表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽主  作者: シュカ
112/141

報告会 1

翌日、放課後の生徒会室には生徒会メンバーの全員が集まっていた。今から昨日の調査の報告会を行うためだ。

 

 「さて、皆集まったな。早速だが報告会を始める」

 

 セスの声を皮切りに会が始まる。皆緊張に背筋を伸ばす中、ティムはお気楽な声で発言する。

 

 「俺とリャッカ先輩はセスさんの所に行ってきたんだけど、皆はどこだったっけー?」

 

 ティムは本当に忘れていると言うよりは確認している声音だった。キーツが引き継ぐ。

 

 「そうだな。まずは確認からだ。俺はフェイロン殿の行方をおっていた」

 

 「私は校長先生とお話ししてきましたわ」

 

 「僕はクラスタの母親に話を聞いてきました」

 

 「私は皆のサポートをしながら色々と調べてみたわ」

 

 それぞれ昨日の行動を口に出す。リャッカは最初にティムが言った通りだったので黙していた。

 

 「皆ご苦労だったな。では、それぞれ昨日あったことを話していこう。まずは俺から話すぞ」

 

 キーツは一呼吸置いて語り始めた。

 

 「俺は昨日フェイロン殿を探しに行った。チュリッシェとリャッカの事前調査をもとに探していたのだがなかなか難しかったな」

 

 チュリッシェは電子機器を利用し、リャッカは独自のつてを使ってフェイロンのことも調べていた。それがあったから大分範囲は絞り込めていたようだ。だが、行方不明の人間を探すのにちょっとやそっとで見つかるわけがない。キーツの困ったような顔にチュリッシェもそう思ったようだ。

 

 「まぁ、そりゃそうよね。簡単には見つけられないか」

 

 「いや、そうではない。実は場所は分かっているのだ」

 

 「はぁ!?」

 

 チュリッシェががたっと音をたてて椅子から飛び上がる。キーツは天気の話でもするかのように何とはなしに言ったが嘘や冗談の類いではないようだだ。というか冗談だったらたちが悪い。

 

 「会長?たった一日でフェイロンさんの居場所を突き止めたのですか?」

 

 ユウリはチュリッシェに座るように促しながら発言した。その問いかけは少なからず驚いていた皆の気持ちを代弁していた。

 

 「まあな、ある程度見当がついていたからな」

 

 「では、フェイロンさんはどこにいたんですか?」

 

 シドが一字一句聞き漏らさないようにと身を乗り出させる。キーツはもったいぶることなく続けた。

 

 「今はこのプロトネの町にいる」

 

 「この町にねー」

 

 チュリッシェとリャッカは事前に調べていたからか反応が薄い。二人ともそこまでは分かっていたのだろうか。

 

 「確かにここも対象者がいる候補地だったけど、他にも何ヵ所か候補はあった。なんでこの町だと分かったんすか」

 

 リャッカの問いにチュリッシェも肯定するようにコクコクと頷いている。キーツはばつが悪そうに頭をかいた。

 

 「実はたまたまなのだよ。フェイロン殿はあちこちを転々としているようでな。たまたま帰ってきたのを見つけたのだ」

 

 「それにしても疑問はあります。キーツ先輩はフェイロンさんの顔も立ち寄りそうな所も知らないはずでしたよね」

 

 疑問を述べるシドをキーツは訝しげに見た。

 

 「シド、お前は知らないのか?」

 

 きょとんした顔にキーツは察したらしい。他のメンバーはそんな二人を交互に見比べていた。

 

 「俺はアルベルト殿と調査してきたのだよ」

 

 「アルベルトと!?」

 

 アルベルトの奴、そんなことを昨日は一言も言っていなかったぞ。いったいどういうことだ。

 

 「ああ、フェイロン殿の居場所を突き止められたのは、ほとんどアルベルト殿のお陰だ」

 

 キーツの言葉にシドは困惑する。僕に内緒であいつは何をやっていたんだ。奴にも調査を頼んではいたが報告が全くなかったのは気にくわない。

 

 「ラドウィン先輩がシドの従者と行動をしていたのはこの際いいだろ?それより場所も分かっているのに、なんでラドウィン先輩が苦い顔してっかを話してくれないっすか」

 

 「ああ、そうだな」

 

 リャッカの発言でシドの思考は止まる。確かにそうだ。今はキーツの話の続きを聞くべきだ。アルベルトには後でじっくりと話を聞こう。キーツ黙ったシドを一瞥し、ゆっくりとした口調で話始める。

 

 「俺は昨日、町に繰りだしフェイロン殿を探しに行った。チュリッシェとリャッカの調査を元にな。道中にシドの従者であるアルベルト殿と出会い目的が同じ調査だったので行動を共にした。ここまでは良いな?」

 

 キーツが全員を見渡す。頷きを返したり、小さく返事をする皆を見てキーツのエメラルド色の瞳が瞬く。

 

 「アルベルト殿と出会い互いの情報交換をすると、彼は能力を駆使しフェイロン殿の居場所を突き止めていたのだ。だから、俺はアルベルト殿のお陰でフェイロン殿を見つけられた。その後はアルベルト殿とは別れ単身でフェイロン殿のところに会いに行ったのだ。アルベルト殿は俺にフェイロン殿の居場所を告げた後は別の調査に向かったようだ」

 

 「アルベルトさんって何者なの?そんな簡単に行方不明者を見つけられるなんて」

 

 チュリッシェが驚いた顔でシドを見る。確かに調査を始めたのはごく最近だが、アルベルトは人の記憶を見ることができる。セスを始め組織の人間や町の人などの記憶を探り独自に調査し見つけたに違いない。

 

 シドがそう話すとチュリッシェは納得しきれない様子ではあったが引き下がった。

 

 正直なところシドもその反応は理解できる。自分の従者でなければ疑っていただろうから。能力もだがアルベルトは恐ろしく有能なのだ。それは時にシドの理解の範疇をも越える。

 

 「アルベルトは帰ったら問い詰めておきます。会長、続きをお願いします」

 

 「ああ、フェイロン殿はプロトネの町で家を借りてそこで過ごしていた。場所は思いの外近くてな学園の学生寮から北に歩いて十数分したところにある、貸し家が集まっている所だ」

 

 「まぁ、そんなところに」

 

 学生寮と聞いてユウリが口元に手を当てる。留学生のユウリは現在、学生寮で暮らしているからだろう。場所の想像は皆出来たようで、まさかそんな近くにと言い合った。

 

 「近いからこそ気づかなかったのだろう。それに来たのは最近だったようだ。フェイロン殿がそう言っていた」

 

 「お話まで済ませてこられたのですね」

 

 「まあな。突然の訪問に驚いてはおられたが話は聞いてくれたし質問にも答えてもらえた。なかなかいい人だったぞ」

 

 「んー?じゃあなんでかいちょーは悩んでんの」

 

 ティムは理解不能というようにキーツに問う。キーツは言いづらそうに目を伏せた。

 

 「それが、セス殿の話を聞いた彼がセス殿に会い連れていきたいと食いついたのだ。その剣幕がすごくてな。なんとか帰ってきたが、そちらもどうしたものか」

 

 フェイロンは当時セスの事を慕っていたと聞いている。その思いは今もなお薄まっていないようだ。

 

 「キーツ先輩、フェイロンさんにセスさんの場所は知らせたんですか?」

 

 「いや、こちらで保護しているとだけ伝えた。フェイロン殿に聞くための理由が必要だったのだ」

 

 「それなら問題ないですね。仮に居場所を突き止められ接触されても、それは当人達が決めることです」

 

 セスは昨日、いつかクローバード社から去るかもしれないという話をしていた。それならフェイロンと一緒に出て行くこともありえる。昨日本人に言われて気づいたことではあるが、その時は見送ろうと思う。家族と一緒にいれるならいいと思う。何にせよ大事なのは本人の意思だ。

 

 「シド君がそういうならいいでしょ。じゃあ、かいちょーがフェイロンさんに聞いたこと教えてよ」

 

 「ああ、もちろんだ」

 

 キーツはシドを気にしたようだったが会の進行を優先した。

 

 キーツは聞いてきたことを皆に話す。どうやらセスを保護していて家族のことを聞きたいと言って話を聞いてきたらしい。フェイロンはセスから聞いた彼の父と良く似た風貌の青年に成長したようだ。

 

 セスとの幼き日の思い出を楽しげに語った彼は当時の後継ぎ問題には一切気づかなかった。それに気づいたのは父に連れ出され屋敷を出た後だった。セスが実の兄だということも父に教えられ知る形になった。

 

 「フェイロン殿は後悔されていた。屋敷にいる時に気づけていればセス殿を助けられたかもしれないとな」

 

 セスが屋敷からいなくなった後、フェイロンはかなり取り乱したらしい。仲良くしていた友人が突然いなくなったらそうなるだろう。

 

 セスの突然な消息には校長はなんの反応もしなかった。ただ自分を値踏みするような目をフェイロンは覚えていた。

 

 「セス殿がいなくなりフェイロン殿に目をつけたのかとも思ったがそれはちがかったのだ」

 

 校長の意識はすでにクラスタに向いていた。そのためにフェイロンをどうするかと考えていたらしい。下手をしたら危害を加えられていたかもしれない。それにいち早く気づいたフェルデールが慌てて彼を連れて逃げた。

 

 そんな話を一度に聞かせられたフェイロンの幼少期にシドは同情した。立ち直るには時間が必要だったろう。

 

 「クラスタと母を残したのは、クラスタは生まれてまもない赤子だったし連れ出すのは無理だと判断した。子供に母親は必要だから追い出さないと思ったというのが誤算だったな」

 

 シドはコクりと頷く。昨日、クラスタの母に彼女と引き離された話を聞いたばかりだ。

 

 「フェイロン殿はセス殿やクラスタとはまた会いたいと思っている。しかし、校長先生のことはかなり憎んでいるようだった」

 

 「家族を離ればなれにしたとーにんだもんね」

 

 ティムの言う通りだ。フェイロンは校長が大好きなクラスタとは正反対の感情を抱いている。状況を見れば当たり前なのだろう。

 

 「なあ、ラドウィン先輩。そのフェイロンの父親はどうなってんだ」

 

 今まであまり口を挟まなかったリャッカが問いかけるとキーツはふるふると首を降った。いくぶん声も低くなる。

 

 「残念ながら亡くなっていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ