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偽主  作者: シュカ
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プロトネ祭リハーサル日

空は快晴であるものの吹く風は肌を刺すように冷たい。空気が冷えきっているおかげで心なしか視界もクリアになっている。今日は12の月の4の日。プロトネ祭のリハーサルの日だ。

 

 ホールでは明日にステージ発表をする生徒達がすでに中で練習している。

 

 そんな中で生徒会は学園の入り口にプロトネ祭の看板を立て掛け、目立つように装飾を施していた。

 明日からの本番に向けて準備も最後の追い込みである。

 

 「そこ、曲がってる。ティムの方を三センチ上げて。」

 

 「はーい」

 

 チュリッシェの指示に従いティムとシドで最後のポスターを張り終える。看板の装飾もキーツとユウリが済ませていたので、これで大方片付いた。

 

 「そっちはどうだ?」

 

 「こっちも終わりました」

 

 少しはなれた位置にいるキーツが声を張って問うて来た。同じように声を上げてシドが答えると、向こうで作業をしていた三人、キーツとユウリともう一人大人の女性がシド達の方に近寄ってくる。

  

 「皆さん、お疲れ様です」

 

 「せんせーもお疲れ様ー」

 

 キーツでもユウリでもないもう一人彼女は生徒会顧問、ステラ・ウィンセントだ。生徒会のシークレットジョブは校長の管轄だが、それ以外の学校行事などでの活動は彼女が顧問としてついてくれている。

 ボブカットにしているさらさらしている焦げ茶色の髪を冬の風に揺れている。


 年齢は二十代後半らしいが、そうは見えなく、学校を卒業したてのお姉さんという風貌だ。だが、話してみると落ち着いた色気を感じさせるところがあるので、男子生徒の中には彼女のファンもいる。

 

 「さっ、ここはもういいでしょう。中へ戻りましょう。寒いですし」

 

 見ると皆が上着を羽織っている中、彼女はこの時期には辛いであろう薄着だった。

 

 「そういえば、先生上着はどうされたんですか?」

 

 中へ戻りながらシドは一人生徒会メンバーの輪から離れステラにこっそりと話す。

 

 「持ってくるのを忘れてしまったのです」

 

 キリッとした感じに言っている様子が半ば開き直っているようにも見える。しっかりしている先生だが、時々こういったうっかりをしてしまうところがある。シドは着ていた上着を脱ぎステラにかける。

 

 「今更かもしれませんが、中に着くまではまだ時間がかかりますので、使ってください。」

 

 プロトネ学園の敷地は広い。幼稚舎から高等部までの建物が存在しているので、それなりに土地もあるのだ。入り口があり、幼稚舎、中等部、高等部と年齢が上がるほど奥の建物に移るため、入り口から高等部までは五分ほど時間がかかるのだ。

 

 「そんな!生徒から上着を借りるなどいけません」

 

 案の定、上着を突き返されかけたので、シドはあらかじめ考えていたいいわけを口にする。

 

 「いえ、作業をしていたら暑くなってしまったのです。だから、先生に預かってもらえると大変助かるのですが」

 

 ダメですか?とシドは自分より少し身長が高いステラを上目遣いで見つめる。

 

 「仕方ありませんね。中に戻るまでの間ですよ」

 

 もうっとため息をつきながらもちゃっかりシドの上着を羽織直している辺り、やはり寒かったのだなとシドは微笑ましくなった。緩む頬を見られないように、歩くスピードを落とし、他の生徒会メンバーと合流する。

 

 「やるねー、シド君。今度はせんせーを落とすの?」

 

 小声でひゅーひゅーとやっている、ティムの頭にチュリッシェがチョップを落とす。

 

 「いてっ、なんですかチュリッシェ先輩」

 

 「なんか、腹立つ」

 

 さほど痛くも無さそうにティムが頭をさするとチュリッシェはふんっと鼻をならした。

 

 「ははは、楽しそうでよいではないか」

 

 「皆さんお疲れ様ですわ」

 

 更に後方からキーツとチュリッシェが追い付いてきた。後輩三人は一斉に二人の方を見る。

 

 「お疲れ様です」

 

 「ああ、時にシド。ステラ先生とはどうだっただろうか?復学してから初の顔合わせだったろう」

 

 「ええ、今日の作業の前に挨拶に行きました。随分と心配を頂いた後、今後も頑張るように言われました。」

 

 「そうか、良かったなシド」

 

 明日ステージ発表をする生徒の楽器の演奏の音や男子生徒の絶叫やはしゃいでいる女子生徒の甲高い声が聞こえて来る中あまり大きくはない声でシドとキーツは話す。

 

 ステラには教師であるということから流石にシドの事情のことを話しす訳にはいかなかった。そのため、キーツは不自然に思われなかったかという意味を込めてシドに話しかけたのだ。

 

 「後は何が残っていましたっけ?」

 

 生徒会室に戻り、皆で本日のやらなければならない工程をリストにまとめたものを確認する。

 

 ユウリが胸ポケットからペンを取りだしリストで終わった部分に線を引いていく。

 

 「今ので、準備の方はおしまいですわね。ステージのリハーサルの方で機器に不具合がなければ、今日は明日の打ち合わせを行うだけですね会長?」

 

 「ああ、その通りだ」

 

 「ついにここまで来ましたねー」


 ユウリ達の準備終了の声にチュリッシェが感慨深く呟き自分の席につく。

 それを合図に各々自分の席に戻り、思い思いにくつろいだ。

 

 「皆さん大変お疲れ様です。」

 

 職員室で用足しを行っていたステラが生徒会室に戻ってくる。普段は生徒達に任せ、あまり生徒会室に顔を出したりはしないが、プロトネ祭で仕事がたくさんある今日は話が別らしく、率先して手伝ってくれる。

 

 「今日までの長い間、プロトネ祭の準備お疲れ様でした。あまり手伝いにこれずすみませんでした。プロトネ祭では、見回りもあると思いますが楽しんでください」

 

 皆はリラックスをしていた姿勢を正しステラに注目する。


 するとステラのクールな顔の口角が少しだけ緩められ、暖かい笑顔が向けられた。

 

 「もう少し休んでから明日の打ち合わせを行いましょう。もうひと頑張りです。それからクローバード君これを」

 

 「ありがとうございます」

 

 次に口を開いた瞬間にはクールな表情に戻っていたステラがシドに上着を差し出した。

 

 「いえ、ありがとうございます」

 

 シドがきれいに畳まれた上着を受け取りにいくと、彼女はほとんど唇だけを動かしてシドに礼を言う。

 

 「では皆さん。また、後程参ります。」

 

 音を立てずに生徒会室から出ていったステラ。皆がまた姿勢を崩して、雑談に興じる。

 

 ユウリが飲み物を淹れると席をたったので、シドもティムと共にその手伝いをした。すっかりティータイムになり、ある程度作業の疲れもとれて体も暖まりリラックスできた頃、生徒会室のドアが控えめに叩かれた。

 

 「どうぞ」

 

 飲みかけのコーヒーのカッブを置いて、キーツが入室の許可を出す。

 

 「失礼します。そろそろ打ち合わせを行おうと思うのですが皆さんいいですか?」

 

 やって来たのはシドの想像通りステラだった。あれから半時ほどが経っており、外も薄暗くなってきたのでそろそろだろうなとキーツ達と話していたのだ。彼女は右の手にバインダーを持ってビシッとした気を付け状態で生徒会メンバーに伺う。

 

 「ええ、すっかり休めました。どこでやりますか?」

 

 「多目的室で行います。」

 

 代表で答えたのは会長のキーツだ。他の皆は荷物を片付けたり、残った飲み物を飲み干したりと移動の準備にはいる。

 

 プロトネ学園に多目的室と呼ばれる部屋はいくつかある。中は普通の教室とあまり変わらず、授業の時使うように机と椅子が並んでいる。

 

 普段から、何かの打ち合わせや物置や、時には授業で使ったりと何かと自由に使える教室として重宝されている。

 

 「場所は一階の一番右です。遠い所ですが、ここしか開いていませんでした」


 生徒会室は高等部校舎の最上階である五階の中央に位置しているので確かに少し遠いがどこもプロトネ祭で使っているのだから仕方のない。とおーいよーとごねるティムを励ましながらシドは皆と移動した。

 

 「あれっ?誰かいるのかな?」

 

 ティムが首をかしげたのでシドも小さく前方を見ると確かに多目的室に明かりがついているのが分かる。

 

 「そうだな、校長先生かな」

 

 今回は明日の見回りの話がメインらしい。シークレットジョブにあたることから校長先生が来ているのだろうとシドは予想する。

 

 「ああ、そうでした。皆さんに伝えるのを忘れていました。」

 

 一番前を歩いていたステラが不意に足を止め振り替える。それにつられ皆も足を泊める。シドとティムの会話が聞こえていたようだ。

 

 「今回のプロトネ祭は規模が大きいので全職員と生徒会メンバーに見回りを依頼しています。ここまではご存じですよね?」

 

 再確認というようにステラは生徒会メンバー達の顔を一人一人見ていく。ステラと目があったメンバーは頷くことで意思表示する。

 

 「ですが、ここで言う全職員と生徒会メンバーは高等部だけではありません。幼稚舎、中等部も該当します。」

 

 「ということは…」

 

 ある程度先の展開が読めてきたシド。思わずキーツの方を見るといつものへらっとした笑顔をしており、この事を知っていたのかどうか表情からは分からなかった。ステラが言い忘れたと言っていたから、知らなかった可能性の方が高いが。

 

 「はい。ただ、知っての通り幼稚舎には生徒会はありませんので、幼稚舎からは職員のみの参加です。職員にはすでに段取りが通達されていますので、今からは校長先生からの説明のもと中等部と高等部の生徒会による打ち合わせとなります。」

 

 状況は理解できたか。これはかなりまずい。流石に中等部の事まで調べている時間はなかったので、前知識が全くない。シドは冷静な顔をしながら内心では焦っていた。

 

 「中等部生徒会ですか。私達とはあまり面識がありませんですわね。仲良くなれるといいですね」

 

 ユウリがそれとなく呟き、シドに向かってウィンクをした。どうやら、助け船を出してくれたようだ。シドはお礼の意味を込めてユウリに目礼をした。

 

 「さぁ、あまり中等部のメンバーを待たせるのはいけません。行きましょう」

 

 いよいよ、開かれるその扉。待っていたのは、校長と中等部生徒会メンバーと思われる6人の生徒。それに高等部生徒会二年生、リャッカであった。


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