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偽主  作者: シュカ
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任務開始

事務室とはうって変わり塾の教室がある二階部分はカラフルな色彩に彩られていた。この塾は階段を上がるとそのまま廊下に続き右側と左側にそれぞれ二つずつ扉があり、さらに突き当たりにもうひとつ扉があるという配置になっていた。


「……ここが私が授業している教室です。……席は自由ですので」


「ありがとうございます」


マーレが立ち止まったのは、左側の手前の扉の前であった。扉の上部に青の組とかかれたプレートがぶら下がっており教室の内部も目に痛くない優しい青を使った内装となっていた。


ちなみに向かいにあった、もうひとつの教室はイフが教えているクラスで緑の組とプレートがあった。奥の左右の扉はそれぞれ男子と女子のトイレになっており正面突き当たりの扉は倉庫として使っていることを聞いた。


すでにちらほらと生徒と思われる子供達がやって来ているので、あまり目立たないように案内してもらってそうそうに教室に入った。

教室の中には三十六組の机と椅子があった。


このクラスはシドとチュリッシェを抜いて三十一人在籍してしていて、六列六人ずつの並びで席が配置されている。これだと、若干席が余ることになるが、それは体験入学者用として常に置いているとのことだった。


「じゃあ、チュリッシェ先輩」


「ええ」


授業が始まるまで後二十分弱あるが教室内にはすでに十数人の生徒おり話し声で賑わっていた。事前の予定通りシドは前の方の席をチュリッシェは後ろの席を選んで座る。


これは、シドが能力を発揮するのに「何かが起こったら」の条件があるからだ。講師のマーレの方で異変が起こったらシドが即座に能力を使い怪しい生徒を探りだし、チュリッシェは後ろから全体を観察するという役割分担だ。


シドはミコルの店から借りてきたバックから文庫本を取り出して読み始める。本を読むという行為は声をかけられにくくする効果があるような気がしたから。ふとチュリッシェの方を確認すると彼女は二人の女子生徒と笑顔で談笑しているようだった。


「隣いいかな?」


シドの右隣の席に眼鏡をかけた少年がやってきて。本の効果はどうやらなかったらしい。


「うん。どうぞ」


本から目を離し答えると少年は不思議そうな顔をした。


「あれ?君初めてみる人だ。新しい入校生?」


「いや体験入学だよ。」


眠そうなトロンとした声をした少年だ。彼はパンパンに膨らんだリュックサックを置いた。いったい何をいれたらそんなに大荷物になるのだろう。


「あー、そっかぁ。僕はツバリ・ヤイカ。君は?」


「僕はシド・クローウェル。よろしく」


社交的な笑顔を見せてさらっと姓に関しては偽名を名乗った。シドというのはそこまで珍しい名前でもないしクローバードの名だけ隠せば十分だろうという判断だった。


「そっかぁ、シド君かよろしく。僕は目が悪いから前の席じゃないと大変なんだぁ」


「そうなんだ。」


そこで話は途切れたので再び本に目を向け読み初めてから数分後、教室のドアが開きマーレが入ってきた。授業が開始されるのだ。幸い二十分の間に残りの生徒も続々と登校し青の組には在籍する全員が集まっていた。


欠席者がいると調べ直す必要も出るのではと考えてはいたが、それは杞憂ですんだ。


「そ、それでは、今日も始めます。」


気弱そうな印象はあるものの先程よりはいくらかマシな情態であるマーレ。ここからはいつイタズラが起こるか分からない。集中して授業に取り組むも内容は中学生のものだ。


分かっている箇所も多いものの復習のつもりで聞いているとこれご結構楽しかった。


授業は二時間。前半一時間、20分の休憩を挟み、後半一時間というカリキュラムになっている。事前の話だと前半部の中盤くらいからその現象は起こるということだ。そろそろその時間帯になる。


「あ、あ、あれ?」


来たか。マーレの手から今までボードに文字を書いていたペンが消えた。後ろのチュリッシェにさりげなく合図を送りすぐさま能力を展開する。教室内の生徒の意識の波長が飛び込んできた。


たくさんの人間のそれが一気にやって来たせいで頭痛と吐き気をもよおす。それをぐっとこらえて軽く深呼吸するといくぶん調子がマシになった。それを見計らい生徒達の状態を確認する。


シドの能力は他人の意識の波長というのを見ることができる。それを分析してその人の体調や感情、さらには考えなどを読み取るのだ。一番得意なのは以前会長相手に話していたとおり嘘を見抜くこと。


だが、それらを分析し整理し自分の物のように感ずるにはかなりの集中力や精神力を必要とする。一人一人見終わるのに前半分の残りの時間は、けして長くなくあっという間に休憩時間になった。


周りの生徒がまたおしゃべりを始めたり、机に突っ伏して休んだりする中、シドは教室の外に出て、チュリッシェと合流した。


「あんた、大丈夫?顔真っ青だけど」


「…大丈夫です。能力を使うとこうなっちゃうんです」


誰もいないのを見計らい二人は建物の外に出て、今は塾の裏側に隠れるようにいた。シドはチュリッシェに自分の能力のマイナス面について簡単に話す。それを聞いたチュリッシェは難しい顔をした。


「最初に会った時は気づかなかったけど、あんたの能力も癖が強いのね。それで、どう?」


初めて生徒会メンバーに会った時はシドの顔色の変化なんて気づかないほど、衝撃的な話をしたからなとチュリッシェは思い出す。そんな彼女にシドは気づいたことを口にした。


「ええ、何人か気持ちに乱れがある生徒は見つけました。」


今回シドは動揺を見つけることを第一とした。ペンが消えたことにたいして何らかの反応をした者が怪しいのではと目星をつけた。毎日のようにこの現象が起きていればある程度は慣れるはずだ。


極端に気持ちが揺れ動くのは本人の資質にもよるが少々不自然だ。そう考え能力を使った結果怪しいと思ったのは六名の生徒だった。


「窓側からから二列目の前から三番目。三列めの四番目。廊下側一列目の一番前と三番目。後は廊下側二列目の四番目、チュリッシェ先輩の前の席の子ですね。この位置に座っていた六人が動揺を見せていました。」


「そう。この中の誰かが能力を使っている可能性が高いのね。」


「いえ、単に動揺を見せていたというだけですから。あくまで参考程度でお願いします。物が消失したことに単純に驚いたってだけかもしれません。」


「ここ最近同じようなことが起きてればいくらなんでも、またかって思うでしょ。後半はその六人を注意してみとく。私から見て前半では不信に思う生徒はいなかったし。」


「ええ、お願いします。そろそろ時間ですね。戻りましょう」


チュリッシェと話しているうちに休憩時間も残り短くなっていた。今度は生徒達にチュリッシェとの接点に感ずかれないように彼女と時間差を作り教室に戻った。マーレは教室に来ており授業の後半戦が始まった。


……が、結論からして後半戦ははっきりいって授業にならなかった。というのも、前半から比べ明らかに物の消失の頻度と種類が増えたからだ。


物の消失という現象に慣れていた生徒達も流石にパニックになったり呆れ果ててしまったりと教室内が、ガヤガヤと賑やかになった結果、慌てて隣のクラスからイフがやってきた。


「お静かに!!本日の授業はここまでとします。」


彼女は教室内に入ると凛とした声で生徒達に指示を出した。生徒達は不平や不満を垂れ流しにしていたが、何とか帰宅させることに成功した。通常の授業終了時刻の十分前のことである。


「なんか、すごいことになっちゃったね」


「そうだね」


隣の席にいたツバリが大きなリュックサックを背負いながら話しかけてきた。


「今日は終わりみたいだけど、また会えたら嬉しいな。じゃあ、僕はこれで帰るね。シド・クローウェル君」


「うん。またね、ツバリ・ヤイカ君」


握手を求められ戸惑いを隠し手を握り返すと、ツバリは満足げに教室から出ていった。何だか変わった子だなとシドは思いながらも、この教室の講師マーレの姿を確認する。


マーレは教室の隅の方で先程のシドに負けぬくらい青ざめた顔を両手でおおって震えていた。シドとチュリッシェは教室内に残り生徒達が全員帰宅したところで未だ動けずにいたマーレを連れて事務室に向かった。

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