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偽主  作者: シュカ
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式典後半部

ただいまご紹介賜りました、キーツ・ラドウィンと申します。貴賓の皆様におかれましては、大変ご多忙の所、お時間を作っていただき、ご臨席賜りましてありがとうございます。」

 

 スクリーンの前にマイクを持ってキーツは表れた。流れるような挨拶をした彼は来賓に頭を下げると今度は生徒達と先生方のいる方へと向きを変えた。

 

 休憩時間には原稿を持っていたが、流石に今は持っていない。前半部にステージ上にあった台やマイクはスクリーンを妨げてしまうため、休憩時間に撤去している。

 

 ステージ上にはキーツだけのため彼の姿がよく見えた。

 

 「そして、先生方。今回のプロトネ祭においてもたくさんご指導ご鞭撻頂きました、私達生徒に惜しまぬご協力を頂きありがとうございます。先生方にも、より良いプロトネ祭のために東奔西走していただいたことに重ねて御礼を申し上げます。」

 

 キーツが会釈したのにあわせ、一般生徒の多くが座ったまま先生方に向きを変えお辞儀をした。先生方もそれに返すように会釈をする。

 

 「さて、幼稚舎、中等部、高等部の生徒諸君よ。いよいよ、待ち待っていたプロトネ祭の開催だ。出し物を出すもの有志の者は今日までたくさんの時間をかけて、その準備をしてきたことだろう。毎日遅くまで残っていたものの姿も見受けられた。準備、ご苦労だった。その成果をぜひとも存分に発揮させてくれ。」

 

 周りの生徒の中で頷いたり、おーっと拳を挙げるものがいる。そんな彼らはプロトネ祭で出し物をする者達だろう。

 

 キーツの言うとおり遅くまで残っていた人も多かったため、皆何人かはシドにも見覚えがあった。

 

 「そして、出し物をしないと言う者達よ。プロトネ祭は生徒が主役のお祭りなのだ。普段はあまり交流のない者とも話す機会ががあるだろうがそれも楽しみのひとつだ。有志の者が出す出し物をたくさん周り、ぜひプロトネ祭を盛り上げてくれ。」

 

 生徒達の全体を見回しながらキーツが話すと、先程より少し大きな歓声があがった。その中にはあどけない声のものが多く混じっている。

 

 出し物をする有志に年齢制限はなく掛け持ちもできる。そのためクラス単位で展示会をするのはどこの学年でもやっている。だが、個人やグループでの有志となると、やはり学年が大きくなるに連れて増えてくるものだ。

 

 そのため、歓声をあげた生徒は幼稚舎の者が多かったのだ。

 

 「だが、出し物をする者も、参加するものも楽しく過ごせるように、ちゃんとルールは守らなくてはならない」

 

 キーツは何個か例をあげていく。一般の者も来るので、校内は混雑するだろうが、順番を守ること。ケンカをしないこと。ゴミはゴミ箱に捨てること。何かトラブルが起こりそうだったら、周りの上級生や生徒会、そして巡回している先生に相談すること。

 

 そんな簡単なものなので、特に上の学年には知ってるよと思うとこだったろうに、キーツの話は生徒全員が熱心に聞いていた。

 

 それは、彼の話が説教臭くないことと、日頃から色々な多くの生徒と接し、好感と信頼を得ているからだろう。

 

 「ほんとすごいな」

 

 とシドとティムはどちらともなく呟いていた。それから顔を見合わせこっそりと列を抜ける。キーツの話は締めにはいる。

 

 「それさえ守ってもらえれば、あとは自由だ。存分にプロトネ祭を楽しむのだ。」

 

 両手を大きく広げてキーツが生徒達を煽ると、今までで一番大きな歓声が響いた。来賓や先生方がその光景を見て、微笑ましげに手を叩いている。

 

 その間にキーツはホールの中にいる生徒会メンバーの姿を確認する。体育館の四隅に、ユウリ、リャッカ、ティム、シドが散っているのが見えた。列から少し前に出た所、ステージの真正面にいるチュリッシェの準備も整っているようだ。

 

 歓声が収まってきたのを感じて、キーツはもう一度、マイクを使い

ステージの下の生徒に向かって言った。

 

 「さぁ、まずは、皆に我々生徒会メンバーが作った、特別映像を見てもらおう。準備はいいか!」

 

 その呼び掛けに生徒達はおーーー!とホールが揺れるような声を出す。キーツはそれを受けてさらに声をあげる。

 

 「では、始まりだ!」

 

 そして、すばやくスクリーンの前からキーツが姿を消すと同時に、ホールの四隅に散ったメンバーがスイッチを押して全ての明かりを同時に消した。

 

 残るのは非常用に残してある最小限の明かりのみだ。

 

 ざわざわと揺れる生徒達の声が、広がり騒ぎになる前にチュリッシェがパソコンを操りスクリーンに映像を表示させる。

 

 暗いホール内にそこだけ明かりが灯される。さながら映画館のようだ。ホール内の全員がスクリーンに注目していた。

 

 映像が始まり、それは十秒間のカウントダウンを始める。0になると楽しげな音楽と共に様々な写真がスライドされる。

 

 生徒会メンバーで作ったその映像は、子どもから大人まで飽きずに楽しんでもらえるように、様々な工夫を施していた。

 

 最初は昔の資料や写真だけではあきてしまうので、比較して見られるように、昔と今のを交互に流す。

 

 うわーー、えーー、すごーい、などあちこちから声が上がる。

 

 

 皆がスクリーンに夢中になっている隙にホールの四隅に散っていたメンバー達と合流し、ホールの後ろの方に集まり、観賞することにした。

 

 「楽しんでもらえてるようで良かったな」

 

 「うん、けどまだこれからだねー」

 

 シドが静かにティムに声をかけると、彼は挑戦的に笑った。

 

 実はこの映像はティムとチュリッシェが担当していたもので、シークレットジョブ担当のリャッカはもちろんのこと、たまに相談を受けたぐらいで詳しい内容はユウリとシドも知らない。

 

 「何が起こるのでしょうね」

 

 「危険なことはしてねーよな?」

 

 両手をあわせたポーズで微笑むユウリに少し心配そうなリャッカ。そんな二人にティムは楽観的に言う。

 

 「危なくないからだいじょーぶだよ。まっ、見てれば分かるよ」

 

 そう言われてしまえば、見守るしかない。他の生徒達のようにその場に腰を下ろす。その時シドはリャッカと目があった気がしたが、特に何も言ってくることはなかった。

 

 「お、そろそろ変わるよ。」

 

 昔と今の対比をさせていた映像が切り替わり、今度は誰かのインタビュー映像のようだ。画面の仲のティムが説明している。遠くからどんどん近づいて行く演出でいよいよ、そのインタビュー者の顔が映る。

 

 「「「きゃーーーー!」」」

 

 と、主に女子生徒達の悲鳴が木霊した。それも無理はない画面に写ったのはサヒトナの国において、今をときめくアイドル、ニース・アドルフだったからだ。

 

 だが、彼へのインタビューが始まるとホールはさっきよりも静まり返る。どうやら一字一句聞き漏らさないように耳を集中させている生徒が多いように見える。

 

 確か彼は六年ほど前にプロトネ学園を卒業し、それと同時に芸能界にデビューしていた。彼は類いまれなる歌とアクロバティックなダンスで瞬く間にブレイクし、ここ二年ほどあっちこっちの番組やCMに引っ張りだこだ。OBであることも含めこの学園でも大変ファンが多い。

 

 「よく、会えたな」

 

 ニースのプロフィールを思いだし感心しつつティムに聞くと、彼はにんまりとする。

 

 「かいちょーのコネってすごいよねー」

 

 キーツの紹介だったことには納得だだ。だが、会長は自分の交友関係を矢鱈とひけらかしたりはしないし、聞いてもはぐらかされる。そんな彼よりニースの情報を得たティムとチュリッシェの手腕も相当なものだ。

 

 「さっ、仕上げといこーかな」

 

 画面の中のニースが当たり障りのないプロトネ祭への祝辞と学園生活の思い出を語ったところで、ティムがその場に立ち上がった。

 

 スクリーンの場面は変わり、今回は今在籍している普段の生徒達の様子を写真で流していた。これはこれで盛り上がるが流石にアイドルの挨拶の後では盛り上がりにかけるようだ。

 

 ニースのインタビューを最後に持ってきた方が良かったのでは?とシドは思うがティムの顔つきが何かを企んでいるようであったので、静観に努めた。

 

 最初は授業風景の映像が流れていた所から入学式の場面に変わるとホール内に変化が起こった。なんと、映像に合わせて桜の花びらが舞い降りてきたのだ。

 

 生徒達も驚いたように頭上を見上げる。その間にもどんどん花びらが降り積もり、ホールに桜色の絨毯が広がり花の甘いかおりもしてきた。花びらを両手に取って舞い上がらせているものもいる。

 

 スクリーンの映像は変わり今度は夏の場面。体育祭やプールの光景が写し出される。

 

 すると、ホールの温度が上がっていく。さんさんと太陽が照りつけているようだ。夏の写真が終わりに近づくと

映像の中の生徒がプールに飛び込んだ所でホール内に水しぶきが上がる。ホール内の温度が上がっているので寒くはなくむしろ心地よい。

 

 それから秋は紅葉、冬は雪と進んでいき、ついにクライマックス。最後に幼稚舎から高等部までの全生徒でとった写真が流れ、画面が暗くなる。

 その一瞬の後、ドーンいう音と共に大輪花火がホール内に咲いていく。色とりどりのそれは、とてもきれいでロマンチックだ。

 

 室内で危険ではと思うかもしれないが、今までの現象を含めこれは前部ティムの能力によるものだ。例え花火に触ったところで熱くないし火事にもならない。

 

 一分ほど花火が打ち上げられ続け、とどめに一番大きな花火を打ち上げるとティムは座り込んだ。

 

 「つかれた」

 

 最後の花火が打ち上げられ終わり改めてスクリーンを見るとプロトネ祭開催とデコレーションされた文字で、でかでかと書かれていた。

 

 「「「おーーーーーー!!!」」」

 

 静まり返る室内は、すぐに、生徒たちによって打ち破られる。割れんばかりの歓声と称賛に冗談ではなく地面が揺れる。その反応を受け、ティムはとても満足そうな顔をしていた。

 

 こうして、プロトネ祭の式典は生徒達の興奮冷めやらぬまま終了したのであった。

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