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偽主  作者: シュカ
132/141

真実へ

シドは生徒会メンバーと一緒にクローバード家に戻ってきていた。すべての真実をつまびらやかにするときがついにやって来たのだ。

 

 「あら、お早いお帰りでしたね。皆様もいらっしゃいませ」

 

 「ああ帰った。これから皆と一緒に作業をする予定だ。僕の部屋は覗かないでくれ。ナタリーとジェイドにも伝えてほしい」

 

 「かしこまりました。最初にお茶をお持ちいたしますね」


 「ありがとう」

 

 クローバード家の玄関で出迎えてくれたのはヘザーだ。シドの要望を快く受けてくれた。彼女がお茶を運んでくれたら行動の開始だ。

 

 生徒会メンバーがヘザーに挨拶する。それを待ってシドは皆を自室に案内した。

 

 「これからどうするのだ?」

 

 部屋に適当に座ってもらい、ヘザーがすぐに用意してくれたお茶を飲みながらキーツはシドに伺う。

 

 「アルベルトに会いに行きます。場所は分かっているので」

 

 シドが答えるとリャッカが反応した。

 

 「この屋敷の中か?」

 

 「そうです。詳しくはお茶を飲み終えたらにしましょう。せっかくヘザーが用意してくれたので」

 

 シドの言葉に皆は味わいながらも急いでお茶とお菓子を口につめた。それが終わるとシドは立ち上がり、部屋の鍵を内側からかける。

 

 「この辺りだったな」

 

 部屋のちょうどまん中の辺りでシドはしゃがみこむ。そこに家具は置いていない。カーペットがあるばかりだ。何かあると察したティムがワクワクした顔でシドの横を陣取った。

 

 キーツとユウリは二人の右側で、チュリッシェとリャッカは左側で立っている。皆何をするんだ?という顔をしている。

 

 慎重にカーペットに指を這わせていくと、途中で指に引っ掛かりを覚えた。ここだ、とシドはカーペットに十指で爪を立てる。するとその部分のカーペットが切り取られたように持ち上がる。

 

 大きさはだいたい1メートル四方だ。このカーペットはあらかじめ切り取ったものをここにはめていただけなので割りと簡単にとれる。そうしているのはこの下にあったものを隠すためだ。

 

 カーペットを退けると床が見えた。その床は木の材質だった。手をかけられるように窪みがついている。

 

 「アルベルト達はこの下です」

 

 「えっ、それじゃあ。これはドア?」

 

 「ずいぶんと小さなドアですわね」

 

 チュリッシェが前のめりに聞いてくる。ユウリも興味深げだ。ティムはもう待ちきれないと、窪みに手をかけていた。

 

 「この下は屋敷の地下と繋がっています。僕がずっと暮らしていた場所です」

 

 「シドが暮らしていた場所か」

 

 「ええ、その入り口はここを含めて何ヵ所かありますが、今の使用人達はアルベルト以外知りません。クローバード家にこんな場所があるということを内緒にしてもらえると嬉しいですね」

 

 シドはそう言って苦笑を浮かべる。地下にそんなところがあるのを知れるのは風聞が悪い。皆は内緒にしてくれるとは思うから冗談めかしていってみた。

 

 「内緒にするから早くいこーよ」

 

 ティムの声が少しとがっている。もう待てないという彼の気持ちが伝わってくる。

 

 もう少し心の準備をしたかったんだがな。普通よりやや明るく振る舞いながらもシドは不安を感じていた。ヘザーのお茶も断ろうと思えば断れたのだが、気持ちを落ち着けるためにもお願いした。今のやり取りも時間稼ぎにすぎない。

 

 「そうだな。行こう」

 

 大丈夫だ。皆が一緒に来てくれるから。シドの言葉を聞いた瞬間、ティムがドアを開ける。

 

 現れたのは地下に続く階段。埃の臭いにシドは咳き込んだ。ここの通路はしばらく使っていない。

 

 兄のシドがまだこの部屋を使っていた時が最後だ。それは埃っぽくもなるだろう。

 

 生徒会のメンバーの顔を見る。地下に続く道を見て、嫌な顔をするものはいなかった。

 

 先に行きそうなティムを抑え、シドは先頭にたって階段を降りていく。すぐ後ろにティム。その後ろはユウリ、チュリッシェ、キーツと続く。一番後ろを歩くのはリャッカだ。

 

 「思ったより暗くないねー。地下って暗いイメージじゃん」

 

 「魔道具が埋め込まれているからな。壁全体がほんのり明るくなってるだろ?」

 

 「ほんとだー」

 

 地下に続く階段は思っているよりも長い。転ばないように壁に手を当てて、慎重に進む。下まで行くには二、三分かかった。

 

 「すごいわね、あんた。こんなところで生活してたの?」

 

 下までたどり着くとそこには開けた空間があった。右と左に通路があり、ドアが何ヵ所かある。壁には階段のところと同じ魔道具が埋め込まれているが全体的に薄暗い。

 

 地上のクローバード家とはずいぶん印象が違って見える。

 

 「暮らしていればなんとも思いませんでしたよ。ただ、僕が生活してたのはあの部屋です。滅多なことがない限りはそこから出てもいませんでした」

 

 「んー、シド君?そこは照れるとこじゃないな。皆がドン引きだよ」

 

 リャッカは物珍しそうに周りを見ていたが、他三人は呆気に取られていた。あのキーツさえも驚いた顔をしており、シドは慌てて付け加える。

  

 「ああ、ごめん。あまり気にしないでください」

 

 「あんた、そういうとこは直しなさいよ」

 

 「善処します」

 

 久しぶりにチュリッシェからジト目で見られた。苦笑をしながら返事をすると、横からキーツに肩に手を置かれる。

 

 「君はこのような環境で育ったから、あまり感ずるところはないのかもしれない。あるいは分かっていて、そのように振る舞ってるのかもしれない。どちらにせよ、この環境で育ったという経歴は異常なのだ」

 

 他の者には聞こえないように耳元で囁くように言われたため表情は見えない。だけど、その声はいつにも増して柔らかかった。

 

 僕のことをシドと呼ばなかったキーツ先輩。シドとしての僕だけでなくシルヴィアとしての自分に言っていると分かる。

 

 「俺達は短い間だったが、君と共に活動し事情も分かっている。今からあまり気を張るな。ちゃんと見届けさせてもらうからな」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 「うむ、では行こう」

 

 肩から手を離したキーツはへらっと笑って皆に言った。気を使って距離を置いてくれていた皆がそばに集まる。

 

 「この部屋です」

 

 階段から一番離れた一室。ここがつい最近まで暮らしていた部屋だ。シドはドアノブに手をかける。

 

 「行きます」

 

 ドアノブは特に抵抗もなく動き、ドアを軽く押すと中の様子が分かった。

 

 「やっぱりここにいたのか。アルベルト」

 

 「そろそろ来る頃合いかと思っておりました」

 

 予想通りにアルベルトは部屋の中にいた。丁寧に掃除がされている室内。家具は当時使っていたそのままになっている。

 

 そこでアルベルトはお茶の用意をしていた。

 

 「待っていた甲斐がございましたね」

 

 アルベルトは扉の影に向かって声をかけた。

 

 「「「「「シド!?」」」」」

 

 生徒会メンバーが叫ぶ。特に僕に何かあったわけではない。扉の影に隠れていた人物が姿を表したからだ。

 

 「皆さん、お久しぶりです」

 

 グレーの髪にグレーの瞳。記憶の中の彼より少し身長は伸びているが、自分とそっくりな顔立ち。間違いない。…生きていたんだ。

 

 「妹がお世話になってありがとうございました。まずは中に入ってください」

 

 アルベルトと共に部屋にいたのは、シルヴィアの兄シド・クローバード。その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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