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偽主  作者: シュカ
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賭けの初日は

キーツが生徒会室に戻るとティムとリャッカはすでにいなかった。シドからメンバー達に報告した後、すぐに出掛けていったらしい。二人はセスの所に向かっていったようだ。

 

 「私は校長先生とお話ししてみますわ。お二人は昨日お話ししてきたでしょうから今度は私の番です」

 

 こんな状況なのに茶目っ気を出して言ってくるユウリ。昨日の今日で校長と話すのは大変そうだと感じていたキーツを気遣っての発言だ。それを素直に受けとる。

 

 「分かった、頼むぞ」

 

 「はい」

 

 「会長。私はここで調べものをする。気になることがあるから」

 

 パソコンのキーボードをカタカタと叩いていたチュリッシェがユウリと入れ違いに発言する。

 

 チュリッシェにはクーララ家の歴史と学校の歴史を調べてもらっている。何かの突破口になるはずだから。チュリッシェ自身も引っ掛かっている部分があるようだ。

 

 「分かった。二人とも頼んだぞ。さて、シドはどうするのだ」

 

 目を閉じ静かに自分の席にかけていたシドはキーツを見て小さく頭を降る。まだ今朝のことをひきづっているのは見て分かる。時間が経ってより深く感じてしまっているかもしれない。だからこそ、キーツは努めて何事もなかったように振る舞う。

 

 「俺はフェイロンという者を探してみたいと思う。もしかすると彼の父も一緒にいるかもしれない。選択肢は多い方がいいだろう」

 

 その言葉にシドは確かに頷いた。キーツだからこそ分かった違和感は女子二人には気づかれていないようだった。これならば大丈夫だろう。

 

 「では僕はクラスタに話を聞いてみたいと思います」

 

 みんな校長の身内を当たっていることを考えるとそれが妥当だろう。

 

 「そうだな、彼女はシドに好感を抱いているようだ。何か話してくれるだろう。それに彼女は校長先生と今も一緒に暮らしている。情報も持っているかもしれない」

 

 「はい。彼女の授業後当たってみます。それまでは色々動いてきます」

 

 「分かった。では、俺も行く。チュリッシェ、留守は任せたぞ」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 ユウリが和やかにチュリッシェがクールに手を降る。シドとキーツはそれぞれ調査を開始した。

 

 ちなみに今日からの三日間は授業には出ない。学生の本分は勉強と言われるかもしれないが、今はそれどころではない。これは校長にも了承を得ているし、生徒会メンバーも了解している。メンバー達は学園の成績がいいから三日くらいは問題ないはずだ。

 

 タイムリミットの四日目の朝まで間に合うように証拠固めが必須なのだ。時間はあった方がいい。キーツのその言い分を生徒会メンバー達は受け入れてくれた。

 

 それほど頑張ってくれているのだ、僕が一番に働かないと。シドは気合いを入れる。しかし、目的のクラスタはただいま授業中であるため別方向からの調査を行うことにした。

 

 「ここだな」

 

 シドはポケットから取り出した紙に書かれた住所を見て、一致していることを確認した。

 

 ここは校長の義理の娘の家。すなわち、フェルディールの妻で、クラスタの母親の実家である。

 

 現在クラスタは校長と二人暮らしで母親は実家に戻っていると聞いた。そのため、母親からも何か聞けないかと思いこうして訪れたのだ。

 

 二階建ての建物は水色の屋根があり小さな庭がある。全体的にはそれほど大きくはない、ごく一般的な家だ。シドはそれを確認すると、その家からいったん離れて魔道具を使用し始める。

 

 「チュリッシェ先輩、シドです。目的地と思われる場所まで着きました」

 

 「了解。シドはクラスタのお母さんの所だっけ?ちょっと待ってて」

 

 魔道具の向こうでキーボードを叩く音が聞こえる。チュリッシェは今回、生徒会室に残り外でそれぞれ行動しているメンバーに情報を与える役目をおった。彼女自身もそっちの方が性にあうと生き生きとしていた。

 

 通信には魔道具を使っている。文化祭の一件の後、生徒会メンバー同士の通信のために使用する目的で購入していたものだ。今朝届いたばかりの新品だ。

 

 それまでもメンバー同士のやり取りの方法はいくつかあったようだが魔道具が一番スムーズに連絡がとれることと身近にヨシュハという魔道具メーカーの御曹司がいたことで導入を決めた。彼がわざわざ朝届けてくれたようだ。

 

 シドは自分のがあるからと遠慮したが、皆の分があるからとユウリにちょっと強引に渡されたので、ありがたく使うことにした。

 

 「ええ、場所は間違いないわね。後は話ができるかだけど」

 

 「そうですね。突然向かっているわけですから」

 

 魔道具の場所でチュリッシェはシドの居場所を特定したらしい。これで場所の確信が得られた。

 

 「クラスタをつれていけば良かったのに」

 

 「彼女にはなるべく話したくないんですなにも知らないならその方がいい」

 

 「ああ、はいはい。相変わらずね。まっ、いいわ。とりあえず調べられたことを話すわ」

 

 チュリッシェは真面目に返すシドのことを軽くいなして本題にうつる。シドがチュリッシェに連絡をしたのは情報の提供をしてもらうためだ。

 

 「クラスタのお母さんの実家トゥルーベル家。現在はクラスタのお母さん、パトリシアさんとそのお母さん……クラスタのおばあちゃんね。ポーラさん、後、クラスタのおじいちゃんのマーディックさんの三人暮らしのようよ。今日の今の時間なら、パトリシアさんがいる可能性は高いと思う」

 

 「分かりました、ありがとうございます」

 

 「パトリシアさんが実家に戻った理由までは分からなかったけど、シドのとこのあの人……何て言ったっけ?」

 

 チュリッシェが調査対象の名前を忘れるなんてあり得ない。シドが拐われた件を根に持っていて名前で呼びたくないんだろうとシドは察する。

 

 「セスさんですか?」

 

 「そう、その人。その人が屋敷から出ていってすぐくらいにパトリシアさんも実家に戻っているようね。一波乱あったかもしれないし、気を付けなさい」

 

 「分かりました、行ってきます」

 

 「はいよ。そこなら多分大丈夫だから気楽にいきなさい」

 

 それで通信はあっさりと途切れた。他のメンバーのこともある。チュリッシェも忙しいのだろう。決して名残惜しいとかそういうわけではない。見ず知らずの女性を訪ねて家を訪れる行為に無意識のうちにためらいを感じていたのだ。

 

 ともあれあまりうろうろしているわけもいかず、シドは意を決する。クラスタに目的の家ノ前に行き呼び鈴をならした。

 

 数秒し中から誰かが扉を開けようとやって来たのが分かる。外を警戒するようにそっと開かれたドアの隙間から女性の姿が見えた。

 

 「どちら様?」

 

 「突然お邪魔してすみません。僕はプロトネ学園高等部のシド・クローバードと申します」

 

 ドアの外にいたのが小柄な少年という意外な来客にクラスタの母らしき女性は戸惑い気味に問いかけた。シドがプロトネ学園の生徒であると知るとドアが勢いよく開かれる。

 

 「プロトネ学園の生徒さんがわざわざ来るなんてクラスタに何かあったの!?」

 

 取り乱したような声と共に開かれたドア。その向こうにいた人物の姿が現れる。ショートカットの髪の色はクラスタを思わせる薄桃色だ。顔立ちも何となく彼女に似ている。シドは目の前の女性を落ち着かせるように笑って見せた。

 

 「いえいえ違います。この間プロトネ学園で文化祭がありまして、その時の写真を見ていただこうと思ってクラスタの代わりに持ってきたんです」

 

 「そうだったの」

 

 シドがポケットから出した写真に視線を向け安心したような女性は、まだ警戒は緩めてはいない。

 

 「あの子の代わりって……あなた、授業は?」

 

 その目はお説教する直前の母親の目だ。目ざとく気づいたシドは慌てることなく平然と嘘をつく。

 

 「僕は高等部なので、中等部のクラスタとは授業の日程が違うんですよ」

 

 「そうなの?まぁ、玄関先ではなんだから上がってちょうだい」

 

 女性はやや怪しんでいるような感じてはあったがシドを中に通した。

 

 「ありがとうございます」

 

 通されたリビングで薦められた椅子にかける。それとなく見渡したが、この家の他の住人の姿はなかった。

 

 「良かったらどうぞ」

 

 「すみません」

 

 お茶と菓子をシドと自分の前に置いた女性はシドの対面に腰かけた。

 

 「それで、目的は何かしら?学生さん?」

 

 「何のことですか?」

 

 流石に無理があったなとシドは悟る。そもそもクラスタともあまり面識がなかったのにこうして母親のところを訪ねるのが無理があった。彼女の表情がそれを物語っている。シドが答えかねていると女性は続けた。

 

 「ズバリ、当ててあげましょうか。あなたが今日ここに来たのはクラスタのことではないわね。あなたはシークレットジョブをしに来たのよね」

 

 まるで、クイズに答えるように彼女は溌剌と断言した。シドは苦笑を浮かべて対応する。

 

 「何で分かったんですか?」

 

 「だって不自然すぎるもの。クラスタのお友だちというわけでもなさそうだし。ましてや彼氏でもないんでしょ」

 

 楽しげな様子でにやにやと笑みを浮かべる女性にシドは慌てて否定する。

 

 「違いますよ!」

 

 「あら正直ね。嘘でも彼氏と言い張るかと思ったわ」

 

 「それはあまりにもクラスタにたいして失礼ですから」

 

 それはついてはならない嘘だとシドはそう思っていた。

 

 「なら答えは一つ。あなたはシークレットジョブでここに来た。私も昔は同じようなことをしたから分かるの」

 

 「……私も昔ですか?」

 

 シドの様子を伺うようにしながら彼女は語る。

 

 「そう。私はパトリシア・トゥルーベル。プロトネ学園生徒会OGでクラスタ・クーララの母親よ」

 

 少女のような無邪気な笑みを浮かべる彼女は、やっぱりクラスタに似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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