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偽主  作者: シュカ
122/141

視察

「では、行こう」

 

 会議終了後、これから視察に向かうザニエジ、エムルヒル、シャムイ、ニーチャルニは会議室に残っていた。

 

 アルベルトが手に隠すように通信用の魔道具を持っている。会議が終わってからセス達に連絡を取ってくれていたのだ。彼が頷いたのを見てシドは発言した。

 

 「あの社長。行くって言ってもどうやってですか?」

 

 ニーチャルニが壁に寄りかかった姿勢で周りを見ながら発言する。シドは問題ないと彼と皆に向けて手を振った。

 

 「迎えを呼んでいるので心配ない。すぐに来るだろう」

 

 「迎え…ですか?」

 

 訝しげに眉を潜めたのはエムルヒルだ。彼はさっきまで彼の部下とやり取りしていた。手に持つ魔道具を大事そうにしまう。シャムイは目を閉じている。眠っているように座ったままびくともしない。ザニエジは苛ただし気にしながらも資料に目を通していた。

 

 「ああ、来たようだ」

 

 会議室の一角にキラキラとした光が現れる。アイヴァーが来たのだ。アルベルトが魔道具で連絡を取り迎えに来るように頼んでいた。

 

 その事実と彼の能力を知っているシドは落ち着いたものだが、重鎮達は警戒するようにその光から距離をとった。

 

 「何者だ!」

 

 声をあげたのはザニエジだったが、他の皆も同じように思っている。眠っているのではないかと思っていたシャムイでさえも目を開けていた。その光が人の形をとりアイヴァーが現れたことでシドは彼を皆に紹介する。

 

 「彼はアイヴァーだ。レーヴンヴァイスの一人として活動している。今日は視察に行くために迎えに来てもらった」

 

 「アイヴァーと申します。よろしくお願いします」

 

 ピチッとしたスーツに身を包んだアイヴァーが折り目正しく挨拶をしたことで重鎮達の警戒が少し解けた。

 

 「アイヴァー、こちらが今回の視察に向かう者達だ。よろしく頼む」

 

 「かしこまりました。みなさん、私の周りに集まってください。レーヴンヴァイス代表者のもとにご案内いたします」

 

 「というわけだ。皆行くぞ」

 

 アイヴァーの言葉に困惑した一同。意外なことに最初に近くに来たのはシャムイだった。

 

 「………」

 

 彼の早くしろといわんばかりの視線に他の皆も動き出す。

 

 「では、行きます」

 

 そのとたん視界がぐにゃりと動き一同は見慣れない場所に立っていた。そこがセス達の屋敷の中の一室だということはシドとアルベルトにしか分からない。

 

 「瞬間移動の能力ってとこか?便利なもんだな」

 

 ニーチャルニがニヤリとアイヴァーを見た。アイヴァーはその視線に頭を下げるのみにとどまる。移動の役目を終えた彼は一歩下がった位置につく。

 

 他の者もアイヴァーの能力には驚いていたようだったが、それよりも部屋で待ち受けていた人物に注目していた。

 

 「ようこそおいでくださいました。レーヴンヴァイス代表のセスと申します。こちらは副代表のアリアです。本日はよろしくお願いします。」

 

 アイヴァーの能力でやって来た一同を迎えたのはセスとアリアだった。セスはアイヴァーと同じようなスーツを着用している。アリアもセス達のスーツのスカートバージョンを着用しており凛とした姿に見える。

 

 「なんだ、まだ若造ではないか」

 

 値踏みをするようにセス達を見ていたザニエジが悪態をつく。

 

 「若輩者ですが、クローバード社のために尽力をつくす所存です」

 

 セスは嫌な顔ひとつもせずにさらりとその言葉を流し笑顔で返した。エムルヒルが「ふむ」と呟く。

 

 「セス、彼らはクローバード社の重鎮として社につくしてくれてる者達だ。重鎮は八名いるが今日はこの四名が視察をする」

 

 「かしこまりました」

 

 「社長、彼らに挨拶をしてから視察に参りましょう」

 

 そう提案をしたのはエムルヒルだ。柔和な笑みを浮かべている。

 

 「ああ、そうだな」

 

 シドが許可するとエムルヒルを筆頭に皆が挨拶をした。腹に一物抱えたものもいるが挨拶はしっかり行ってくれた。シャムイは相変わらず口を開かないので代わりに紹介することとなったが、つかみはまずまずだろう。

 

 「それではご案内いたします」

 

 「アルベルト、お前は最後尾についていてくれ」

 

 「かしこまりました」

 

 セスを先頭に部屋を出る時、シドはアルベルトにそう指示を出した。なにか起こるとは考えがたいが少しだけ用心するべきだと感じたのだ。

 

 「こちらの部屋に子供達を集めてその様子を確認しています」

 

 セスに案内された部屋は最初の場所から二部屋先の所だった。中には五才から八才くらいの子供達が何人かおり、おもちゃで遊んでいた。ネジキ達顔見知りの子供はいない。セスが配慮したのだろう。

 

 大人も三人いて子供達が遊ぶ様子を見て何か記入していたり、一緒に遊んでいたりしている。シド達が入ってくると子供達はびっくりしたようにおもちゃで遊ぶ手を止めた。

 

 「みんな驚かせてごめんね。ここにいるのはそのおもちゃを作った人達なんだ。みんなが楽しんでくれているか気になって来てくれたんだよ」

 

 セスが子供達にそう説明すると、彼らは子供特有の好奇心に満ちた目で大人達を見上げた。

 

 「少しの間だけど僕達とも一緒に遊んでくれるかな?」

 

 シドの問いかけに子供達はにぱっと笑った。

 

 「いいよー!」

 

 「遊ぼー」

 

 「ありがとう」

 

 シドも子供達に向けて笑顔を見せる。それから固まったように動けないでいた大人達に声をかけた。

 

 「子供達の生の声を聞くチャンスであり、レーヴンヴァイスの働きを見るチャンスである。実際に子供達とふれあってみてくれ」

 

 子供達には聞こえない小さな声で言うと、それには重鎮達も異論はなかったようだ。子供達の輪の中に入っていき腰を屈めた。

 

 「大丈夫でしょうか。ご不満を持っている方もいらっしゃったようですが」

 

 入口付近で様子を見ているシド達にセスは心配そうな表情を見せた。今まではりつめていたものが少しとれたように見える。

 

 「ああ、子供達にたいしては問題ないさ。こんな仕事をしている者達だ。子供の扱いには慣れている」

 

 シドは重鎮達の様子を見る。シドの言葉通り重鎮達が子供達と打ち解けているのが見てとれて、セスは方の力を抜いた。

 

 「急に視察になったのに見事な対応だ」

 

 「会議後に視察になることはアルベルトさんより聞いておりましたから。心配りありがとうございます」

 

 重鎮達や子供達に聞かれないように二人は小声で言葉を交わす。アルベルトは一歩控えた位置で部屋の全体を見ているようだった。

 

 「問題なさそうですね」

 

 「そうだな」

 

 アルベルトの意見にシドは賛成する。贔屓目なしにレーヴンヴァイスは予想以上に機能している。この短時間でよくここまで整えたものだ。

 

 部署としての運営に問題はない。問題があるとしたら、この後だ。シドはこの後セスに校長との賭けのことを話すことにしていた。彼の父や弟の現在も話す予定なのだ、レーヴンヴァイスはこのまま運営の予定だが、真実を聞いたセスがどう判断するのかは彼次第だ。

 

 この先のことを考えると少しだけ気が重くなる。

 

 「シド様、そろそろです」

 

 アルベルトがシドに声をかける。

 

 「皆、そろそろ移動の時間だ」

 

 全体に聞こえるように声を張り上げる。重鎮達はそれぞれ子供達に別れの挨拶をして戻ってきた。意外にも一番人気だったのはシャムイのようだ。子供達に周りを囲まれている。

 

 「またねー」

 

 子供達の元気な声に答えながら一同はセスの案内で屋敷の散策を続けた。

 

 「これで、すべて終了です。本日はありがとうございます」

 

 活動の様子を見終わり一同は最初に到着したときの部屋に集まっていた。

 

 「今日はこれでおしまいだ、視察については戻ってからまとめていてくれ。他の者の視察が終わった時に改めて意見を聞く」

 

 シドの宣言に意義はなかった。

 

 「今日は有意義な時間でした。あのように活動を続けてくれるなら部として成り立つでしょう」

 

 「今度は屋外の活動なんかもみてみたいですね」

 

 「活動場がいささか大きい気もするが個人のものとなれば仕方ない。若僧だと思ったが思いのほかやるようだな」

 

 「………」

 

 皆が口々にいいシャムイも頷く。部の設立に反対だったザニエジも内部を見たことで考えを改めたようだ。彼は物事に対し否定から入ることが多いタイプだが物分かりはいい。こうして視察をすることで意見を変えるのは分かっていたが、好感触を掴めて良かったと思う。

 

 「では、本日は解散だ。帰りもアイヴァーに頼んでいるから問題ないはずだ。ああ、僕は部のことでセスと話があるのでアルベルトは彼らと戻ってくれ」

 

 「………かしこまりました」

 

 アルベルトは少し不満そうな顔をしたがシドに逆らうことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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