウは、満足そうに鳴くと、クラスタの元に戻っていった。

 

 「それが君の能力か」

 

 「うん。こんなところで使う気はなかったんだけどね。緊急事態だから仕方なかったぁ。僕はね、色の能力者なんだぁ。こうやって絵の具とかペンキとか自由に操れるの」

 

 赤色のカラーボールをちらつかせながらシェルムは舌を出した。

 

 「能力者だっていう線が当たってたんだねー。」

 

 ティムがいつもの飄々とした様子で言い、中等部メンバーの方に向かう。

 

 「そうだな。けど、君の能力は赤色の塗料のみに作用されるのか?」

 

 「んや。赤が好きなだけだよぉ。かっこいいじゃん。戦隊ヒーローだって赤がリーダーだしぃ」

 

 特に色には意味はなかったのかとシドはシェルムを伴ってティムの後を追った。

 

 「ちょーしはどうー?」

 

 ティムの間延びした声にヨシュハ、ラウリム、リウラムは顔をあげる。

 

 「ただ気絶させただけですので、少しすれば意識は戻りますが、どこかで休ませてあげたいです」

 

 真剣身を帯びた表情のヨシュハ。ラウリムとリウラムは彼らにしては珍しくおとなしくしていた。

 

 「そうだねー。保健室に連れてこーかー。それでいいよね?」

 

 「ええ」

 

 ニコニコと会話をするヨシュハとティム。二人は口を出さないが、クラスタを休ませる目的と目が覚めたら事情を聞くために手元に置いておく意味をこめて保健室を指定した。

 

 狭い室内ではムウムウを体の大きな獅子状態にすることはできないとも踏んでいる。

 

 シドには彼らの笑顔が黒い笑みに見えた。フォクスター姉弟もその空気を感じ取ったのか、二人に対して怯え顔だ。

 

 

 「じゃ、じゃあ移動するか。君も来てくれるな?」

 

 「んにゃ?まぁいいよぉ」

 

 思わず声が裏返るシド。色々なことが起こり口の中はからからに乾いていた。シェルムはあっさりと同行に頷く。彼の目的は読めないが悪い感情を持っていないのは確かだとシドは感じる。

 

 だが、一同が移動しようとした時そこに待ったの声がかかった。

 

 「よくなーーい!!」

 

 どちらかと言えば低めな女性の声。声の主は屋上の入り口で仁王立ちしているボブカットの女性だ。

 

 仁王立ちのまま堂々とシド達の前に近づいてくる。

 

 「あんた、何してんの?ターゲットが見つかったならさっさと回収してズラかる。」

 

 「んにゃー、分かってる、分かってる。タイミング見てただけだよ。無理矢理連れてっても意味ないでしょ」

 

 新たに現れた女性はシェルムの仲間らしい。やや機嫌が悪そうにシェルムに話しかけているが、シェルムはどこ吹く風だ。二十代前半くらいで足が長く長身で痩せている。シェルムがなかなか戻らないから業を煮やしてやって来たというところか。

 

 シドはシェルムを後ろにやりティムと共に前に出る。

 

 「あんたらが邪魔してる訳?まだ子供の癖にこんなことに首突っ込まないで学園祭を楽しんでたらいいものを」

 

 女性はシド達の一人ひとりを品定めする。後ろからフォクスター姉弟が不満を露にした。

 

 「楽しんでたのに邪魔したのはそっちの方さ!」

 

 「そうだそうだ!その通りー!」

 

 「それもそうだけどね。その子連れてったら帰るから。早く渡してちょうだい」

 

 めんどくさそうな態度でクラスタを渡すように話す女性にシェルムがシド達の後ろからあっけらかんと声をかける。彼の横にはいつの間にかフォクスター姉弟にクラスタを任せたヨシュハがいた。

 

 「んや、エイナ。お嬢さんは僕らと来ることは望んでないみたいだよ。今回は挨拶だけにして帰ろうよ。僕疲れたし」

 

 ふわぁっとあくびをする仕草をシェルムはする。それに女性…エイナが怒りを露にする。

 

 「シェルム。あんたね、あんまり嘗めた態度をとると新入りだからって容赦しないよ」

 

 「んや?ごめんって」

 

 何やら内輪揉めが始まってしまった。その隙にティムがフォクスター姉弟にクラスタを連れていくように手で合図をする。二人が頷き、リウラムがクラスタを背負う。慎重に動き出した所、エイナが目ざとくそれに気づいた。

 

 「坊や達もあんまり人を舐めるんじゃないよ。その子を連れて行かせると思うの?」

 

 殺気にも似た威圧感をエイナから感じ、フォクスター姉弟が足を止める。

 

 「僕らもあなた方にクラスタを渡して素直に帰らせる気はないんだが」

 

 強気にもシドが告げる。日和ったらその時点で負けてしまうと感じたからだ。シェルムがまたふわぁっとあくびをした。彼は先の発言通りクラスタをさらうために動く気はなく帰ることだけ頭にあるらしい。

 

 エイナがクラスタをさらうためにはシド達を突破しなくてはならなく、シド達は反対にエイナを突破しなくてはならない。お互い睨み合うように硬直状態になる。

 

 「今回はシェルムの言い分を飲もう」

 

 っと、低く思い声色が後ろから聞こえた。シドは冷や汗が背中を流れ、バッと振り替える。油断をしているつもりはなかったが、気づくとヨシュハが立っていない側のシェルムの横に一人の男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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