中等部生徒会メンバー
「失礼します」
先頭をきって入っていくステラに続き生徒会メンバーも入室する。
中は会議仕様にコの字型に並んでいる机。ドア側のど真ん中に座っている校長先生が穏やかな笑顔を見せる。
彼がプロトネ学園校長、オリバー・バーンズだ。一見白髪でシワも目立つ小柄なおじいさんであるが、実力はサヒトナの国でもトップクラスと名高く、未だそれが衰える様子はない。その鳶色の目は歴戦の兵士のような光が灯っている。
「高等部生徒会メンバーの皆さん、お疲れ様。ウィンセント先生も指揮をとってもらいお疲れ様です。もう下がって結構ですよ。ここからは私が受け持ちますので」
「失礼いたしました」
ビシッと決めた挨拶を校長に返し高等部生徒会メンバーに目礼をしてステラは退出する。
「さぁ、皆さんも座って。」
校長に促され、ちょうど中等部メンバーと対面になる所にキーツを先頭に席につく。学年順になるようにと校長から受けたので、リャッカの右隣の二席にキーツとユウリが座り、左隣にチュリッシェ、ティム、シドと続く。
向こうは男子生徒三人と女子生徒三人というほぼ高等部と男女比は変わらない。
キーツの対面にいる会長らしいポニーテールの女の子は落ち着いているものの、チュリッシェとティムの対面にいる子達は落ち着きなく、こちらを見てなにやら小声で話し合っている様子だ。
「ゴホン、それでは始めさせてもらおうかな」
咳払いをして校長はゆっくりはっきりとした口調で会の始まりを宣言するとシド達の向かいにいた生徒も大人しくなった。
「まず、中等部生徒会諸君。高等部生徒会諸君。共に今日までご苦労様。君達の尽力のお陰で無事に明日プロトネ祭を迎えることが出来る。ありがとう」
全体を見回しながら校長はひげの奥の口をもごっと動かして目を細める。
「さぁ、後は本番を迎えるのみだが、すでにそれぞれの会長を通して伝えたように、諸君には明日の見回りをお願いしたい。」
はいっと返事をする生徒達。真剣な顔をするものもいれば、ややめんどくさそうな顔をしているものもいる。そんな様々な表情をしている生徒達の反応に校長は満足気に頷いた。
「諸君もいろいろと思うところがあると察するが、この件には諸君の力が必要だ。協力してくれるかな?」
生徒達は再び声を揃えて返事をした。
「諸君の協力に感謝するよ。さぁ、まずは簡単にお互いの顔合わせといこう。中等部と高等部ではあまり顔を合わせることもないだろう?中等部の諸君から順に頼むよ」
校長からの視線を受けて、中等部の会長らしいポニーテールの子が席を立ち上がり、丁寧なお辞儀を見せた。その動きに合わせ青色で長めのポニーテールがぴょこっと揺れる。目鼻立ちがスッとしており身長はけして高い方ではないが、背筋が伸びており凛とした少女だ。
「プロトネ学園中等部三年生で生徒会会長をさせていただいております、エマ・ロゼンと申します。よろしくお願いします」
硬い言葉ではあるが表情は柔らかい。彼女は少し緊張をしている様子だった。制服のスカートの裾をつまみ優雅なお辞儀をするとほっとしたように息をつく。それから隣に座る眼鏡の男の子に目配せをし着席をした。
「中等部三年生、副会長のヨシュハ・クォートです。明日からのプロトネ祭ではよろしくお願いします」
生徒会長であるエマにお疲れさまですと言うように笑いかけてから彼は立ち上がり挨拶をした。
柔和な顔の上の大きめな丸眼鏡を中指で直し、微笑むヨシュハは年齢よりも大人びており、その雰囲気は高校生や大学生といっても通じそうだ。身長はすでにシドのそれを越えているだろう。
髪と同じ色をした薄い青紫の瞳はキーツのように達観しているような光を持っている。そんな彼の着席を見届けて、次に立ち上がるのは短いオレンジ色の髪をしたツンツン頭の少年だ。
「中等部二年のジュドア・イグネイシャス。生徒会書記っす。よろしくっす。」
すくっと立って気を付けの姿勢で中学生らしい声変わりの前の高い声で大きい声で挨拶をする彼。両手で握り拳を作り、スッと目を細めてきっちりと頭を下げるところと、小柄な体躯な割りに引き締まった体つきから、何かの武道をやっているのだろうなと思わせる。しかし、あまり年上の女性は得意ではないようだ。ユウリやチュリッシェを気にしては目をそらすということをさっきからなんかいかやっている。
「はいはーい!ラウリム・フォクスターでーす。生徒会会計の二年生だよー!ラウって呼んでね♪」
ジュドアムが座ったと同時にバンっとバネ仕掛けの人形のように飛び上がるのはふわふわとしたクリーム色の髪の毛をした女の子だ。制服も校則違反にならない程度に着崩しており薄くメイクもしていそうだ。おしゃれが好きな今時な女の子という印象をシドは受ける。
彼女はシドと目が合うとパチッとウインクをして隣にいたよく似た風貌の子とハイタッチをした。するとその子もバンっとラウリムと同じように立ち上がる。
「リウラム・フォクスター。ラウの弟で一年生さ!生徒会庶務だよ。センパイ達よろしくねー!」
ラウリムとよく似た笑顔をリウラムは見せる。ふわふわとした姉と同じ色の髪の毛は彼女よりも短いものの男子としてはやや長めだ。彼は中性的な顔立ちをしているので二人揃うと姉弟よりも姉妹に見えるなとシドは思うが、失礼だったなとその考えを捨てる。
彼はティムを見ると、ふっと笑って座り隣に座っていた女の子の肩を叩いた。
「……クラスタ・クーララ。一年生なの。リウ君と同じ庶務なの。」
薄桃色の髪をツインテールにしているチュリッシェよりも小さな女の子。どこか守ってあげたくなるような愛らしさがある。彼女はあまり口数の多い方ではなさそうだなとシドは感じた。
これで中等部生徒会は全員かと思った時、クラスタの座っていた椅子の上から、何かがぴょこんと飛び出した。
「こっちはお友だちのムウムウちゃん。よろしくなの。」
飛び出したそれは子猫のような生き物だ。ただし額から生えている角と背中についた翼を使って飛んでいるところ以外は。彼女はその生き物を抱き締めて紹介すると、席に座った。
「すっごいねー。初めてみたよー」
それを見たティムが興奮を隠せない様子で小声で話しかけてくる。同じく小声でシドは返した。
「ああ、僕もだ」
クラスタがお友だちと紹介したのはこの国で魔獣と呼ばれている生き物だ。魔獣は人里離れた場所に住んでいるが、どれも強い力を持っており人間と生活していくのは難しいとされている。
そんな魔獣を連れているものは数少ない魔獣と対等に接することが出来る能力者で「魔獣の友」と敬意を込めて呼ばれている。クラスタが連れているのはまだ子供の魔獣らしいが、それでも初めてみたなとシドは感激する。
「ってことは、あの子は魔獣と心を通わせられる能力者だね」
「そうだな」
「さぁ、次は高等部諸君の番だ。」
中等部のメンバーの全員が自己紹介を終えたので校長が高等部のメンバーに挨拶を促した。
「プロトネ学園高等部生徒会会長、三年生のキーツ・ラドウィンだ。楽しいプロトネ祭にしよう。よろしく頼むぞ」
キーツは頼もしい笑みを浮かべる。彼のことだから当然中等部生徒会メンバーのことも「魔獣の友」のことも知っていたのだろうなとシドは考える。中等部会長のエマが彼のことを尊敬の目で見ていた。
「プロトネ学園高等部生徒会副会長、三年生のユウリ・ヒイラギです。初対面の方もいらっしゃいますがよろしくお願いいたしますわ。」
ユウリが優しい笑顔を向けると、まじめに話を聞いていたジュドアが慌てて下を向いた。笑顔を向けられて照れてしまったらしい。ラウリムがそれをからかっていた。
「生徒会書記。二年のリャッカ・イバだ。」
手短に話すリャッカに中等部一年生メンバーは呆気にとられた様子であったものの、そういうものなんだろうと納得したみたいだった。
「生徒会会計、チュリッシェ・ユースフォルト。二年よ。まぁ、よろしくね。」
小さなお姉さんであるチュリッシェはいつも以上に姉御肌な振る舞いで挨拶をした。またまた、ジュドアが下を向いているようであった。ピュアな少年である。
「生徒会庶務、一年のティム・レレイムだよ。よろしくねー、こーはい君たち」
いつもの間延びした調子でいうティムはなぜかリウラムを意識しているようだ。見ると、彼の方もティムを意識している様子であったので、何か通じるものでもあるのかもしれない。
「生徒会庶務、一年生のシド・クローバードです。よろしくお願いします」
最後にシドが当たり障りもない挨拶をすると、またもやラウリムからウインクが飛んできたので苦笑して席につく。同じように中等部副会長のヨシュアも苦笑していた。
「うむ、皆、いい自己紹介だったね。では、次に明日から君達に依頼するシークレットジョブについてだ。」
ようやく半分といったところであろうこの会は校長の進行のもと、次の段階にはいる。




