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偽主  作者: シュカ
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真実へ

「…そんなことってあるんだねぇ。お金持ちの家ってどこもそんな感じなの?」

 

 キョロキョロと周りを見渡したティムがみんなの心を代表するように言った。同じ子供というのに片方を影武者として育て、片方は時が来るまで閉じ込めて育てる。

 

 異様なことだと声をあげたくても、その原因であるクローバード夫妻はもういない。

 

 「よくある話ではないさ。キーツ先輩やユウリ先輩の家ではそんなことされてないでしょ?」

 

 「ああ、家は兄が継いだからな」

 

 「私の家では父が現役ですので、まだどうなるか分かりませんわ。ただ、どこの家でも多少のいざこざはあるでしょう」

 

 「ええ、たまたま家はそうなっただけです」

 

 生徒会メンバーとシドが話している光景にシルヴィアは黙ってしまった。次になんて言葉をかけるか考えるために。シドもまた、そんなシルヴィアの様子には気づいていた。

 

 「アルベルトはあの日に兄さんから聞いたことで、さっきの影武者の話を知ったようだった。そうだよね、アルベルト」

 

 アルベルトはまたシドの方を見る。シドは片手をあげてそれに反応してから「いちいち許可はいらない。この場では自由に発言しろ」とアルベルトに命じた。

 

 「左様でございます。当時は私も驚くばかりでした」

 

 「そう。それなら兄さんはいつからそのことに気づいていたの?少なくとも事件の前には知っていたと思うんだけど」

 

 「なぜそう思う?」

 

 「さっき兄さんは影武者であることの詳しい話をした。襲われて乱闘状態になった現場で知った話にしては事情に詳しすぎる」

 

 「なるほどね」

 

 アルベルトの記憶では、当然アルベルトの知っていることしか見ることはできない。兄さんの知っていることも知る必要がある。

 

 「分かった、話してあげるよ。シルヴィア。能力を使いなよ。命を落としたと偽っていた僕が本当の事を言っているかお前なら分かるだろう?」

 

 ふいにシドが提案した。それは考えなかったわけではない。だけど今回は…

 

 「悪いけど、今回は能力を使う気はないよ」

 

 「ああ、リャッカ先輩がいるからか?リャッカ先輩は消したい能力を自分で選べるから問題ないですよね?」

 

 「まあな。だけどこいつが言ってんのはそういうかとじゃねーだろ」

 

 ここに来てリャッカ先輩の体質について思わぬ情報が増えた。任意の能力を消すことが出来るならそれはもう体質というより、そういう能力なのではないだろうか。

 

 最も、それが体質であることはリャッカ先輩自身が認めているし、今はそこに突っかかっている時ではない。

 

 「リャッカ先輩は関係ないよ。これは私の意思だ」

 

 兄さんは本当の事を話す。そう信じるからこそ、自分の能力が今回必要ないとシルヴィアは思っていた。

 

 「だけどシルヴィア。アルベルトの件で身近な人間が嘘をつかないとは限らないと分かっただろ?」

 

 「うん」

 

 「だったら能力を使うべきだ。僕が嘘をつかないか見極めるために」

 

 「今回は使わないよ。アルベルトのことがあったからこそ、私は信じる大切さも知ったんだ」

 

 お互い一歩も引かない状況になってしまった。兄妹喧嘩が始りそうな雰囲気に話題に出されたアルベルトはいたたまれない様子になった。

 

 「シルヴィアちゃんも中々ごーじょーだね」

 

 「ティム!?」

 

 そんな中、のほほんとした声と共にティムがポンッとシルヴィアの肩を叩いた。キーツが気づいて立ち上がりかける。

 

 「だいじょーぶ。二人とも譲る気なさそーだから俺が代わりに使ったげるだけだよ」

 

 「えっ?」

 

 「シルヴィアちゃんののーりょく。ちょっと貸してもらうから。シド君もそれでいーでしょ?」

 

 シルヴィアの方を見ながら言った後でティムはお気楽な声をあげる。ティムはコピーの能力は触れることで発動する。シルヴィアに触れて能力をコピーしたのにキーツは気づいたのだった。

 

 「…まぁいいか」

 

 「なーんか、煮えきらないね。シド君もシルヴィアちゃんも信じたいからのーりょくを使ってほしーし使いたくないんでしょ?ほーんと双子って似てんね」

 

 ケタケタと笑い声をあげるティム。シドとシルヴィアは、はっとお互いの顔を見る。

 

 「いいじゃないですか。ティム君が使ってくれるなら。シド君も安心してお話しできますし、シルヴィアちゃんも安心して聞けるでしょう?」

 

 ユウリが穏やかに頬笑む。顔を見合わせた二人は頷きあう。

 

 「分かりました。ティム頼むよ」

 

 「ティム。能力を使っても私には能力で知ったことは黙っててくれる?」

 

 「うん。シルヴィアちゃんがそーしてほしーならそーするから」

 

 「分かった。ありがとう」

 

 シルヴィアが安心した顔をしたのを見てシドはこれで良かったと思う。そして改まって口を開いた。

 

 「僕がシルヴィアの影武者として育てられたことを知ったのは高校に入学する少し前のことだった」

 

 ごくりとシルヴィアは息を飲む。事件があった日の前日。シドはシルヴィアに向かい、自分の卒業後は外に出られると言った。その時にはすでに自分が影武者であると知っていたのだ。

 

 「中等部から高等部に移る前の春休み。僕は父さんと母さんに呼び出された。話されたのが、高等部へ進学を受けて、これから任せる仕事を増やすということとシルヴィアのことだった。シルヴィア覚えてるか?子供の頃、僕とお前が入れ替わった日のことを」

 

 「もちろん覚えてるよ。私達が十二才の頃。一度だけ兄さんが私と入れ替わってくれて、私を外に出してくれたことがあるんです」

 

 シルヴィアは返事をした後、その事を知らない生徒会メンバーに説明をした。

 

 「そう、その日だ。父さんはあの日にシルヴィアを跡継ぎにすることを決めたようだ。それまでは一応僕が候補ではあったらしい」

 

 「えっ、父さんはあの日の事を知っていたの?」

 

 「僕も誤魔化しきれたと思ってたよ。だけどあの父さんは僕らが入れ替わったのを知っていた。知ってて泳がせて、緊急で仕事ができたということでシルヴィアを試したんだ」

 

 「兄さんと入れ替わった後、メイドさんが来て、私が対応したあの仕事のこと?」

 

 「ああそうだ。その仕事の結果、ろくに仕事についての教育を受けさせていなかったのに見事に仕事をこなしたシルヴィアに父さんは驚いたけど喜んだ。能力のことも、それを有効に使えるなら上出来だとか言ってたな」

 

 シドが黒い笑みを浮かべる。能力を理由にシルヴィアを閉じ込めていたのに、その言いぐさはなんだと思っていたらしい。

 

 「僕が高等部を卒業するのに合わせ、今度はシルヴィアと僕を入れ換えるつもりだったみたいだ。クローバード夫妻には子供は一人しかいないことにしちゃったからね。だから、僕が高等部を卒業後、シルヴィアは外に出られるというのは本当だったけど、僕のそばで働くていうのは嘘になるな」

 

 「兄さん…」

 

 「そんな父さんの企みが一部の使用人達にバレた。それだけの優秀さを秘めた子供が閉じ込められていることを知った。それならば邪魔者を消してその子供を助け、自分達の地位をあげてもらう。それが彼ら反逆者の考えだった」

 

 シルヴィアは思わずシドのことを呼んだ。生徒会メンバーは口を挟まない。みんなは知らない情報も出ているから話を整理しているのかもしれなかった。もしくは口を挟んではいけないと思ったのかもしれない。

 

 「兄さん…ごめんなさい」

 

 その瞳に浮かんだ涙は重力に抗うことなく流れ出した。閉じ込められていた私と違って、兄さんは外で一人で苦しんでいたのかもしれない。それに気づかずにいた自分がひどく恥ずかしい。

 

 「シルヴィアは悪くない!お前も長い時間閉じ込められて苦しかったんだ。僕はシルヴィアが悪いなんて思ったことがない」

 

 「兄さん…でも私は兄さんに頼ってばかりで…兄さんの苦しみに気づかなかった」

 

 「妹が兄に頼るのは当然だ。気づかないのは当たり前だ。僕が気づいて欲しくなかったから隠してたんだ」

 

 泣き出したシルヴィアにシドはずいぶん慌てた様子を見せた。アルベルトも苦しげな顔をしている。

 

 当事者三人がどうにも収集がつかなくなりそうになった時声をあげたのはキーツである。

 

 「シドもシルヴィアも二人ともが苦労したのだ。お前達が育ってきた環境がそうだったせいでな。どちらも自分を責めることはない。だが、真実をつまびらやかにすることで、互いの気持ちが晴れることもあるだろう」

 

 へらっとした笑顔のキーツの言葉がすとんと胸に落ちた。シルヴィアは乱暴に涙をぬぐう。

 

 「兄さん続きを話して」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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