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偽主  作者: シュカ
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新学期

「シルヴィア、大丈夫か?」

 

 「うん、大丈夫だよ」

 

 気がつくとジェイドの運転する車はプロトネ学園の前に止まっており、シドが心配そうな顔をしていた。

 

 「ははは。シルヴィア嬢ちゃんには初めての学園生活になりやすからね。心配なこともありやすよ」

 

 「…それもそうだな。だが、大丈夫だ。僕がついているから問題ない」

 

 「ありがとう、兄さん」

 

 「お二人とも楽しんできてくだせぇ。行ってらっしゃいでさぁ」

 

 「行ってくる」


 「行ってきます」

 

 ジェイドに二人で手を振って学園の入り口に向かう。ちらほらと登校している生徒の中にも新入生がおり、シルヴィアの存在は目立たないですんだ。

 

 そんな中、シドが少し気にしたようにシルヴィアに問いかける。

 

 「シルヴィア、本当に大丈夫か?朝からぼーっとしていたようだが?」

 

 「うん、大丈夫だよ。この春休みのことを色々と思い出していただけ」

 

 「そうか。それならいいが…。生徒会のメンバー達はお前が今日から登校することを知っている。僕だけではなく、彼らも協力していたようだがしてくれると言っていた。なにも心配することはないからな」

 

 「あはは。だから、大丈夫だって。兄さんの方が心配しすぎだよ」

 

 「ちょっと目を離していた隙に、本当にたくましくなったな」 

 

 シドは意外そうに目を細めてシルヴィアの様子を見た。確かにあの事件が起こる前は自分で自ら行動することが苦手でシドに判断を任せてしまうことも多々あった。

 

 今はそういったことも少なく、自分で先頭に立って行動することも意見を言うことも出来るようになった。これはシドとして生活していたからこそ、得られた自分なのだとシルヴィアは思う。

 

 たくさんのものを失ったあの事件。そのせいで大胆な決断を下し、辛い日々を送ったことも自分に成長をもたらしてくれたのだと、今のシルヴィアには感じ取れていた。

 

 「また、ぼーっとしているな」

 

 「そんなことないよ。始業式前に生徒会室に寄ってもいいかな?」

 

 「ああ、そのために来たものだからな。皆に挨拶しておこう」

 

 今日は午前中が入学式で午後が始業式となる。生徒会メンバーは入学式の準備等ですでに学園に来ているはずだった。

 

 二人は昇降口で靴を履き替え、生徒会室に向かう。シルヴィアにとってはちょっと久しぶりの道だ。

 

 「やぁ、おはよう。二人とも元気であったか?」

 

 「えっ?キーツ先輩」

 

 生徒会室の会長席に座っていたのはキーツだった。この間、卒業式があり、無事卒業したと聞いていたのになぜ高等部にいるのだろうか。

 

 「プロトネ学園は新学期が始まった後で生徒会の引き継ぎを行うんですわ。正式な引き継ぎは午後になりますけど、新生徒会の皆の最初の仕事を見守るために、私とキーツ君も今日はこちらにこさせてもらいました」

 

 シルヴィアの疑問を晴らしてくれたのは同じく生徒会室に身を寄せていたユウリ先輩だった。キーツが生徒会室にいたことに驚いていたが、よくみれば二人とも制服ではなく私服を来ている。

 

 それはもう二人がプロトネ学園高等部の生徒ではなくなったことを明確に表していた。この間まで一緒に生徒会活動をしていたことを思いだし、少し寂しくなる。

 

 「お久しぶりです、キーツ先輩。ユウリ先輩。それに皆さん」

 

 そんなシルヴィアの気持ちを知ってか知らずかシドは冷静にその二人と皆に挨拶をする。

 

 「はい、おはようございます。それに久しぶりですわね、シルヴィアちゃん」

 

 ユウリは優しく微笑み、手の中の鍵の束をじゃらりと鳴らしてみせた。シルヴィアがシドとして学園に通っていたことは生徒会メンバーと校長のみが知っている秘密になっている。

 

 このたびシルヴィアが学園に通う手はずになった時も、その秘密は破るべきではないと皆の意見が合致したのだ。ユウリが能力を使ってくれたお陰で気がねなく話せる。

 

 「ユウリ先輩、ありがとうございます」

 

 「いいえ」

 

 優しく微笑むユウリだったが、近くからため息を吐く音が聞こえた。

 

 「相変わらずヒイラギ先輩はこいつに甘いな」

 

 「あら、そんなことないですよ?久しぶりにお会いするのですから、少しくらい気兼ねなくお話ししたいじゃありませんか」

 

 「そうそう。リャッカは堅苦しすぎるのよ」

 

 ため息を吐いたのはリャッカで、チュリッシェは携帯ゲーム機から目を離すことなく彼にもの申した。

 

 「お前も三年にもなってゲームしてんな。大丈夫かよ副会長」

 

 「あんたには言われたくないわね。堅物会長」

 

 言葉の押収を交わす二人ではあるが、その言葉には険がない。二人にとってはこれがコミュニケーションであるのだ。

 

 二年生の二人は今日から三年生となり、会長はリャッカ、副会長はチュリッシェが引き継ぐことになるようだ。

 

 「ふわぁ、あー、おはよう、シド君とシド君」

 

 「ティム。もう私は「シド君」じゃないって」

 

 「頼むから教室でそれをやってくれるなよ」

 

 開いた漫画を顔に被せて寝息をたてていたティムがぴょいっと飛び起きた。その顔には紛れもないいたずら心が浮かんでいた。

 

 「だーいじょぶだって。まちがいはしないけど、もし俺がシルヴィアちゃんをそう呼んだって、皆じょーだんだって思うよ。そんな慌てた反応してる方が危ないでしょ」

 

 ティムは楽しそうにけたけた笑う。予想していたとおり、二人揃ってティムにいじられるはめになってしまった。それを楽しいと思う自分もいるが。

 

 「シルヴィアちゃんは女子のせーふくなんだね」

 

 「まぁ、それはね」

 

 「それ着てるとあんまりシド君と似てる風ではないよね。あっ、俺の服貸そうか」

 

 そう言ってティムは制服のボタンに手をかける。シドがシルヴィアを庇うように前に出る。

 

 「そういう真似はやめてもらおうか

 

 「怒んないでよ、シド君。ほんとーにシスコンだね。貸すわけないでしょ。サイズあわなそーだし」

 

 何事もなかったようにボタンを閉め直したティム。サイズがあったら本当に貸す気になったのだろうかとシルヴィアは、ずれたことを考えていた。

 

 「あんたら、そんなんでやっていけんの。同じくクラスなんでしょ?」 

 

 携帯ゲーム機を置いたチュリッシェが頬杖をつき、猫のような相貌を細める。

 

 「そーだね。じゃあ今はこのくらいにしておくかな。仲良くしてよね、シルヴィアちゃん」

 

 「うん。お手柔らかにね」

 

 人懐っこい笑みを浮かべるティムにシルヴィアもにぱっと笑う。そんな二人を見てシドとリャッカは揃ってため息を吐いた。

 

 「あいつ、あんな感じだったか?前、ここに来ていたときより油断が過ぎる気がするぜ?」

 

 「ええ、以前は張りつめていたようですからね。それがなくなって良かったような、そうでないような」

 

 「なんにせよ、レレイムのおもちゃにされないように気を付けるこったな」

 

 「肝に命じます」

 

 笑いあっている二人に危うい感じを覚えたシド。同じことを思ったのかリャッカも頭痛を堪えるような顔をしている。

 

 「皆が元気そうで本当に何よりだ」

 

 そんな彼らを見てキーツはへらっと笑った。傍らで微笑むユウリと目線を交わす。

 

 「そういえば、新生徒会のメンバーはどうなるんですか?」

 

 ティムと談笑をしていたシルヴィアは来客用のソファに腰かけつつ問いかける。

 

 「会長がリャッカ、副会長が私なのは、ほぼ確定ね。後はティムとシドはどうするの?」

 

 「僕は続けようと思いますよ」

 

 「んー、俺もかな。ここにいると面白いこともあるしね」

 

 「そう。それじゃあ二人もほぼ確定かしら」

 

 チュリッシェは首を傾げたシルヴィアに説明をする。プロトネ学園の生徒会は会長、副会長の引き継ぎの後、その他のメンバーが継続の意思を表示する。そこに生徒の過半数の反対がなければ、そのメンバーは生徒会を継続出来る。

 

 立候補者自体が珍しいため、過半数の反対は滅多に起こらないらしい。そのため継続の意思を表示したらほぼ確定するのが例年のようだ。逆にメンバーが辞退したときの方が大変らしいのだ。

 

 「後は新一年から誰が来るかだな。濃厚なのは中等部の生徒会だったやつだ」

 

 「そうね。これといって問題なければ、エマとヨシュアが入ってくるでしょうね」

 

 中等部の生徒会メンバーとはプロトネ祭の時に顔見知りになった。二人とも高等部への進学を無事に決めていたらしく、シルヴィアは嬉しく思った。

 

 「じゃあ、その六人で新生徒会ということになるんですね。私もたまには遊びに来させてください」

 

 シルヴィアはそれを羨ましく思いはしなかった。元々、生徒会はシドの居場所だったのだ。あるべきところに戻ったと考えていた。

 

 それに生徒会じゃなくなったって、このメンバーとの絆が消えるわけではない。シルヴィア・クローバードとしての彼女を見てくれた生徒会メンバーだからこそ、シルヴィアはそう信じていた。

 

 だから彼女は満足していた。だが、そんなシルヴィアにリャッカから声がかかる。

 

 「ああ、お前の言うとおりだ。だが、俺から一つ提案したいことがある」

 

 

  

 

 

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