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偽主  作者: シュカ
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報告会 2

「亡くなった?セスさんのお父さんなら、まだそんな歳でもないでしょうに」

 

 ユウリがなにか計算するようにして呟く。キーツが軽く項垂れるのに合わせて金髪が揺れる。

 

 「いろいろな無理がたたったのだろう。四年ほど前になるらしい。フェイロン殿が一人立ちできる年齢であったのがせめてもの救いだな」

 

 「それからはフェイロンさんは一人で過ごしていたんですね」

 

 「ああ、父上が亡くなる前は東の国の方に滞在していたようだが、父上が亡くなられてからは各地を転々と旅してきてここにたどり着いたらしい。俺が見るにだが校長先生はフェイロン殿がこの町に戻ってきていることには、まだ気づいていないようだ。セス殿に意識が向いている故にだろうな」

 

 ぶっちゃけた話をしてはいるが生徒会室はユウリが能力で封じているため外を気にせず気兼ねなく話ができる。ただあまり時間をかけるとユウリの負担を増すため、そこは気を付けなくてはならない。

 

 「なるほど、少なくともこの賭けの期間はバレねーといいな」

 

 「ああ、とりあえず俺からはこんなものだな」

 

 キーツはそう言って話を終えた。残りのメンバーが顔を見合わせて、ティムがのんびりした口調で話し出した。

 

 「んじゃあ、次は俺からね。リャッカ先輩もそれでいい?」

 

 「ああ、任せる」

 

 「あいさー。俺とリャッカ先輩はセスさんのとこに行ってきたよ。聞いた話はほとんどシド君が聞いたのとおんなじかな」

 

 セスはティムとリャッカが話を来たことによって昨日屋敷に訪ねて来たのだったなとシドは思い出す。

 

 「新しい収穫はなかったってこと?」

 

 二人にも情報提供していたであろうチュリッシェが肩を落とす。

 

 「いや、役に立つかは知らんが追加情報はある。セスだけではなく、あの組織の他のものにも話が聞けた」

 

 「そうそう。セスさんが屋敷を飛び出したその後って感じだね。まず、驚いたのがセスさんといっしょにいた仲良さそーな女の人。あの人がいいとこのお嬢さんだったんだって」

 

 「確か、名前はアリアといったな。今は家がないが当時は名の知れたところの娘だった」

 

 ティムが大枠を話し、リャッカが補足をする。バランスがとれたコンビだ。リャッカがあげた家の名前には聞き覚えがあった。だが、なぜそこの娘が孤児になったのだろう。

 

 「そーそー。組織の小さい子が知ってるくらいだから有名な話なんだろね。噂だと家の中で理不尽な扱いをされていた彼女をつれて逃げたんだって。王子さまみたいだよね」

 

 「セスさんらしいといえば、らしいですね」

 

 「他にも小さな子供を中心に聞いてみた。ちびっこいのは口が軽いからな」

 

 リャッカが不敵に笑う。組織の中の子供を中心に話を聞いてきたようだ。普段は目付きが悪い彼だが、初めて塾の潜入であったときのようにツバリ・ヤイカに変装して眼鏡をかけていれば警戒心は薄まるかもしれない。それに意外と子供に好かれるティムもいた。子供達に巧みに近づく二人が想像できる。

 

 「聞いてこれたのは組織の中でも年上な人達の話だよ。よく遊んでくれてめんどー見てくれるってみんなが言ってた。孤児がほとんどだからセスさんの家族の話はでなかったな」

 

 「たが、あそこの屋敷に越してきた時のことを話してくれた子供がいた」

 

 「ああ、そだったね。戻ってきたのはセスさんが成人した後のことだから覚えてる子はそれなりにいたよ」

 

 辛くもそれはフェルディールが亡くなった四年前のことだった。セスは何人かの子供達と久しぶりに町に戻ってきた。長く滞在する気はないと言っていたが、滞在二日後にはここを拠点にすると宣言したらしい。 

 

 「その子はさ、セスさんの近くにいるおねーちゃんにこっそり理由を教えてもらったんだって。家が見つかったって、新しい家族と住もうと言ってたらしいよ」

 

 それはセスからは聞けなかった話だった。なんとなく聞いてはいけないことを聞いた気分になる。ティムはそんなシドの気持ちを察することなく続ける。

 

 「でさ、こっからなんだけど、引っ越ししてる時に見つけたものが今でも気になってるんだって」

 

 ティムがワクワクした顔をする。彼の表情から察するにこれが一番の発見なのだろう。

 

 彼いわく、引っ越し作業の掃除には子供達も参加した。ティムが話を聞いた子供は他の子達と一緒に一番大きな部屋を掃除していた。その時に机の奥深くに眠っていた写真立てを見つけた。それが気になるものらしい。

 

 「なんか、セスさんっぽい男の子とその隣に女の子が写ってたんだって。セスさんに聞こうとしたんだけど、ねーちゃんに見つかって取り上げられたんだってさ。これはしまっときますって」

 

 頭の上で手を組んだティム。リャッカが後を次ぐ。

 

 「それで写真を預かったねーちゃんに話を聞いた。引っ越しの後でセスに見せたようだが、奴も知らない人だったようだ。写真は借りてきた」

 

 そんな写真、よくアリアから借りてこられたものだ。シドは感心する。

 

 リャッカの台詞に合わせてティムが制服のポケットから写真を取り出す。皆が見られるように会長から順に回す。

 

 「はい、シド」

 

 「ありがとうございます。チュリッシェ先輩」

 

 シドにも順番が回って来て、写真を手に取る。色褪せたそれにはセスに似た雰囲気の六歳くらいの男の子とクラスタに似た雰囲気の十歳くらいの女の子が写っていた。二人の間には若干距離が空いており、女の子は正面を向いて微笑んでいるが、男の子は女の子の様子を気にしているのが見てとれる。

 

 「セスさんに雰囲気は似てますが別人ですね」

 

 「それを言うならクラスタに似てるけどこの人も違うよね」

 

 シドが思ったことを口に出す。すると、それに乗っかるようにティムが言う。

 

 「この男の子と女の子の年齢差を考えてもお二人ではないですわね」

 

 「セスさんに覚えがないって言うならまず違うよ。そもそもだけど、この写真が撮られたのってずいぶん前でしょ」

 

 チュリッシェはそう言うと会長とキーツに声をかける。シドは慌てて彼に写真を渡した。キーツはその写真を受けとると裏側から透かして見たり、ヒラヒラさせてみたりして検分をした。

 

 「ふむ、やはりと言ったところか撮られてから半世紀は経過しているな。それなのにも関わらずこの保存状態とはよほど大事に保管していたのだろう」

 

 「五十年前の写真ですか」

 

 シドはリャッカとティムを交互に見る。視線に気づいたのか彼らが反応を返した。

 

 「残念ながら、それ以上の情報は得られなかった」

 

 「そーだね」

 

 リャッカが目を伏せ、ティムはお手上げと言ったようにヒラヒラと手を振る。

 

 「いや、たった一日でよくそこまで行き着いた。お疲れ様だな」

 

 キーツが二人を労う。キーツにしろティムとリャッカにしろ、一日でよくそこまで調べられた。生徒会の皆の能力の高さを知らしめられる。

 

 「その通りですわ。リャッカ君とティム君の写真はかなりの手がかりになりました」

 

 いつになく強い口調でユウリが断言する。彼女に皆の注目が集まった。ユウリはにっこりと微笑む。

 

 「私は昨日校長先生とお話ししてきたのですが、今のお二人の話と繋がる部分がありました。ご報告してもよろしいですか?」

 

 確信に満ちたユウリにメンバー達は頷きを返していく。

 

 「ありがとうございます。昨日の放課後に校長先生にお会いして、色々と聞いてきましたわ。最初は警戒されていましたが、なかなか有意義な時間を過ごせました」 

 

 ユウリは放課後に校長先生を訪ねて、今回の件についていろいろ聞いてきたようだ。

 

 「まず、三日間の賭けについてはルールの改善は認められませんでした。もし万が一こちらが負けたときのシド君の退学の条件は取り消したかったのですけどね。シド君以外のメンバーについて手出しをせずこれまで通りの活動を認めてもらうのが精一杯でした。すみません、シド君」

 

 「い、いえ、それより魔道具を通して契約したのに、ルールを変えるなんてよくできましたね」

 

 校長との会食をした次の日。シドは契約の魔術具を使って校長と正式に賭けの条件を結んでいた。魔術具を通しただけあってその変更は難しい。シドは万が一の時の自身の退学はともかく周りのメンバーに被害が及ばないことを嬉しく思ったが戸惑いも覚える。

 

 「魔道具を通してもお互いの承諾があればルールは変えられますもの。シド君が交わした契約の上から私が契約しましたわ」

 

 なんてことないように彼女は言うが、そんな抜け道を使う大胆さに一同はあっけにとられた。そこでキーツが深刻そうに眉を寄せた。

 

 「ユウリ、今回校長先生と話してくるのに、危険な真似や、自分に不利益になることはしてないな?」

 

 キーツの心配は分かる。クイズの答えを出題者に聞きにいくのはリスクどころではない。はっきり言うとチートだ。ユウリが危険を起こしていないかシドも心配になる。周りを見ると他のメンバーも似たような顔をしている。

 

 「いいえ、そのようなことは全然していませんわ。何事もやり方と言うものがありますのよ」

 

 ユウリはそんな皆の心配も大人びた笑顔で回避した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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