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偽主  作者: シュカ
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ミコルの店

チュリッシェと共に学園外に出てから早十数分が過ぎた。現在地はプロトネの町にある大通りである。ここはたくさんのお店が連なっており人通りも多い。


時刻が夕方であることも手伝ってか学生や買い物中の若い女性などがひしめき合っている。人々の間を潜り抜けるようにしてチュリッシェはずんずん歩いていく。今まで二人ともが無言であったがその沈黙はシドによって破られた。彼はチュリッシェの小さな後ろ姿に声をかける。


「チュリッシェ先輩。これはどこへ向かっているのでしょうか。」


「もう少しで着くから話はそこで」


いささか緊張しながらの発言はバッサリと切り捨てられた。仕方がないので、また黙した状態で後を追う。


「ここよ。ここで服を買うの」


それから二、三分歩いたところでチュリッシェはようやく立ち止まった。どうやらここは服屋であるらしい。看板にはミコルの店と書いてありそれなりに広い店内に見える。


「簡単な依頼だから普段はあまり使わないんだけど、潜入調査だの依頼だから。私はともかくあんたの顔を知っているのがいると面倒だから変装するわよ」


「そういうことですか。わかりました」


小声かつ早口で説明をしてくれるチュリッシェ。そこまで必要なのかと思わなくもないが念には念をいれるべきだという方針には納得なので素直に頷いた。


「ここは生徒会が代々懇意にしているお店だから粗相のないようにね」


「はい」


先に店内に入っていくチュリッシェに続きシドも中に入っていった。店内は白と茶を基調としたシンプルで清潔感のあるデザインだ。


男女両方の洋服はもちろんのこと、靴やメガネ、サングラス、アクセサリー等ここの店ひとつで全身のコーディネートを出来る利便性を持っている。


「あらー、ちーちゃんじゃなーいの?お久しぶりーー!」


チュリッシェと二人店内を物色していると後ろの方から艶めかしい上がった。振り替えるとそこには店員と思わしき一人の男性が立っていた。


年の功は恐らく三十歳前後。身長は百八十を優に越えていそうな高さであり、それに見合うがっしりとした体つきであるが太っているではなくむしろだいぶ引き締まっているようだ。顔つきといえば凛々しく強面な印象を受ける。そんな彼を見てチュリッシェは笑顔を浮かべた。


「こんにちは。お久しぶりです。」


「ちょっとー、来るなら来るって言ってくれればいーのにー。最近あなた達ちーっとも顔出さないからー。拗ねちゃうとこだったわよー」


「あはは、すみません。なかなか急がしくって。」


その男性は見た目に似合わず高い声の持ち主だったため話だけを聞いていると微笑ましいガールズトークに思えるが、それを展開しているのは小柄なチュリッシェと大柄の男性である。思わずシドは呆気にとられてしまった。


「あららー?そっちの坊やはだぁれー?もしかしてちーちゃんのこれー?」


「違います!!ただの後輩です!!」


そんなお約束な会話をしたところで話は本題に移る。チュリッシェは一呼吸置きいくぶん落ち着いた声音で男性とシドにそれぞれ告げた。


「こっちは部活の後輩のシドです。シド、この人はここミコルの店の店主、ディハルド・ミコルさんよ。私達の部活の先輩でもあるわ」


部活の先輩ということは生徒会OBか。彼は生徒会の協力者だということなのか?シドは考えながらもディハルドに挨拶をする。


「シド・クローバードです。よろしくお願いします」


「シドちゃんね。よろしくー、私のことはハルって呼んでくれると嬉しいわ」


ちゃん付けで呼ばれたことにシドは若干ドキッとしたが、チュリッシェのことをちーちゃんと呼んでいることからそれは彼のキャラ故のことだと結論付ける。


「もしかしてクローバードって、おもちゃ会社の?」


「ええ、父の会社です」


それを告げるとディハルドの目は子供みたいにキラキラと輝いた。


「そうなのねー。私も兄弟もクローバード社のおもちゃにたくさんお世話になったのよ。当時お気に入りだったお人形はまだ家に置いているのよ」


「そうなんですね。ありがとうございます」


自社の製品を大人になっても大切にしてくれているというのは、すごく嬉しく思い、自然に笑顔になる。


「シドちゃんが会社を継ぐのよね?事件があって大変だろうけど、頑張りなさいよ?新作楽しみにしてるんだから。」


「はい、ご期待に添えるように頑張ります」


シドの答えにディハルドは満足そうに笑うと、本題を思い出したかのようにチュリッシェに問いかける。


「あらー、っていうことはあれなのー?今日は部活かしらー?」


「はい。そうなんです」


「んじゃあ、奥の方にいらっしゃいな。今日は早じまいして一通り揃えてあげるから。」


店の奥に続くドアを指で指し示しながら、ディハルドはウィンクわした。


「ありがとうございます。ほらシド、行くわよ」


丁寧なお辞儀を見せたチュリッシェ。シドは一瞬だけなんの事か考えてぼーっとしてしまった。チュリッシェに声をかけられはっとした。


「あっ、はい」


いささか戸惑いながらも前を行くディハルドとチュリッシェの後に続いて、店の奥に続くドアを潜った。




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