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偽主  作者: シュカ
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ミコルの店2

「ふぅーん、じゃあ、今回はその塾への潜入をするのね。あなた達が来るたび思うけど私のいた頃と仕事内容も大分変わっているのねー。」


店の奥に続く通路を歩きながらチュリッシェはディハルドに今回の経緯を簡単に説明していた。


「ハルさんが生徒会だったのは14年前くらいでしたっけ?だったらいっくらでも変わってますよ」


二人はディハルドの案内の元で店の奥、服を仕立てるための仕立て部屋にたどり着いた。


「ちょっと年齢が分かるようなことは言わないでちょーだい!」


「あっ、ごめんなさい」


和やかに話していたチュリッシェとディハルドであるがやはり年齢には触れられたくなかったらしい。頬を膨らませて抗議するとチュリッシェは茶目っ気たっぷりに小さな赤い舌を出した。


余談ではあるが先程シドがディハルドさんと彼のことを呼び掛けた結果、ものすごい笑顔で、しかもやや食い気味に「ハルさんよ」と言われてしまった。


笑顔なのに顔が笑っていなかったため、ディハルドという呼び方と年齢についてはタブーだなとシドは学習した。


「さっ、今から塾にも顔を出すんでしょ。とっとと揃えちゃいましょ。」


気を取り直したディハルドが一つ手を叩いて立ち上がった。


「そうねぇー、その塾に通っている学生さん達はどこの学校の子達が多いのかしら?」


「近場にあるアカシロ中学校の生徒が一番多く通っているようですよ」


顎にひと指し指を置いたような体勢で問いかけたディハルドに、事前に調べていたのかチュリッシェが淀みなく答える。


「ふぅむ。それならー、アカシロ中学校の制服か私服が無難でしょうね。どっちがいい?」


「私は制服でシドには私服を。現場では私とシドはバラけて行動する予定なんです。シドは私服でも大丈夫そうですが、私が私服だと中学生に見えないかもなので」


恥ずかしがるような後ろめたいような、なんとも言えない表情と声音でチュリッシェは話した。小柄な体型な自分の事を彼女は気にしているようだからな。シドはここに来る前に繰り広げられたティムと彼女のやり取りを思い出す。


「はぁい、分かったわ。じゃあ、とって来るから、ここで待っていてちょうだいね」


「よろしくお願いします」


そうしてディハルドが部屋を出ていき、仕立て部屋にはチュリッシェとシドの二人が残された。


「あの、チュリッシェ先輩、すみません」


「はっ?なんであんたが謝ってんの」


「いえ…」


「それ以上言ったら流石にキレる。私は会長の決定に背こうなんて思ってない。それにあんたのことはともかく私だってシドの敵をとりたいもの」


後半は消え入りそうな声だった。シドはどこか心がむず痒い気持ちになった。というか、怒っているわけではなかったことに今更ながらに気づいた自分に力不足を感じた。


「というか、そんなにびくびくしてどうしたの?昨日までの勢いがどこにもないじゃない」


眉間にシワを寄せた怪訝そうな顔でシドの顔を覗き混むチュリッシェ。迷った物のシドは素直にティムから聞いた話をチュリッシェに話した。


このままの気持ちで仕事に取りかかるより、本人に聞いてはっきりさせた方が気持ち的に楽に感じた。それになにより、こんな気持ちのまま接するのはチュリッシェに申し訳がない。


「先輩が今回の仕事に乗り気でないと聞いてしまって」


「…ティムね。あいつはほんと余計なことを口走るわね…」


やっぱり聞かない方がよかったか?チュリッシェが威嚇をする猫のような雰囲気を醸し出し始めた。シドは彼女の思わぬ迫力にたじろぎ思わず頬をかいた。


「言っておくけど、あんたと君で仕事をする事には、それほど抵抗はない。会長が決めた以上、いずれはこうなるだろうと思っていたし。予想よりは早かったけどね。」


「じゃあ、なぜ、そんなに渋ったんですか?」


戸惑いを隠し聞き返すと、チュリッシェはギロッとにらみをきかせてシドを見た。


「潜入調査のたびに毎回子供の中とか中学生とか言われの。その気持ちは分かってもらえる?」


「あ、はい。ごめんなさい」


シド自身もそんな気持ちに心当たりがあったので頷いた。そのチュリッシェの迫力に押され謝ってしまったが、チュリッシェはその話は終わりと言わんばかりに、話題を変えた。


「さぁ、そんなことは置いといて、今回の仕事について打合せよ。ティムにどこまで聞いてる?」


「塾に潜入し、そこで授業中に行われる能力持ちのイタズラを止めるのが仕事だと聞いてます。受験期の生徒達に同様を与えないようするための潜入調査ですね。僕がメインになりチュリッシェ先輩がサポートにまわってくださるんでしたよね?」


服装のコーディネートは完全にディハルドに任せていた。


「ハルさんに任せれば間違いないから」


とチュリッシェは彼のコーディネートに絶対的な信頼を持っているらしい。


ディハルドを待つ間、やることもなかったので軽い打ち合わせと方針を決めておくことになり知っていることのすりあわせをする。


「ええ、その通り。現場の塾に行ったら塾長に挨拶して問題のクラスに潜入する。席は私とあんたが離れるようにしてもらってるから、どんなことも見逃さないように」


シドは疑問点をチュリッシェに問う。


「今回能力は使用してもいいですか」


「何か事態が発生したら使用してもよいと会長づたいに聞いた。逆に言うと何も起こってない間は使用不可ね」


「なるほど、分かりました」


段取りや注意事項を頭の中に叩き込んでいく。チュリッシェも普段通りの表情で和やかとは遠いが普通に話が進んだ。


他にも細かな所を合わせているうちにディハルドが戻ってきた。


「お待たせーー!ちーちゃんのはこれねー。アカシロ中学校の制服よ。カタログ見て作ったの!サイズはバッチリだと思うわよ。シドちゃんのはこれとこれねー中学生に混じっても大丈夫なように少し幼めにしてるけど、コーディネートは完璧なはずよ。」


「ありがとうございます。それはそうとハルさんはどこから制服を調達したんですか?」


学生でもない限り制服を手に入れるのは至難の技のように思える。シドはそんな疑問をディハルドにぶつけた。


「あらー?知らなかったかしら?私も能力者なのよ。布地と相性がよくってね。写真でも図でも一度見たらその洋服が作れちゃうの。今回はカタログを参考にさせてもらったわ。」


それはなんとも服屋になるために授かったような能力であるような気がした。そのような能力もあるのだなとシドは感心する。


「じゃあ、ちーちゃんはここ使ってね。シドちゃんはお店の方の試着室でいいかしら?」


「あ、はい。ありがたくお借りします。では先輩また後でです」


「ええ」


チュリッシェをその場に残しシドはディハルドに教えてもらった店内の試着室に向かった。店の中程にあったそれは、店内と同じ落ち着いた色あいでありながらもオシャレな雰囲気であった。


着替えるのにも十分な広さだ。あまり時間をかけず手早く着替える。用意してもらった服は白いシャツにグレーのカーディガン、黒色の細身のパンツだった。あまり目立たない色合いだがシドには驚くほどよく映えた。


「シドちゃーん。どうかしら?」


試着室の外からディハルドの声が聞こえた。


「はい。…どうでしょう」


「あらあら、バッチリじゃない。後は…」


そこで言葉を区切ったディハルドの手により髪を少し乱し気味に揃え、黒縁のだて眼鏡をかけたら完成だ。


「これで、OKね。ちーちゃんも終わったかしら?」


ディハルドと二人仕立て部屋に戻り、入り口で声をかけると中からチュリッシェの了承を得られたので、中に入る。


「やーーん、ちーちゃんかわいいー」


そこにいたチュリッシェはクリーム色のカーディガンに赤のリボン、黒のストライプスカートという出で立ちであった。髪の毛も制服に合わせ結んでおり、似合っているなとシドも思った。


「サイズもピッタリです。ハルさんありがとうございます。」


シドにしたようにチュリッシェの服を軽く直しているディハルドはスタイリストのようにスマートな立ち回りだった。彼がその出来映えに満足そうに微笑んだ。


「いーーえ。いいのよ、お仕事頑張ってね」


チュリッシェがシドの方に目をやる。一瞬だけ呆けたような表情をしたのは気のせいだろうか。すぐに平常通りの彼女に戻りこう告げた。


「流石ハルさん。なかなかあってるんじゃない?さっ、準備はできたわ、行きましょう」

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