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偽主  作者: シュカ
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学校へ

「坊っちゃん、坊っちゃん、起床の時間ですよ。」


寝室にやって来たアルが、まだ眠りについているシドに声をかける。

「………まだ三十分は早い。」


無理矢理覚醒させられたシドは少し苛ついたような声で言い返した。


「本日から学校が始まりますので、ご用意をしていただくため、いつもよりお早めに声をかけさせていただきました。」


それを歯牙にもかけず、済ました顔でアルは続ける。


「さっ、起きてください。」


「ああ、着替えてから食事に向かう」


「かしこまりました。」


もぞもぞとベットから出るシドに向けて、胸に手を当て軽く礼をしてからアルは寝室をあとにした。


「いってらっしゃいませ」


制服に身を包み食事を済ませたシドはナタリーとヘザーのお見送りのもと屋敷を出た。


玄関に着けてもらった黒塗りの車のドアをアルに開けてもらい

中に乗り込む。


「では、ぼっちゃま。いってらっしゃいませ」


「ああ」


車を運転するのは、クローバード家お付きの運転手ジェイド・バックだ。彼は運転手兼庭師として日々クローバード家に仕えてくれている。


「坊っちゃん、本日からの学校頑張ってください。道中は俺がついてますんでご安心くだせぇ」


シドはバックミラー越しに彼の目尻の皺が深まるのを見た。彼とはシドが生まれたときからの付き合いになる。屋敷の住人の中でも古株で信頼できる気のいいおじさんだ。


話し方に癖があるがそれは彼の故郷の言葉の訛りだとシドは昔聞いたことがある。


「ありがとう。ジェイド」


「はっはっは、坊っちゃんに礼を言われるたぁ。運転手冥利に尽きるってもんですな。」


豪快な笑い声とは対的に彼の運転は丁寧で静かだ。心地よい揺れが眠気を誘うがここは我慢だ。窓の外の景色を眺めること十数分。

いよいよ、シドが通う学校、プロトネ学園が見えた。


「では、坊っちゃん。張り切って行ってきてくだせぇ。」


「ああ、行ってくるよ。帰りも頼む。」


「もちろんでさぁ。」


学校の校門に横付けされた車から降り、シドは教室へと向かった。


教室に入ると席につくやいなや、すぐさま周りを囲まれてしまった。


事前にシドの休学が開けることは通知されていただろうけど半年も休学していたクラスメートが登校してきたのだから彼らの反応も分かる気がする。


何となく居心地の悪さを感じていると目立った外見の一人の女子生徒が人混みを掻き分けて声をかけてきた。


「クローバードくん、もう体調は大丈夫なの!?」


「ああ、半年もの間すまなかった。もう大丈夫。」


声をかけてきたのは、アリシア・グラン。シドが属する1学年Aクラスの女子委員長だ、オレンジがかった茶色いセミロングの髪を巻いおり、目鼻がくっきりとした彼女。


勝ち気で強気な性格だが面倒見がよく世話好きな一面もあるため、中等部の頃から特に後輩からの人気を集めていた。


「……そう。でも、ご無理なさらないでね。あんなことがあったんですもの…」


強気な彼女には似合わないシュンとした表情。あんなことというのは両親の失踪のことだろうと解釈してシドは答える。


「ありがとう。それより、クラスの方はどうだったかな。男子の委員長を任せてもらったのに休んでしまっていたから。教えてもらえたら助かるな。」


「ええ、もちろんですわ。」


顔も名前もうろ覚えのクラスメート達の中でアリシアの事を覚えていたのは高等部に進級してから休学までの一月半ほど彼女と共にクラス委員として仕事をしていた事が大きいのだろう。


シドが思案顔で訪ねると、アリシアは心配顔から一転し柔かな笑顔でそれに答えてくれた。


「とは、言ってはみましたが、大きな変化というのはありませんわ。クローバードくんが休学されていた間には特に大きな行事もありませんでしたし。」


「そうか。」


右手を頬にあててに話すアリシアにシドは相づちを打った。


「あっ、ですが来月にはプロトネ祭が行われますので、そちらの用意とかがありますわね。私達は一年生ですから、あまり出番はありませんが、クローバードくんはそうはいきませんよね。生徒会の方がありますから。」


プロトネ祭はプロトネ学園の創立祭のことだ。全校生徒を集め式典を行い、その後生徒が主体となった出店をだす、その売り上げをプロトネ学園に寄付するのだ。発展に貢献するという学園のメインイベントだ。


「そうだな。その件は放課後に生徒会に行って聞くことにする。」


「ええ、それがいいと思いますわ。あの方もクローバードくんに会いたがっていらっしゃいましたわよ。あら、もう始業の時間ですわね。席に戻りますわ。また、何かあったら言ってくださいませ。」


優雅に身を翻しアリシアは自分の席についた。


「…そうか。ありがとう。」


あの方が会いたがっている。その言葉を聞いたシドは少し頭が痛くなる気がしたが、考えていても仕方がない、今は授業に集中することにしよう。

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