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偽主  作者: シュカ
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報告会 4

「まずこちらを見てください」

 

 写し出されたのは一枚の写真だった。屋敷の中で撮ったような背景に元気そうな子供が二人と顔色の悪い男性。優雅に笑う女性。そして今よりも若い校長先生がそこには写っていた。

 

 「クラスタが生まれた頃に撮られた写真です。あの赤ちゃんがクラスタでこっちの男の子がフェイロンさん。…あとは何となく分かるかしら?」

 

 チュリッシェがパソコンから目を上げる。皆に疑問がなさそうなのを確認して続ける。

 

 「今、皆の話しで出てきた人達のイメージがつくかと思います」

 

 この優雅そうな女性がパトリシアで顔色の悪い線の細い男性がフェルディールだ。後は笑った校長先生と今までの登場人物の整理がついた。セスが写っていないのは家族としてでなく使用人として屋敷で働いていたからだろう

 

 「後はこれですね」

 

 チュリッシェは次の写真を表示させた。それはこの学園に通う生徒の名簿がアレンジされたようなリストだった。名前の横に○や×がつけられたそれは奇しくも、先日セスに『選別』をさせた時に遣われたものとよく似ていた。違う点といえば、○や×の他に◎がついた生徒がいる辺りだろうか。×が一番多く○がその次だ。◎は一番少ない。

 

 「チュリッシェ…。こんなものをどこで…」

 

 画面に写し出されたリストを見ていたキーツが顔色を変える。シドはリストを見て気づくとキーツに遅れて声を上げる。

 

 「…チュリッシェ先輩。まず画面を変えてください」

 

 他のメンバーも理由が分かってきたのかキーツやシドの発言に異議を唱えることなく無言でいた。チュリッシェはそんなメンバー達を前に平然とした顔でキーボードを叩き画面を消した。

 

 「校長先生のパソコンに入っていたリスト。皆が気づいた通りです」

 

 「相変わらずすごい手際だが…」

 

 キーツがなんとも言いにくそうな顔をしている。シドが目線で自分が話すとキーツに伝えた。

 

 「チュリッシェ先輩。これはここの話しだけで使うものですよね?」

 

 「当たり前よ。今までだってそうだったでしょ?」

 

 「ええ、そうですね。続けてください」

 

 シドがにっこりと笑うと一番意外そうにしたのはチュリッシェだった。何か言いたげなキーツをチュリッシェは視たが、彼は苦笑いで先を促した。

 

 彼女が調べたデータを使うのはシークレットジョブだけだった。そのための申請はしかるべき場所でしているらしいことは知っている。

 

 シークレットジョブではない今回の調査でチュリッシェが調べたことが彼女に危険を及ばさないかメンバーは心配だった。

 

 写真はともかく今のリストを手にいれるために彼女が校長のパソコンにアクセスしたのは分かったが、それを漏らす人間はここにいない。だからチュリッシェも安心して情報を公開している。だったらそれを裏切らず信じ抜くのが僕らだろう。

 

 「じゃあ、もう一回だすわ。これをよく確認してほしいの」

 

 画面に写し出されたデータをメンバーは再び見つめる。

 

 「これはここの生徒のリストだな。しかし全員ではない」

 

 「名前を見る限り女はいないな。男の生徒を集めた名簿か?」

 

 キーツが早速指摘しリャッカがそれに続く。チュリッシェはこくりと頷いた。

 

 「もう少し分かりやすくしてみます」

 

 何度かキーボードを操作するチュリッシェ。画面が切り替わる。

 

 「あー、これなら俺にも分かるや」

 

 「私達の所属するクラスの方ですわね」

 

 チュリッシェは生徒会のメンバーがいるクラスのみの名簿だけ画面に映したのだ。そのお陰でシドは気づきたくなかった事実に気づく。

 

 「あはっ、キーツ先輩とリャッカ先輩は×なのに、シド君には、にじゅうまるがついてんじゃん。やっぱりこうちょーせんせーはシド君に目をつけてたんじゃないの?」

 

 ものすごく楽しそうにティムが言うのでシドは頭が痛くなる思いがした。今はそんなこと言っている場合じゃないだろうと彼を睨むが飄々とかわされた。

 

 「こいつの他に二重丸がつけられているのは誰だ?ユースフォルトまとめてないのか?」

 

 「もちろんまとめてる。いい忘れたけどこれは高等部のもので中等部や初等部のもあったわ。今から見せるのは高等部の分ね」

 

 リャッカが器用に片目だけ開けてチュリッシェに問うと当たり前とチュリッシェが画面を切り替えた。

 

 二重丸がつけられた人物はそれほど多くなかった。高等部だけで千人は越えるこの学園で十人に満たなかったようだ。

 

 上から下まで目を通したキーツがふぅっとため息を吐き嫌そうな顔をした。

 

 「この二重丸がついた者のリストは能力持ちの中でも精神感応系の能力を持ったものをリストアップしたものらしい。シド、申し訳ないことをした」

 

 「えっ、キーツ先輩?」

 

 急に謝ったキーツにシドは戸惑う。

 

 「お前が復学した時に能力の登録を行っただろう。あれがなければお前は能力を持っているものとして校長先生に目をつけられることはなかった」

 

 そう言われてシドは思い出す。能力持ちは学園側に何の能力持ちかを通知する事が必要だと、シドの正体を生徒会の皆に話した後でキーツが手続きしてくれたことを。

 

 「あの段階ではこうなることは分かりませんでした。キーツ先輩のせいじゃありません。ここまでことが大きくなったのは僕の責任です」

 

 「そーそー。今さら気にしたってしょーがないじゃん。それにしてもさ、精神感応系の能力者ってめずらしーんじゃないっけ?学園内にこんなにいたの?」

 

 ティムが空気を変えるようにケラケラと笑った。後半の指摘にはリャッカが反応する。

 

 「能力持ちは人口の五人に一人くらい。この学園は能力持ちが入学することも多いから四人に一人か、三人に一人か?その中なら別に珍しくもないだろ」

 

 「正確には全生徒千百六十七名中三百八人が能力持ちだ。その人数の中で男子のみの九名が精神感応系の能力持ちなのだ。割合としてはやや多いな」

 

 「僕の他はどんな能力の方なんですか?」

 

 「遠くの人の声が聞こえる。逆に声に出せずに思っていることを伝えられる。この辺りの能力持ちだが彼らの力はそこまで強くない。聞こえたり、伝えられたりする者は、時々一言二言できる程度らしい。シドほどはっきりと意図して長時間、能力を使えるわけではない」

 

 全校生徒のプロフィールを把握しているキーツは彼らのことも知っているようですらすらと答える。自分ほどの能力持ちではないと知ったシドは少し残念に思いながらも安心していた。幼少の頃、この能力のことでシドは苦労していたから。

 

 「この中ではシド君が一番強い精神感応系の能力持ちなのですね。それはともかく、どうして校長先生はこのようなリストをお持ちなのでしょう?公的な資料ではないのですよね?」

 

 ユウリが疑問を呈し、キーツとリャッカに目配せする。二人は学内のことやシークレットジョブに詳しいメンバーだからだろう。

 

 「俺が知っている限りではシークレットジョブの類いとは関係ないっす」

 

 「学園内外の資料でも見たことはないな」

 

 二人が揃って心当たりがないと言うとチュリッシェが口を開いた。

 

 「昨日これを見つけて私なりに考えてみたんです。まず確認ですけど、資料の×は能力を持ってない人。○は能力持ちの人。◎は今皆が言っていた通り精神感応系の能力持ちの人です。中等部や初等部のも同じでした」

 

 チュリッシェがスクリーンに画面を写し出すと確認したキーツが「間違いない」と宣言する。中等部や初等部の生徒のことも把握しているのかとシドは驚く。

 

 「これを見る限り、校長先生は精神感応系の能力持ちの人に目をつけているようです。その中でもシドは能力が強いから、より校長先生のお眼鏡にかなったんだと思います。校長先生はクーララ家を復活させるために強い能力持ちに固執しているということでしたよね。これもそのための一つなのでしょう」

 

 ここまではチュリッシェの言う通りだと思う。だが、まだまだ問題は残っている。

 

 「んー、チュリッシェ先輩が言うことはのは分かるけどさ。なんで精神感応系の能力持ちばっかなんだろね?」

 

 ティムがシドを見ながら言う。なにかあるのかなーと観察しているのが透けて見える。

 

 「珍しい能力だからじゃない?」

 

 「それだけなら他にもいるじゃん」

 

 チュリッシェが返答するもティムは即答で返す。

 

 「屋敷の初代の当主がその能力だったとかですか?シド君がお話を聞いたパトリシアさんもシド君と似た能力をお持ちでしたよね?」

 

 「その可能性はありそうだな」

 

 ユウリが思い出すように少し上を向く。リャッカが納得げに頷くもシドにはちょっと腑に落ちない。頭の中で今まで出た情報を整理する。

 

 能力持ちではないのに手元にクラスタを置いて可愛がる校長。幼い頃に父に連れ出され屋敷を出たフェイロン。精神感応系の男子生徒の能力持ちを集めたリスト。…そして写真の女の子。

 

 もしかしたら…

 

 シドは一つの仮説を思い付く。それを見逃さなかったのはキーツだ。

 

 「シド。なにか分かったか?」

 

 シドはそれにこくりと頷き、チュリッシェに声をかける。

 

 「チュリッシェ先輩。調べてほしいことがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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