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偽主  作者: シュカ
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いざ勝負

二日目の報告会が終わり、三日目もあっという間に過ぎた。そして約束の日。

 

 「おはようございます。校長先生」

 

 「皆、おはよう。さぁ約束通り君たちの答えを聞かせてもらおうか」

 

 朝一番に生徒会メンバーは校長室に来ていた。校長も早くに来ていたようで窓の外では雪が降り積もっているのに部屋の中は暖かかった。

 

 「シド」

 

 「はい」

 

 入り口の所で固まって立っていた五人。キーツが隣にいるシドの背を軽く叩いた。それに促されシドは皆がいる所から少し前に出て校長と視線を合わせる。

 

 ここで答えを間違えれば退学。そんな緊張が一瞬頭をよぎったが後ろに控える仲間がいる。…きっと大丈夫だ。シドは面白がっているように余裕な笑みを浮かべる校長に笑い返した。

 

 「校長先生の宝物を探すのは難しかったです」

 

 「ほう」

 

 校長の笑みがいっそう深まる。妙な緊張感が校長室に広がる。

 

 「三日間いろいろ調べてみましたがなかなか手がかりが見つからず、ずっと悩みました」

 

 「そうか、ではこの勝負は…」

 

 シドの発言に勝利を確信したらしい校長が自分の勝ちを宣誓しようとしたその瞬間シドは意地の悪い黒い笑顔を見せつけた。

 

 「そうして頭を悩ませたお陰でやっと分かりました。校長先生の宝物」

 

 校長の笑みがひっこむ。シドを見つめる瞳には彼の言葉を逃さない意思が込められている。少しでも違えばすぐ指摘が飛んでくるだろう。

 

 「そうか。では話してみなさい」

 

 「校長先生の宝物はコリドリスさんですね」

 

 「コリドリスとは?説明しなさい」

 

 校長は表情を変えずシドに先を話せと告げた。シドは少しも慌てることない。校長がどう思っているかは分からないが今は自分の考えをぶつけるだけだ。

 

 「コリドリスさんは校長先生の思い人ですよね。あなたの妻でフェルディールさんの母です。…若くして亡くなられたんですね」

 

 「…確かにコリドリスは私の妻でフェルディールの母親だ。だが、君はそれだけで私の宝が妻だと断言するのかね。それはいささか早急なのではないか?間違えれば退学だと言うのは忘れてないだろう」

 

 「校長先生の方こそ早急ですね。もちろんそれだけの理由ではありませんよ。順を追ってお話しします」

 

 校長が目を細めた。シドは自分のペースを保つように心がけ軽く深呼吸する。どこから話そうか。

 

 「すべての始まりはあなたが幼少の頃に遡ります。あなたはクーララ家の近所で産まれました。クーララ家には三つ年上の女の子が住んでいましたね。それがコリドリスさんです。あなたはコリドリスさんと姉弟のように遊び成長した」

 

 い抜くような校長の視線は過去を掘り返されているからだろうか。

 

 「あなたはコリドリスさんに異性として好意を抱いてましたね。コリドリスさんも成長したあなたに好意を抱き結ばれた」

 

 シドはチュリッシェに調べてもらったクーララ家の家系図を思い出す。調べるのは難航したようだがそこには確かにコリドリスの名があったのだ。校長がクーララ家の方に婿に行ったことがそれで分かった。


 「そんなあなた達の間には一人の男の子が産まれました。それがフェルディールさんですね」

 

 病院の記録をチュリッシェに探してもらったが見つけることはできなかったらしい。チュリッシェの調査能力に間違いないということは意図的に隠されたものの可能性がある。

 

 「フェルディールさんが産まれてすぐにコリドリスさんが亡くなったのですね。もともと体の強い方ではなかったのでしょう?」

 

 コリドリスの体が強くないことは記録に残っていたのだ。おそらく出産に耐えられなかったのだ。

 

 校長は表情を変えることなく静かに聞いていた。その顔からは何を思っているのかは察せられない。シドは今回能力を使用しないで対峙していたから今の校長の感情を知るものは校長を除いてはいない。

 

 「それからあなたは使用人と共にフェルディールさんを育て彼が結婚し孫ができた。セスとフェイロンさんとクラスタです。子供が育ち孫が産まれたけどあなたは満たされた思いなどしていないのでしょう。コリドリスさんがいないから」

 

 ほんの少し校長の目が揺れた。シドは目を伏せて静かに告げる。

 

 「強い能力持ちにクーララ家を継がせる。それがコリドリスさんとの最後の約束だったんですよね」

 

 反射的だとは思うがピクリと校長が動いた。シドは手応えを感じた。

 

 「コリドリスさんの死の間際、あなたはコリドリスさんが愛してくれたクーララ家を強い能力持ちに継がせ大きな家にすると約束した。それがあったからこんなにも能力持ちを求めていたんだ」

 

 後ろに控えている生徒会メンバーのうちの一人であるティムが「へぇー」と呟いたのがかすかに聞こえた。昨日話したはずなのだがなとシドは思う。

 

 「けど、それだけでもないですよね。まだ気になることがありました。どうして正妻の子ではないセスに執着し能力持ちではないクラスタをあそこまで溺愛しているのか。それを説明しなくてはなりません」

 

 「孫を可愛がることの何が悪いのだ」

 

 ここで初めて校長が反論した。普通の状況だったらその通りだと思うが今は普通とは言いがたい。

 

 「だとしたら、なぜフェイロンさんのことは放っておくのです?彼だってあなたの孫でしょう?」

 

 「君は知らないかもしれないがね。私はセス同様にフェイロンのことも探していたよ。探したが見つからなかったんだ」

 

 校長は残念そうに首を降った。その仕草に思わず騙されそうになるが、彼の言葉が本当ではないとシドは思った。

 

 「いえ校長先生はフェイロンさんのことはそれほど探していませんよね。探しているならとっくに居場所をつかめているはずです。だって、僕らが調査しえすぐお会いすることができたのですから。僕らにできて校長先生にできないはずがありませんよ」

 

 校長が驚いた顔をした後にぐっと息を飲んだのが分かった。どうやら図星のようだ。

 

 「それであなたがセスやクラスタに執着しているわけですけどこれが原因ですよね」

 

 シドは懐から一枚の写真を取り出す。リャッカとティムが持ち帰ってくれたものだ。

 

 「これをどこで!!」

 

 校長が血相を変えて大声を上げた。前のめりの姿勢になり伸ばされた手に捕まれないようにシドは後退する。

 

 「今のセスの住みかです」

 

 「それはつまり…」

 

 「ええ、以前のクーララ家の屋敷ですね」

 

 険しい顔をする校長。この写真を探していたかどうかは分からないが大事なものであったのは反応で分かる。

 

 「この二人、幼い頃の校長先生とコリドリスさんですよね?とても似ていらっしゃいますね。セスとクラスタに」

 

 校長は再びだんまりを決め込んだ。触れてはならないところにこれから踏み込まなくてはならないとシドは覚悟を決める。

 

 「最初、僕はあなたとコリドリスさんに似ているこの二人にクーララ家を再建してほしかったのかと思いました。でもそれはすぐに違うということに気づきました。だとしたら、パトリシアさんを始め、精神感応系の能力持ちを調べまくった先生の意図が分からない」

 

 校長がわずかにうつ向く。その様子はシドの口から全てを告白されるのを待っているようだった。

 

 「あなたはもう一度コリドリスさんに会いたかった。だから彼女によく似たクラスタとコリドリスさんと同じ精神感応系の能力持ちを引合せ、コリドリスさんのような子供が産まれるのを望んだ。そうですよね?」

 

 後ろで誰かが息を飲んだ。昨日のうちには話したが中々受け入れられない仮説である。シド自身、校長が否定することを少し望んでいる。

 

 長い沈黙の後校長は微かに顎を引く。それは肯定の意だった。残念ながら仮説は正しかったらしい。

 

 「セスの能力は精神感応系に値します。セスが下働きの時、先生はセスを当主として据えて囲い込みクラスタと結ぼうとした。クラスタのもう一人の兄、フェイロンさんより血の繋がりは薄く、能力的に申し分なかったから。その時クラスタは赤ん坊でしたからかなりの長期的計画ですね」

 

 人のステータスが見れるセスは精神感応系の能力持ちといって間違いない。クラスタがコリドリスと同じように育つように校長は尽力したのだろう。クラスタが面影まで似たのは校長にとって幸いだったろう。

 

 「いえ、クラスタが赤ん坊の時からではないですね。先代当主のフェルディールさんにパトリシアさんを引き合わせたのも同じ理由でしょう。コリドリスさんを本当に愛しているんですね」

 

 校長はしばらく答えなかった。彼の回答をシドはひたすら待つ。

 

 「確かに私はコリドリスを愛していたよ。いや、今も愛している」

 

 やがて校長は静かな口調で語りだした。

 

 「よくそこまでたどり着いたね。君達の捜査能力を甘く見ていた」

 

 校長の言葉に後ろのメンバーの力が抜ける。今の台詞からは合格点がもらえたと判断ができる。

 

 「彼女はいい女性だった。幼い頃から共に過ごし成長し、彼女がフェルディールを身ごもったときにはこれから幸せな家庭を気づくのだと思ったが叶うことはなかった。クローバード君の言うとおりだ。私の宝はコリドリスをおいていない」

 

 長い年月が経っても癒されることのない痛みを悲しそうに校長が語る。シドの後ろの方で歓声が上がった。校長のこの宣言をもって生徒会の勝利が決まったのだ。誰もがそう思っていた。校長でさえもだ。

 

 ただ一人、シド除いて。

 

 「いいえ、僕の話はこれで終わりではありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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