報告会 3
ユウリの笑顔に皆が気圧される。そんな中でリャッカがわざとらしい咳払いをする。
「ヒイラギ先輩が大丈夫ってんなら大丈夫なんだろ。それで、ヒイラギ先輩は俺らの話から何に気づいたんっすか」
「ええ、その写真に写っている男の子は校長先生に間違いないです。横の女の子はまだ分かりませんけども手がかりはあります」
「校長先生が子供の時の写真か。なにか根拠はあるのか?」
ユウリが自信満々に言うとキーツが問いただす。ユウリはニッコリと笑みを浮かべる。
「こことここをご覧ください。会長なら気づくと思いますわ」
「ああ、なるほどな」
ユウリが立ちあがりキーツの後ろに回る。写真を指差すとキーツは納得げに頷いた。後輩達が首を傾げているのを見てキーツは説明をする。
「骨格やほくろ、鼻の形などが校長先生と一致している。ユウリに言われるまで気づかなかったが間違いない」
「会長も気づかなかったのにユウリ先輩すごい」
チュリッシェが手放しで彼女を誉めるとユウリは照れたように頬を赤らめた。
「昨日お話しして見てきたからですわ。会長には敵いませんが少しならできますわ」
いくら対面で話して来たからといってそんなとこまで気がつくのだろうか。シドは驚きを表情に出さないように澄まし顔をする。
「んー、これがこうちょーせんせーならこの人は誰なんだろうね」
「校長先生より歳上の女の人か」
「ユウリ、他に何か気づいたことはないか?」
「いえ、残念ながら。親しくしていた方だと思いますが、どなたかまでは分かりません」
ユウリがちょっと困った顔で眉を寄せる。
「そうか、他に得られた情報はあるか?」
「ええ、それならありますわ。ヒントになりそうなことを校長先生は言ってました」
ユウリの話だと対面で話していて得られた結果は先程述べたことだったが、校長室を出る少し前に校長先生が呟いたことをしっかり聞いていたらしい。
「『もう決して見つかることのない私の宝物』そのようにおっしゃってたように聞こえました」
「見つかることのない宝物だと?そんなのどうすればいいんだよ。見つからないと分かっていて賭けをしてんのか」
リャッカが語気を強め誰かが息を飲んだのが分かる。シドはそんな中で必死に考えを張り巡らせていた。
「落ち着けリャッカ。ユウリにあたったところでもう戻れないだろう」
「……すんません」
キーツに諌められリャッカはユウリに頭を下げる。落ち着きを取り戻したようだ。
「私からは以上ですわ」
ユウリがそう締めると静寂が現れる。チュリッシェが俯いているのを視てシドが口を開く。
「次は僕がお話しします」
「ああ、頼む」
シドは昨日あったことを皆に話した。フェイロンやクラスタの母と語ったこと、クラスタに聞いたことを片っ端から。クラスタとの話ではチュリッシェが補足をしてくれた。最後に夜、屋敷にセスが訪ねてきたことを伝え話を終える。
「ふむ、なるほどな。クラスタの母上は嘘をつかせなくする能力を持っているのか」
「シド君と似ていますわね」
「クラスタがムウムウと仲良くなったから校長先生はお母さんにクラスタを返さなかったのかな」
シドの話を聞いた皆が口々に言う。
「んー、だから、シド君は校長先生に狙われたのかな?」
「こいつが校長に狙われてるだと」
「だってそー思わない?シド君が校長先生に会う前から校長先生はシド君のこと知ってたんでしょ?」
「それは生徒会だからではないですか?」
ユウリが考えすぎじゃないかと小首を傾げる。しかし、ティムは譲らない。シドにもティムの考えには心当たりがあった。
「だって、シド君は校長先生に最初からクローバード君って言われたんでしょ?それってさ、最初からシド君のこと知ってたってことだよね」
「……その通りだな。校長先生は最初からシドのことに目をつけていたのだろうな。恐らくだが能力がらみで」
キーツがうんうんと頷く。シドの推測も似たようなものだ。ふと視線に気づく。ユウリがシドを見ていた。心配ないですよと笑って見せると微笑み返してれた。
「だとしたら、勝負に負けた僕を取り組もうとか考えてるかもしれませんね」
シドが口元に手を当てて可能性を述べるとチュリッシェがややひきつった笑みを浮かべる。
「あ、あんた。自分のことなのによくそんな冷静に分析できるわね。クラスタの時の方が、まだ取り乱してたじゃない」
「自分のことですから冷静なんですよ。負けませんからね」
照れたように頬を掻くシド。クラスタとの時という部分にはあえて触れないでおいたが、ティムがそれを見逃さない。獲物を見つけたように楽しげにニヤニヤする。
「なになにー、シド君、クラスタとなにしたの?」
「…さっき話しただろ」
「『おじいちゃんが大好き』の発言でしたか?」
「ええ」
ティムが口を尖らせていたが、それをスルーしてユウリの助け船に乗る。腕組をしたリャッカがシドをじろりと睨む。
「確かに家族思いの子供の生活を守りたいってのも分かるが、ここまで来たらそうもいかないだろ」
「リャッカ先輩…」
「自分の身を優先しろ。その上で余裕があるなら守ればいいが、校長のは因果応報だろ。そんなに気にしていられるか」
「はい。ありがとうございます」
目付きは鋭く、苦々しげに言葉を紡いだリャッカだが、その中身がシドを心配していることは伝わった。守れるかではなく余裕があるなら守ればいいのだ。そう思えて少し気持ちが軽くなる。
「シドの報告は以上か?」
「はい、僕からは終わりです」
キーツは折を見てシドに聞く。答えると今度はチュリッシェに話を向ける。
「では、チュリッシェ。準備はよいか?」
「はい」
チュリッシェはユウリの様子を気にしたようだった。ユウリはチュリッシェの気持ちを察したのかて彼女に柔らかく伝える。
「チュリッシェちゃん、心配しなくてもまだ大丈夫ですわ。私だって能力持ちとして日々鍛練をしているので、能力を使える時間も長くなっているんです」
シドは誰にも気づかれないようにちらっと時計を見た。ユウリが以前能力を使っていた時と同じくらい経過している。前はこのくらいで調子が悪そうだったが、今はそんな様子はない。能力を使って嘘をついて無理していないかも確認したけど、それも大丈夫だった。
キーツも黙認しているし本人の申告があるまでは続けても問題ないだろう。チュリッシェは周りのメンバーの様子を見て仕方ないように息を吐いた。
「私の報告ちょっと長くなりそうだから、辛くなったら我慢しないでくださいね」
「ありがとうございます。チュリッシェちゃん」
「じゃあ、早速ですけど…」
チュリッシェは立ちあがり生徒会室の入り口の方に行き、そこにある壁のスイッチを押した。すると、それに反応したように生徒会室の天井から幕が降りてくる。
「こんな設備があったとは…」
「最近はあんまし、使ってないかんね。これはスクリーンだよ」
感心しているシドとは対照的に隣の席に座るティムはケタケタと笑った。
後で知ったことだが、四代前の会長が「あったら面白いのでは?」と冗談半分に導入したらしいが、実際には使われることはなく眠っていたものらしい。
それからの生徒会長は、そのスクリーンの存在走っていたものの、使いどころがなく、チュリッシェが生徒会に入ってから、ようやくまれに使われるようになったようだ。彼女はパソコンなどの機械を使うのが得意だから、このスクリーンを重宝しているようで、手入れも彼女がしているらしい。
「じゃあ、始めます」
1人、手際よく準備をしていたチュリッシェがパソコンの映像をスクリーンに映し始めた。