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偽主  作者: シュカ
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クローバード家での話し合い

シドの復学から一夜明けた日の放課後。生徒会メンバーである、キーツ、ユウリ、チュリッシェ、ティムの四人はクローバード家を訪ねていた。


シドが放課後に生徒会室に向かったその足で昨日アルベルトの話通り詳しい話は家でしたい旨を伝えたのだ。


「ユウリ先輩にご負担をかけたくありませんし、家なら情報流失も防げますしセキュリティーの面でも安心していただけます。話をするならうってつけかと。」


「異論ないぞ。話が長時間におよびそうだからな。ありがたい申し出だ。招待感謝する。」


一悶着はあったものの生徒会長の一声で一同の来訪は決定し、シドと共にジェイドが運転する車に乗り屋敷まで案内されていた。


「皆様、本日はようこそお越しくださいました。クローバード家当主、シド・クローバード様に仕える執事のアルベルトと申します」


全員に紅茶と菓子を配るとアルベルトは生徒会メンバーに向かい挨拶をし、シドが座るソファーの斜め後ろに控えた。

テーブルを挟み向かい側。同じデザインのソファーに生徒会のメンバーが座った。左からユウリ、キーツ、チュリッシェ、ティムの順である。


「こちらこそお招きいただき感謝申し上げる。その様子だと執事殿も事情を知っているとご察しするがいかがだろうか?」


四人を代表して答えたのはやはりキーツだった。彼の確信めいた問いにアルベルトは薄い微笑みを浮かべたまま答えた。


「そう通りでございます。私は坊っちゃんに関する全ての事情を把握しておりますのでご安心ください。それでは私は席を外しますがどうぞ、ごゆるりとお過ごしください」


「いや、出来れば執事殿にも同席していただきたいのだが。聞きたいこともあるからな」


部屋を出ようとするアルベルトをキーツは引き留めた。他の三人には特に目立った動きはない。今日もメインで話すのはキーツの役割なのだろう。ティムなんかは早くもキョロキョロと室内を見渡して話半分に聞いてる様子だった。


「坊っちゃん、どうされますか?」


「ここにいろ」


「かしこまりました」


引き留められたアルベルトはシドに伺いをたて、シドは少し考えそして了承した。


「さて、早速昨日の申し出の件についてだ。あの後チュリッシェ達に調べを進めてもらったところ、昨日の君の話に嘘だと思われる点は見つからなかった。約束通り今日からは生徒会メンバーのシド・クローバードとして活動してもらおう。」


「ありがとうございます」


笑ってそう言ったキーツにシドは内心で安堵していた。


「だが、嘘だと思われる点はなかったものの隠していることも多そうだな。今日はその辺りをもっと詳しく教えてほしいのだ。よろしくお願いするぞ」


「はい、こちらこそ」


シドはキーツと会話をしながらも、それとなくチュリッシェの方を見る。彼女はブスッとした不機嫌そうな顔つきだったがキーツの言葉に口を挟むことはなかった。


「それでは、これから活動を共にするためにももう少し情報交換をしようと思うのだが…」


「その前に自己紹介から初めてはどうでしょう」


キーツは自分の言葉を遮った相手を見る。そこには、いたずらっぽく笑うユウリの姿があった。


「私たちは昨日始めて会った仲です。彼女がシド君として生活をするために私たちのことを調べてはいるのでしょうけど、初めましての相手と親交を深めるには、昨日、彼女がしてくれたようにやはり自己紹介からするべきでは?せっかくゆっくり話す時間もあることですし」


昨日はキーツに全てを任せ静閑に徹していたユウリがこのような主張をするのは正直シドには意外だった。昨日は能力に集中していたために発言を控えていただけで本質はもっと主体的な人なのかもしれないなと思った。


「うむ。それもそうか。君もそれでいいだろうか?」


前半はユウリに向けて後半はシドに向けての言葉だったので、それには頷くことで返事にした。


「では、まずはオレからだな。俺はキーツ・ラドウィンだ。生徒会会長をしていて学年は三年生だ。能力は持っていないが、ちょっとばかし記憶力に自信があるぞ。これからよろしく頼む!」


へらへらとした顔で話すキーツだが、その目の奥には油断できない気にさせる何かを感じる。


「次は私の番ですね。ユウリ・ヒイラギと申します。一応生徒会副会長という立場です。会長と同じく三年生で能力はご存じの通り空間の支配ですわ。疲れるのであまり多用はしたくないのですけどねぇ。よろしくお願いいたしますわ。」


頬に手をあててにこりとするユウリ。思わず見とれてしまいそうになり、慌てて小さく頭を下げた。


「……チュリッシェ・ユースフォルト。生徒会書記で二年生。能力はない」


仏頂面で必要最小限の情報を淡々と話すチュリッシェ。それでも自己紹介してくれたということはキーツの決定事項に反論する気はないようだ。無論、だからと言って納得しているわけもないだろうが仕方ない。


「チュリッシェ先輩は能力はないけど、コンピューターの扱いが天才的にすごいんだよね。だから、情報戦担当なんだよ。さてと俺のじこしょーかいだよね。俺はティム・レレイム。一年でシド君の隣のクラスだよ。生徒会では庶務ね。プロトネ学園では一年の間は庶務の役目につくのが決まりだから、シド君も同じだよ。んで、能力なんだけど知ってるだろうし俺のは説明がめんどいから今度ね。そのうち見る機会も出てくるでしょ。とりあえず戦闘に向きな能力って言っとこっか。」


チュリッシェの自己紹介の補足から始まり、自身のこともペラペラと話したティム。彼の目には好奇心の色が見え隠れしていた。


「生徒会には後一人メンバーがいるのだが、そいつは事情があって不定期に活動をしているんだ。君のことは話しておくがそれでよいな?」


「ええ、会長にお任せします」


「奴についてもすでに調査済みであるのだろうな。すまない、後のものには君のことを話さないと約束する。他に君の事情を知っているものはいるのか?」


「ありがとうございます。他に事情を知っているものですか…」


「何人か部分的にお話ししたものはいますが、僕がシドではなくシルヴィアだという事実は僕とこのアルベルトしか知り得ていません。なので、全ての事情を知っているのはここにいる皆さんのみです」


シドはひとりひとりの顔を見渡した。


「この屋敷にはアルベルトの他にも使用人がいますが、彼らは僕の事情を知りませんので、運転手のジェイドに言いつけて街に買い出しに向かってます。」


ジェイドにはあらかじめ生徒会メンバーを屋敷まで送ってもらった後、ナタリーとヘザーを連れて買い出しに向かうように伝えていた。朝に、ヘザーが夕飯に使う食材が足りなくなりそうだと言っていたので、ちょうどよかった。


「そうか。では、改めて君のことを聞かせてもらおうか。自己紹介は昨日聞いたから、こちらから質問させてもらおう。まず君は何か能力があるのか?」


キーツがシドに話を促すと他の三人もシドに注目した。一呼吸置いて話し出す。


「以前のシドには能力がありませんでしたが、僕にはあります。」


「それはどんなものだ?」


サヒトナの国では能力持ちは国に自分の能力を申告しなくてはいけない。それは事故防止やトラブルの予防に必要なことだからだ。


全国民は所属する街の役場にそれぞれ自分の台帳があり、そこに能力も登録されている。後天的に能力をもった場合にも能力を国に申告する必要がある。シドは現在台帳には能力なしで登録されている。


それとは別に学生の場合は通っている学園にも申告することになっているのだ。生徒会長としての立場からキーツは聞いているのだろう。それを理解してシドは答える。


「僕は人の感情の起伏を読み取る能力を持っています。一番得意としているのは、嘘を見抜くことです。」


「あはっ。シド君、よりにもよってそんな能力持ってんの?嘘つきなのは誰だよ」


間髪いれずに笑い声をあげ、いかにも楽しそうにティムは言う。その反応は何となく予想をしていたので苦笑いを一つうかべた。


「なるほどな。どうりで君は我々の話すことに疑いを持つ様子がないわけだな。ユウリが能力を使った時も確認をしなかったし、俺が君の用件を飲むと言った時もすんなりそれを受け入れた様子だったからな。普通はもっと慎重になるところだが、そんな能力を持っていたのならば確認する必要もないだろう」


やはりキーツは持ち前の観察眼を発揮し昨日の自分を見定めていたということか。本当に油断ならない御仁だ。


「執事殿にも質問をしてもよいか?」


「私にですか?」


「ああ、構わないだろうか?」


急に話の矛先を向けられたアルベルトはシドの方をちらっと確認する。それが許可を求めるように見えたのでキーツの問いにはシドが答えた。


「ええ、構わないですよ。何でも聞いてください」


にこりとして答えるとアルベルトが上品に頷いた。キーツが口を開く。


「先程、執事殿は彼の事情を知っていると話していたが、この屋敷にいる他のものは彼の事情を知らないと言うことだったな?」


「作用でございます」


「では、執事殿はなぜその事情を知ることになったのだ?もともと彼は女性として生活をしていたのだろう。だとしたら、彼には執事ではなく侍女がついていたはずだ。その侍女を飛ばして執事であるアルベルト殿に話が伝わると言うのは考えにくいのだが。」


その質問は想定内だった。 どこから話が始まっていたとしてもいずれは、この話に行き着くであろうことは昨日のアルベルトとの話で予想はしていた。


そして、その話が出たときには自分が話そうとシドは心に決めていた。そんな気持ちを汲んでか、アルベルトはシドに話の矛先を向けた。


「それは、我が主からお話いたしましょう」

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