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偽主  作者: シュカ
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その後

その後、校長室から退散したメンバー達は久しぶりに通常通り授業に出席した。休み時間にはクラスメート達から休んでた間のことを色々聞かれたが、その全てはシークレットジョブだったと受け流した。再びメンバーが生徒会室に集まったのは放課後である。皆が自分の定位置に座るとキーツは力が抜けたようにふぅっと息を吐いた。

 

 「肝が冷えたぞシド」

 

 「すみません」

 

 「全くだな。校長がキレなくて良かったぜ。あそこでかんしゃく起こされたら終わってたな」

 

 「ほんとね。一歩間違えば今頃は退学届けを出し終わってここにはいなかったでしょう」

 

 「……すみません」

 

 校長先生からなんとか賭けの勝ちを認められたシドとメンバー達だが、シドの勢いに任せた行動にメンバーはお説教していた。校長が負けを認めた時点であの場を離れるべきだったと。その後の話は賭けの勝ちが確実になってからするべきだった。皆にそう言われシドはうつ向いて誤りの言葉を口にしていた。

 

 みんなの言う通りだ。返す言葉もない。

 

 「まぁ、いいじゃん。なんだかんだ勝ったんだしさ。終わりよければ全ていいって言うじゃん」

 

 俺も楽しかったしとケラケラとティムが笑ってフォローする。

 

 「そうですわね。皆さんその辺りにしておきましょう。シド君にもあの場で引けない理由があったようですし。結果、全てが丸く収まったのですから」

 

 ティムに続きユウリがにこやかに言うと、頭を抱えていたキーツがシドを見据えた。

 

 「今回はうまく言ったが、いつもこう上手くいくとは限らないのだ。今後はもっと慎重に動くように」

 

 皮肉まじりにシドに怒っていたリャッカとツンツンした様子で一歩間違えば退学だと熱を振るっていたチュリッシェがうんうんと頷く。そこに紛れもない心配を感じシドはもう一度心から謝った。

 

 「肝に命じます。本当にすみませんでした」

 

 キーツはそんなシドをしばらく見定めるようにしていたが、一つ重々しく頷き、それからへらっと笑った。

 

 「分かればよい。皆が無事で賭けが終わって良かった」

 

 キーツは一人一人に目を向け、最後にシドを見た。その視線にシドは立ち上がる。

 

 「皆さん本当にありがとうございました。今回の件が無事で終わったのは皆さんがいてくれたからです。僕一人ではどうなっていたか分かりませんでした。力を貸してくれて本当にありがとうございました」

 

 まだ皆にちゃんとお礼を言っていなかったとシドは真摯に話す。するとそんなシドのもとにリャッカが立ちあがりスタスタと歩いてきてチョップをお見舞いした。

 

 「…い、痛い」

 

 「これでも加減した。これで勘弁してやる」

 

 脳天に炸裂した衝撃に生理的な涙をこらえていると、リャッカはふっと笑って席に戻った。

 

 「まっ、生徒会メンバーとして同じメンバーを助けるのは当然よ」

 

 「チュリッシェ先輩はすなおじゃないねー」

 

 「うるさい」

 

 獲物を見つけたようにからかうティムをチュリッシェは一掃する。

 

 後輩達の空気がいつも通りになったところでキーツとユウリが顔を見合わせて笑った。シドはそんな皆の様子を見ながらシドは荷物をまとめる。

 

 「行くのか?」

 

 「ええ、あまりお待たせするのも悪いので」

 

 「そうか、俺はまだ残っているか終わったら戻って来るといいぞ」

 

 「会長だけじゃなくて俺達もいるから真っ直ぐ帰っちゃダメだかんね」

 

 「そーね。この数日分の仕事しとかなきゃだし、一人だけ帰ったら怒るから」

 

 皆から声をかけられながらシドは一旦生徒会室を後にした。これから校長室に向かい、賭けの終了のための手続きを色々済ますのだ。朝は授業が始まるから放課後にゆっくりと手続きをすることになった。

 

 「失礼します」

 

 「どうぞ」

 

 入室を認められシドは中に入る。朝のことを思いだし少し緊張するも校長は落ち着いた様子だった。

 

 「早速だが始めようか」

 

 シドは持参した契約の魔術具を机の上に置く。賭けの始まりの時に使ったものと同じだ。

 

 「君の条件は、セスの勤労に関することと自身の秘密のこと。後は生徒会に手を出さないことだったね」

 

 「はい、その通りです」

 

 「分かった。魔術具を使用しなさい」

 

 神妙な顔でシドは手のひらサイズの魔術具を取り下の方に着いたボタンを押しながら話す。

 

 「賭けの勝者は僕、シド・クローバードだ。よって、勝利条件を行使する」

 

 シドがボタンを離すと魔術具は淡い赤の光を発する。シドは校長に魔術具を手渡す。

 

 「私、オリバー・バーンズは賭けに負けた。シド・クローバードの条件に同意する」

 

 校長がボタンから手を離すと魔術具は淡い緑の光を放った。契約の成立を意味する合図だ。

 

 校長とシドは二人揃って息を吐く。

 

 「これでおしまいですね」

 

 「ああ、そうだね。君と少し話がしたい。時間は大丈夫かい?」

 

 「はい、大丈夫です」

 

 校長がお茶を持ってきてくれた。二人がそれぞれ口をつけたところで校長がおもむろに話始めた。

 

 「今朝、君に言われたことはもっともだと思う。…思うのだがすぐには気持ちは変わらない」

 

 シドは無言で頷く。今まで積み重なった気持ちを今朝のあれだけで変えることは不可能だとシドにも分かっている。

 

 「しかし、私は君の言葉にも納得してしまった。今まで面と向かって言ってきたものはいなかったから、はっとさせられた。感謝しているよ」

 

 「もったいないお言葉です」

 

 気持ちをえぐって傷つけた自覚があるシドはばつが悪い顔をする。校長はドアの外を気にするそぶりを見せてから声を潜めた。

 

 「これは好奇心だから答えたくなければそれでいいが、シド君の大事なもののことと君の秘密は関係しているのかね?」

 

 校長が賭けが終わった後くらいからシドのことを名前で呼ぶようになったのはシド自身気づいていた。それが約束を守ると言うことの意思であること、さらに魔術具の契約で校長が秘密を話せなくなっていることから、シドは校長に少しだけ話すことにした。

 

 「はい。僕の大事な人は兄です。…ここに通っていたね。彼の最期を知るために僕はここにいます」

 

 「そうか…。ならば私は出来る限り君に協力しよう。君が答えを見つけるところが見たい。私が答えを見つけるためにもね」

 

 「ありがとうございます」

 

 校長はシドの簡単な答えにすぐに頷いた。シドの秘密を知ってからある程度予想はしていたのかもしれない。

 

 「君は…、そうしてまでここに来たのだな。そうしてまで無理矢理前を向いたのか」

 

 独り言のような呟き。答えた方がいいのか少し悩んだが返答した。

 

 「こうしてでも僕には譲れないことがあったのです」

 

 「そうか…。私もそういうものを見つけてみよう」

 

 校長は時計を見て立ち上がった。カップの中はお互い空になっていた。

 

 「これからクラスタが来る。食事に行くのだが君もどうだい?」

 

 和やかな様子は今朝まで敵対していたとは思えないものだった。シドは微笑を浮かべ首を横に降った。

 

 「今日はお二人でお楽しみください。僕は今から生徒会の仕事をしないとですので」

 

 校長は少し残念そうだったが、すぐに頷いてくれた。

 

 「そうか、ではまたの機会に誘おう。クラスタは君のことを気に入っているようだしね」

 

 「ありがとうございます」

 

 クラスタが先輩としての自分を慕ってくれていることを嬉しく思っていると校長室のドアが控えめに叩かれた。

 

 「失礼しますなの」

 

 鞄を持ったクラスタがひょこっと顔を出してシドと目が合うと固まった。驚かせてしまったらしい。シドが声をかけようとするとクラスタの鞄からムウムウが飛び出してきた。

 

 「ににゃーー!」

 

 ムウムウはシドの回りを嬉しそうに飛んだ。クラスタがそれを見て慌てる。

 

 「ムウムウちゃん、ダメなのー。お兄ちゃんが困るの」

 

 シドを困らせたのではと心配気なクラスタにシドは笑って見せた。

 

 「大丈夫だ」

 

 「にゃー」

 

 シドの肩に降り立ったムウムウは満足気に鳴くとクラスタのもとに戻った。

 

 「クラスタ。そんなところにいないでこっちにおいで」

 

 「うんなの」

 

 クラスタはちょこちょことシドの隣の席までやって来て座った。ムウムウがクラスタの頭にしがみつく。

 

 「今日はどこに行こうか?」

 

 「うーん、どこがいいかななの。お兄ちゃんも一緒なの?」

 

 「いや、僕は用を済ませに来ただけだから」

 

 「そうなの?残念なの」

 

 少ししょんぼりした様子のクラスタを校長はほほえましげに見る。

 

 「そう落ち込むな。私と二人では不満か?」

 

 「そんなことないの!おじいちゃんとご飯は楽しいの!」

 

 慌てたように否定するクラスタを校長はいたずらっぽく見つめる。そんな二人の様子を見てシドはこの場を辞すことにした。

 

 「では僕は行きます。クラスタ、またな」

 

 「バイバイなの」

 

 シドは校長とクラスタの楽しそうな声を背に受けながら校長室を後にする。クラスタがいれば先生は大丈夫だろう。そんな確信ができた。

 

 

 「シド、遅かったじゃない」

 

 「ほんとだよ。はい、これシド君の分ね」

 

 「すみません、チュリッシェ先輩。これだな、ティム」

 

 生徒会室に戻って来たシドを見てチュリッシェがむくれ、ティムが早速仕事を持ってきた。

 

 「あれ?リャッカ先輩は?」

 

 「リャッカ君はたまっているシークレットジョブがあると出ていきましたわ」

 

 「そうでしたか。あっ、ありがとうございます」

 

 シドが辺りを見渡すと、ユウリが説明してくれた。シドの好みに合わせた飲み物をいれてくれたようでマグカップを渡された。

 

 「シド、上手くいったか?」

 

 「はい」

 

 書類から目を離しへらっと笑った。それにシドも笑い返す。

 

 「そうか、では今後も頼むぞ」

 

 「もちろんです」

 

 シドは早速ティムに渡された書類に手をつける。普段通りの日が戻ってきたことを実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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