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偽主  作者: シュカ
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合流

に続く扉のドアを開けて、ティムを先頭に、ラウリム、リウラム、シドと続く。高いフェンスに囲まれただだっ広い空間が広がる。一行は辺りを見回し、クラスタとヨシュハの姿を探した。

 

 「いたのさ!」

 

 「クラちゃん、ヨシュハセンパイ!」

 

 奥側のフェンスにもたれ掛かるようにしてヨシュハは立っており、クラスタはそんな彼の制服の裾をつまみ、肩掛け鞄を大事そうに抱えてしゃがみこんでいた。そんな二人にフォクスター姉弟はダッシュで駆け寄った。

 

 「ラウ、リウ。来てくれてありがとうございます」

 

 「いや、そんなことはいいのさ!まだ、何も起こってなかったのさ?」

 

 「ええ、なにもありませんでしたよ」

 

 「良かったー、間に合ったぁー」


 物腰柔らかくフォクスター姉弟を迎え入れるヨシュハ。二人は安心したらしい。リウラムの表情も柔らかくなり、ラウリムはクラスタの目の前にしゃがみこんだ。クラスタもそんな二人を見て心なしか嬉しそうだ。

 

 無事の再開を喜ぶ中等部メンバーを見守るシドとティムに、ヨシュハはフェンスにもたれ掛かる体制をやめ、挨拶をした。

 

 「先輩方もありがとうございます」

 

 「ううんー、何でもなくて良かったよー」

 

 ティムはそう言ったものの、ほんの少しだけ、何もなかったことを残念がっている感じもする。フォクスター姉弟がクラスタと話しているのを見てヨシュハはシドに耳打ちをした。

 

 「二人の相手は大変でしたでしょう。ありがとうございました。」

 

 「そんなことはないが、どうして」

 

 「先輩は顔合わせの時からラウに目をつけられていたでしょう。二人ともいい子なんですけど、こうと決めたら譲らないので、ご迷惑かけなかったかと」

 

 チラチラと後輩達の様子を見ながら

ヨシュハは苦笑する。普段から二人を初め後輩たちの面倒を見ているだけはある。

 

  「二人がいて僕らも楽しかったよ」

 

 「そーそ、逆にシド君がめんどー見てもらってたんじゃない」

 

 ヨシュハとの内緒話は近くにいたティムには聞こていた。面倒を見てもらった覚えはないが、楽しかったのは確かだから、ここは否定しないでおこう。ヨシュハはそれを受けてほっとしたようだったし。

 

 「ヨシュハ先輩。他の皆もここに向かっているのさ」

 

 「ラウリムちゃん達が気づいたんだよー」

 

 クラスタとの話に一段落が着いたのか、二人はヨシュハに自慢げに話初める。それを彼は大人びた笑みで受け止める。

 

 「そうですね。二人には感謝してますよ」

 

 「えへへー」

 

 ヨシュハに言われてラウリムは得意気に鼻の下をさすった。

 

 「んじゃーさ、そろそろ答え合わせしよーよ。二人が突然連絡をとり初めて、ここに来たから俺らの考えがあっているか分かんないんだよねー」

 

 「そうでしたか。ラウ、リウ。先輩方に事情はお話ししてなかったのですか?」

 

 ティムの発言を聞き、にっこりと笑いヨシュハは二人の方を見た。

 

 「うぇ、えっとー、なんてゆーかー」

 

 「緊急事態だったからしょーがないのさ」

 

  フォクスター姉弟は二人してヨシュハから目をそらし、あわあわと話した。

 

 「いえ、怒っているわけではないですよ。ただ、さっきの通信の時に、僕が何て言ったか覚えてますか?」

 

 「「僕らの方は大丈夫だから、まずは他のメンバーとセンパイ方に協力をあおぎ、屋上に向かってください」さ」

 

 「はい、そのとおりですね。覚えていたなら、分かっていたならいいんですよ」

 

 にっこりと笑ったままのヨシュハは普通に怒られるよりも断然怖い気がする。思わず、シドは二人のことをフォローする。

 

 「二人もクラスタと君が心配だっただけだ。僕らは気にしてないからその辺にして、話を進めないか?」

 

 「先輩方が気を悪くしてないのなら良かったです。そうですね。ラウ、リウ説明をお願いします」

 

 内心やや引きぎみに発言をしたシドをラウリムは救世主が現れたと目を輝かせ、リウラムはヨシュハがもとの話題に戻ってくれたことに胸を撫で下ろした。ヨシュハの眼鏡が逆行でキラリと光る。

 

 「はいなのさ。」

 

 「はーい」

 

 ラウリム、リウラム、クラスタの年下三人が半円を描くように座り込み、ヨシュハ、シド、ティムの三人は立ったまま話を始める。

 

 「ねぇねぇ、センパイ達はラウリムちゃんがどうして仲間にしてあげたか覚えてる?」

 

 「悪者が来るから捕まえるのを手伝って欲しいだったよな」

 

 「そのとーり!シドセンパイだいせーかい!」

 

 ラウリムの問いにシドは記憶を手繰り寄せ答える。 

  

 「それでなのさ、僕らが思ったのはその悪者がすでに校内に侵入しているということさ。」

 

 「まぁ、それは考えるでしょーよー。校長せんせーも心配してたかんねー。でも、構内で起きてる事件の数が多すぎないー?」

 

 ティムは口元に笑みを浮かべて後輩達に問いかける。シドはそれを見て、ティムがあえて後輩達を試すような真似をしているんだと感じた。そう思うと、今の彼はさながらテストの出題者のようだ。

 

 「それはなのさ。全部陽動なのさ。ほんとにやりたいことから目をそらせるための」

 

 ラウリムがいい淀んだのを見て、リウラムが答えた。

 

 「事件が起これば、皆そっちに注目するのさ。それに、そんなのが何ヵ所でも起こったらさすがにパニックになるのさ。そのどさくさに紛れられれば犯人としてもいいだろうさね」

 

 「なるほどねー、混乱に乗じてほんとの目的を果たすってことかぁー。じゃあ、その目的ってなんだろーねー」

 

 「はいはい。それはクラちゃんだよー。」

 

 ラウリムが元気よく手をあげてクラスタのことを指差す。差されたクラスタはビクッとして肩掛け鞄で顔を隠す。

 

 「それはリウラムが能力で見た最悪がクラちゃんが連れ去られるところだったからか」

 

 本人の前でどうかとも思うが、これを突き詰めなければ話にならない。

 

 「そうなのさ。僕らの考えがあっているかはともかく、この最悪だけは塞がないとなのさ。だから、皆をこの屋上に呼んだのさ。」


 ラウリムとリウラムはそれぞれ右手と左手でクラスタの両手を繋ぐように握る。クラスタは肩掛け鞄はおろしたものの、特に発言もなく大人しくしていた。狙われているのが自分だと言われているのだ無理もないかもしれない。

 

 「けどさぁ、どーしてプロトネ祭は中止になんないんだろーねー。これだけ色んなことが起こったのなら中止になっても変じゃないよね?」

 

 新たな疑問を提示したのはラウリムだ。んーと目をぎゅっとつむり考えているようだ。

 

 「それは、校長先生の決定でしょうね」

 

 リウラムもラウリムと同じく首をかしげていて、クラスタは相変わらずだったのでヨシュハが意見を出した。

 

 「どういう訳かは分かりませんが、校長先生にはプロトネ祭で何かが起こることを予想できていたようです。だから、僕たちも見回りに駆り出されたことです。校長先生はあえて犯人の思い通りにさせておびき寄せようとしているんじゃないでしょうか」

 

 「それが無難だねー」

 

 顎にてを当ててややうつむき加減で話したヨシュハにティムは軽く相づちを打つ。

 

 「クラスタが狙われているっていうのは、何でなんだろうな」

 

 「シド君、それはさー」

 

 恐らく彼女の能力的なことだろうと思いつつも、周りの意見を聞いてみたくシドは発言する。聞いてすぐにティムはクラスタの肩掛け鞄を見つめた。


 「…ムウムウちゃん」

 

 そこでクラスタがバックを大事そうに抱えながら、ポツリと言った。確かに彼女の能力はかなり特殊だ。良からぬやからが知ったら狙われる可能性もあるだろう。それが今回と言うことか。

 

 「まぁー、そんなところかな。」

 

 確認したかったことは大体聞いたかなぁーとティムは皆に背を向けて伸びをした。

 

 「全て、僕たちの憶測ですけどね。」

 

 はははとヨシュハは軽く笑った。年下三人は再び談笑を初めている。

 

 「うん。俺もそう思ってたんだけどさー。なんかそうじゃなさそうだー。」

 

 いつも通りの様子のティムが言った言葉をシドは聞き逃しそうになったが、すぐにその意味を理解して身構え、能力を発動する。階段の方から何者かの思考が流れ込んでくる。

 

 それは決していい感情ではなく、負の感情と捉えていいものだった。

 

 「二人、近づいている。メンバーでは無さそうだ。」

 

 一瞬のめまいを感じながら、シドは皆に伝える。皆はそれを聞き一様に立ち上がる。

 

 シドとティムは並んで立ち、その後ろにクラスタをラウリムとリウラムが挟むように立つ。ヨシュハは一番後ろで、成り行きを見守っているが気を抜いている様子はない。

 

 いよいよ、相手との対面かとシドは身構える。そして、屋上の階段のドアが静かに開けられた。

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