フォクスター姉弟との同盟
「組むってどーいうこと?」
反応するのはティムだった。余裕そうな顔つきを後輩たちに向けている。
「プロトネ祭に来る悪人を捕まえるのを手伝って欲しいのさ。」
リウラムが答え、ラウリムがそうなのだー。と弾けるような笑顔を見せる。
二人はティムがいた方が面白いと思ってからは、ティムに対してもシドに話すような遠慮のない物言いをするようになった。
それにしても、返答に困る提案だ。見回りを一緒にしたいということであれば、それならばいいと思っていたが、これはどうしたものか。
シドが思案顔をしていると、フォクスター姉弟はきらきらと目を輝かせてシドの答えを待っていた。ティムはというと、ただ一言「任せるよ」と小声で言い、フォクスター姉弟と同じようにシドに一任する意思を見せた。
「…いくつか質問に答えてくれ」
「なになにー?何でも答えるよー」
シドが顎に手を当ててうつむき加減に言葉を絞り出すと、ラウリムが嬉しそうに身を乗り出した。
「まず、どうしてプロトネ祭に悪人が来ると思うんだ」
「なーんだ、そんなこと?センパイも校長センセーとの話し合いに来てたでしょ?プロトネ祭で生徒会の見回りってしたことないじゃん。なのになーんでやるのかなと思ったら、ラウリムちゃんピーンと来たの!悪い人が来るからやるんだって!きっと脅迫状が届いたんだよ」
「校長センセーの様子が変だったもんね。僕もパーンと気づいたさ。悪人がいるなら捕まえないとさ!」
高等部生徒会が思ったように、フォクスター姉弟も不信に思っていたと言うことか。あの場にいた誰もがそれは感じていたことだろう。シドは次の質問をする。
「じゃあ、仮に君らが言うような悪人が来るとして、なぜ僕らと組むという話になったんだ?中等部生徒会のメンバー達や高等部会長ではなんで僕に?」
その質問を待っていたとばかりにラウリムはピースサインをした指をビシッとシド達に突きつける。
「それはね、それはね!このラウリムちゃんの頭脳がセンパイと組めとそう言っているのだー!」
なんとも要領の得ないコメントだ。弟のリウラムはシドの入れた紅茶をコクコクと飲み、ティムと「おいしーね」と団らんしていたので補足は望めそうにない。もう少しラウリムと話を突き詰めてみようとシドは思う。
「君の頭脳が言っているってどういうことだ?」
「んーとね、センパイに初めて会った会議の時に、こう、ぶわーって頭の中に考えが浮かんで、プロトネ祭で一緒に回らないとって思い付いたの」
一生懸命話してもらったところ申し訳ないが、つまりどういうことだ。とシドは頭を抱える。ラウリムはどうも感覚で物を話すタイプであるみたいだ。
「君の能力ってことか?」
「そのとーりさ」
漸くひねり出した答えに解答してくれたのはリウラムだ。ラウリムはちょうど、紅茶を口に運んでいたから変わりに答えてくれたらしい。紅茶を一気に飲み干した彼女は弟の後を継いで話始める。
「そう、ラウリムちゃんの能力でセンパイと組むといいことあるってバーンと出たの!」
「ラウ達は能力持ちなんだー」
ティムがへぇーと頷いていた。いつの間にかラウリムのことをラウと呼ぶようにもなっていた。彼は順能力が高いのだ。
「うん!すごいでしょ!リウもなんだよ」
ラウリムは自慢げに胸をそらし、弟に説明をバトンタッチをした。リウラムもちょっと得意気だ。
「僕とラウは能力持ちなのさ!僕らの能力は「天使と悪魔」って言うのさ。天使の能力がラウで悪魔の能力が僕。二つで一つの能力なのさ!」
「その天使と悪魔ってどういう能力なんだ?」
「天使の能力は起こりうる事の中で一番最善な状況が分かるのさ。悪魔の能力は起こりうる事の中で一番最悪の状況が分かる能力なのさ。」
「予言系の能力の一種か」
リウラムの説明により、シドも能力について理解することができた。
「そういうことだよ!」
リウラムは説明が終えると姉の服の裾を引っ張った。また、バトンタッチということだろう。
「ただねー、ラウリムちゃんの天才的な能力でもー、いつもいつも良いこと思い付く訳じゃないんだよー。ポーンと閃いたときげんてーなの。だから、センパイは運が良かったよね。そのお陰で、ラウリムちゃん達の仲間になれるんだもん。」
ラウリムはへへーんと指で鼻の下辺りを擦る。
さて、ここで一度話を整理する時間を作るためにも、シドは立ち上がり、皆に紅茶のおかわりを用意することにした。
まず、フォクスター姉弟は能力持ちで、その能力は彼らいわく「天使と悪魔」物事に対する最善策と最悪策を思い付く能力。ただし、能力のコントロールはつかず、自動で発動するため必ずしも知りたいことが知れるわけではないということだ。
手を動かしながら頭を働かせると、状況が分かってきた。全員分の紅茶を入れ直したので仕切り直しだ。と言っても聞くことはあとひとつだ。
「最後に一つ。この件で君の能力では何か思いついたりしたのか?」
シドが聞いた相手はリウラムだ。彼は彼の能力の名である悪魔のような笑顔を浮かべる。
「僕に見えた最悪はセンパイと組めないことさ!」
「…そうか。分かったよ、君達の提案を飲もう」
僕と組むことが最高で組めないことが最悪となれば、ここはフォクスター姉弟と組むしかないだろう。
いったい、どんな状況が待ちうけているかは分からないが、プロトネ祭に参加するすべての人に安心して楽しんでもらいたい。そのためには少しでも疑念があるならなくすほうに勤めたい。シドはそう感じたのだった。
「シド君がそう決めたなら俺も混ざるー」
シドがフォクスター姉弟に二人と組むことを話すと間髪入れずにティムも告げる。
「もっちろん。ティムセンパイも仲間になってもらうよー!良かった、よろしくねー!センパイ達」
「よろしくさ!」
握手と手を伸ばすフォクスター姉弟にシドとティムも答える。握った手をブンブン振り回す姉弟はとても嬉しそうであった。
こうして、シドとティムはフォクスター姉弟と同盟を組むことになった
「それじゃあ、よろしくねー。テキトーに見回りしてて、何かあったら教えてちょうだい!これあげるから」
ラウリムが手渡してきたのは、黒色のシンプルな皮のブレスレットだ。よく見ると内側には小さな銀盤が嵌め込まれている。
「これ、小型の通信機だねー」
「そうみたいだな」
シドの手からブレスレットをつまみ上げて観察していたティムが言う。シドも彼と同じ見解だ。
一見普通のブレスレットに見えるが、内側についている銀盤はミュキリン石を加工したものだ。ミュキリン石は加工前はグレーの小さな水の形をした特殊な性質を持つ鉱石だ。
採掘した一つの鉱石を割り欠片をを二つ作ると、その欠片同士はお互いを引き付ける性質を持ちそれぞれがある場所の音を離れていても届けることができる。それを利用し、日常でも使いやすくするために加工したものの一つが今シド達が持っているブレスレットだ。
「これ、けっこう高価なものだよな?」
にこにこしているフォクスター姉弟に問う。
「それはねー」 「それはー」
「「ヨシュハセンパイが作ったのだから大丈夫なのです!」」
「ヨシュハ君って中等部生徒会の副会長さんだっけ」
「ああ、そうだ」
「ヨシュハセンパイのパパが職人さんでセンパイは見習いなのさ!まだ、売れないからくれたのさ!」
「けどけどー、ちゃんと使えるからプロトネ祭の間貸したげるね!」
つまり、ヨシュハが練習で作った品ということか。改めてブレスレットを見てみるが、おかしな所は見当たらず完璧なできだと思う。それでも売りに出せないと言うことはより、完全を目指すヨシュハの父の職人魂を感じる。
「分かった、大事に預からせてもらう。」
シドは右腕にブレスレットをつける。シンプルながらも光沢感があり、大人っぽいそれはプロトネ学園の制服にもマッチする。
「うん!似合ってるよ。つーしんしたい時はね、つーしんしたい相手のことを考えて念じれば繋がるから、それでよろしく、んじゃーねー!」
「よろしくなのさ、それじゃーまたねなのさ!」
フォクスター姉弟は満足そうに頷きあうと二人揃って慌ただしく生徒会室から出ていった。
開け放たれたままのドアを見てシドはため息をついた。
「…なんだか、嵐が来たみたいだったな」
「連れ込んだのはシド君だけどね」
「まぁ、そうだが。…巻き込んでしまって悪かったな」
ティムは立ち上がりドアを閉め直し、戦闘不能に陥ったシドにかわり四人分のカップを片付けた。
「ううん、おもしろそーだからいいよ。ほっとくよりはマシだろーし」
「そういってもらえると助かる」
「そう言えば、ティムはなんでラウリムだけでなく、リウラムも能力持ちと分かったんだ?ラウリムが能力を明かしたとき「ラウリム達」って言ったのが気になってな」
「あー、簡単だよ。能力をコピーしてみただけ。コピー出来たら能力持ち、出来なかったら能力なしでしょ?」
ティムは茶目っ気があるウィンクをする。相変わらず何も考えてなさそうでも抜け目のない奴だ。
「けど、シド君だって能力使ったじゃん。どうだったの?」
「残念ながら二人とも嘘はついていなかった」
「そっかぁー、大変そうだね」
頭を抱えるシドを見ていかにも楽しんでいるティム。フォクスター姉弟との同盟、怪しい集団のプロトネ祭来場疑惑、どんどん波乱に巻き込まれていくシドであった。




