プロトネ祭早朝
澄みわたる青空。時おり吹き付ける冬の風は風はとても冷たいものだ。今日はいよいよプロトネ祭の初日。
シドはいつもより少し早めに起きて
ジェイドの運転する車で学園に向かっていた。
「じゃあ、坊っちゃんプロトネ祭に来ることを楽しみにしてますぜぇ」
学園の校門までたどり着いたらジェイドが車のドアを開けてシドを送りだす。
「少し気が早いが、ああ、楽しみにしていてくれ」
送ってくれているであろうジェイドに片手をあげて告げる。
一般公開は明日からなので、ジェイドの言葉はいささか気が早い。だけど、楽しみにしてくれているのは嬉しいことだなとシドは思う。
ジェイドだけでなく、ヘザーもナタリーも、多分アルベルトも楽しみにしてくれているのが朝から分かった。やたらと皆上機嫌だったからな。朝の屋敷の風景を思いだし、シドはそう感じていた。
学園の中に入ると、そこはもうプロトネ祭一色に染まっていた。カラフルな装飾や看板、展示品などたくさんのものがひしめいている。朝早くから来て最終準備をしている生徒達がその間を塗って忙しなく動いていた。
「おはようございます。早いですね」
「おお、シドか。おはよう」
生徒会室にいたのはキーツ一人だけだ。部屋の中はそれなりに暖まっており、コーヒーをいれたカップは半分ほど中身が減っていた。いったいいつから来ていたのだろうか。
まだ、皆も来ていないので、シドは自分の飲み物を持って机につきキーツと談笑をした。そこに控え目なノックがされ、中に人が入ってくる。
「おはようございます。今日からプロトネ祭では、よろしくお願いします。」
折り目正しい挨拶をしたのは、顧問のステラだ。
「おはようございます。よろしくお願いします」
キーツと二人、返事をすると、ステラはクールビューティーな顔にふっと笑顔を作る。
「ええ、それだけを言いに来ました。ああ、他の皆さんも見えましたね。わたしはこれで失礼しますね。」
彼女は右手にバインダーを持っていて、それをチラッと見ていった。色々スケジュールがある中で合間を塗ってここに来てくれたらしかった。
「わざわざありがとうございます」
ステラがもう一度笑い、生徒会室を出ていくと、入れ替わるように馴染みのメンバー達がやって来た。
「おはようございます。遅くなりました。校門でチュリッシェちゃんとティム君に会って立ち話をしてましたので。」
にっこりとユウリが微笑み、その後ろからティムとチュリッシェが朝の挨拶をする。
「おはよーございまーす」
「おはよーです」
ティムは元気そうだが、チュリッシェは少し眠そうな顔をしている。
「ああ、おはよう」「おはようございます」
キーツとシドもそれに返事をした。
「もしかして、ステラ先生にも会いましたか?」
「はい、ちょうどここの前で、挨拶にって言ってましたわ」
空になっていた自分のカップとキーツのカップを片付けながらシドが問うとユウリが答えてくれた。
「そうだったのだな。早速で悪いがホールの方に行くとするか。式典まで後一時間ほどだから、用意をしておこう。」
キーツが立ち上がり伸びをする。メンバー達は彼の後に続いた。
プロトネ学園のホールは全ての生徒や先生方が無理なく入れるようにと作られている。高等部の生徒だけで千人を越える人数が在籍してる学校だ。幼稚舎から数えると全生徒は三千人はいる。それだけの人数が集まれるようにしてあるここはとにかく広い。
そんな大きなホールの中に今は生徒会メンバーと数人の先生いた。先生方は広いホールの中に散り散りになって何かをしている。
「かいちょー。後はどこですか?」
机と椅子をなん組か運び来賓席を作り終えたシドとティムはホール準備の担当である先生と話していたキーツに話しかける。
「ああ、もうおしまいだ。ご苦労様」
キーツが振り替えって二人に笑いかけていると、ステージ付近で作業していたチュリッシェとユウリも合流して口々に告げた。
「あまりやることなかったですね」
「先生方がやってくれてましたもんね」
二人は今日の式典で使う、学園の歴史の映像を流すためのパソコンがきちんと動くか動作確認をしていた。
「ははっ、ただでさえ君達にはあちこち走り回り、頑張ってもらったんだ。我々も負けてはいられんよ。本当は君達が来るまでに終わらせたかったんだがね」
キーツと話していた先生が笑いながら頭に手をやる。眼鏡をかけてひょろっとした優男風の先生だ。くらい灰色の頭にはところどころ白髪が混じっている。
「いえいえ、先生達のおかげで助かりました」
「いや、それはこちらのセリフだよ。みんなありがとう。後は先生方方に任せて式典まで待機していてくれ」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
キーツが言い返すと先生は慌てて両手を降ってとんでもないというように恐縮していた。先生が言ったようにやることもないようなので軽く会釈をして生徒会メンバーはその場を後にした。
「そういえば、ホールの中にいる先生でその場に立ったまま動けない方が何人かいたようですが、どうされたんですかね?」
生徒会室に戻り、雑談をしていた時にシドはふと疑問に思っていたことをキーツに聞いた。すると彼は、ああとそれに答えてくれた。
「あの先生方は皆、熱や温度を操れる能力持ちなのだ。だから、ホールの中を暖める役割を担ってくださってるのだよ。我々がホールに行った時あまり寒くなかったであろう?」
言われてみれば確かにそうだ。いくら風がしのげるホールの中とはいえ今は冬だ。朝早くの時間だし羽織ものを着ないと流石に寒いだろう。そんな中シドは制服のみでホールにいたがそれでも寒いとは感じなかった。
「そうでしたね。それも先生方の能力のお陰だったんですね」
キーツの話によると能力持ちの先生は通常業務の他に、ホールの温めのような、自分の能力の特性をいかす仕事も担うことになるらしい。
「大変そうですね」
「いや、そうでもないかもしれん。誰かにだけ負担が片寄らないように能力持ちの先生は無能力の先生よりも通常業務が免除されるらしい。各人の仕事の具合にもよるらしいがな。」
どうやら中々考えられているシステムらしい。感心したようにシドは頷く。
「まぁ、能力持ちにしかできないこともあるからな。適材適所ってやつだな」
「あ、それすごく分かりやすいです」
誰にでも得意なことも苦手なこともある、それを補いあえるというのはすごく理想的な環境にあるとシドは思った。
シドの答えにキーツは満足そうにへらっと笑うと、校内の恋愛話で盛り上がっていた、他の三人の会話に交ざっていった。
シドは少しの間ドアの外に意識を向ける。登校して来たときよりも遥かに生徒の数は増えて、賑やかになっている。皆、今か今かと出し物ができるその時を楽しみにしていいるのが伝わって、自然とシドの口に笑みが広がる。
「ちょっと、シド!なに一人で笑ってんのよ!?」
「シド君はとおーいどこかへ旅立ってるんだよー」
そんなチュリッシェとティムの声が聞こえて、ハッ我にかえるシド。
「すみません!なんでしたっけ?」
「えっ、本当に聞こえてなかったの?呆れたー。」
前半は驚愕したように後半はため息混じりにチュリッシェがいうので、シドはひたすら謝った。
三年生の二人はほほえましげにそんな光景を見ており、ティムは机の影に隠れるようにして、肩を震わせている。助け船を出してくれたのは、やはりユウリだ。
「シド君があまりにボーッとしてたので、チュリッシェちゃん達が話しかけてたんですよ」
くすくすと笑うユウリにシドはしまったと思い再び謝る。
「もういいわ。それより、大丈夫なの?」
「はい。僕は文化祭が初めてで、少しこの空気にのまれてしまってました」
少し照れながら正直なことを話すと今度はチュリッシェがしまったと言う顔をした。
「そう。それなら楽しい文化祭になるといいわね」
だが、敢えて深く追求せずやさしい笑顔でそう言ってくれた。ここにいるメンバーはシドの幼い日の事情も知っているが、深く追求しては来ない。それが優しさなのだろうなというのは、いくらシドでも分かる。
だから、シドはこれ以上ないくらいにっこりと笑う。そして話題をもとに戻した。
「はい。そうですね。そういえば、さっきのはなんの話でしたか?」
「ああ、それはね…」
話しているうちに時間はどんどん過ぎ、いよいよ式典が近づいてくる。
プロトネ祭本番まで残すところは後少しだ。




